聖職者のメイス
全国販売を記念し、大型イベントの実装が決まったらしい。
内容について運営は言及しなかったものの、そのイベントは「戦争」で騎士団が主体となるイベントになると発表し、イベントに関する内容の詳細は後日追って連絡が入るらしい。
騎士団とはゲーム内における所属のようなもので、他には冒険者や傭兵、商人等、いわゆるギルドの様なものだ。
そしてここからが重要で、新マップが新しいイベントに向けて解放される、ということも同時に発表があった。
つまり新しいモンスターや新しい鉱石が手に入る確率が高くなるということで、それはすなわち鍛冶屋が忙しくなる可能性も高くなってくるということだろう。
なんでも「戦争に向けて新アイテムをゲットしよう」というキャンペーンが行われ、アイテムのドロップ率が通常の倍に設定され、手に入らなかったレアドロップが手に入りやすくなった今、プレイヤーはこぞって狩りに行くだろう。
新しいイベントは戦争。
であるならば戦争用の武器というものが欲しくなる所だろうが、しかし今現在戦争に用いられる武器のレシピは手元にない。
ほかの人は持っているかもしれないが、少なくとも今自分の手元には無い為、ほかの武器を作るしかないわけだ。
何を作るか頭を捻っていると、来店を告げる鐘が騒がしく泣き喚く。
「いらっしゃい」
入ってきたお客に目をやると、全身を布と鎧で包んだ僧侶のお客が入口に立っていた。
そこそこに良い値のする盾であろう盾を背負い、店の中を見回しながらカウンターに歩み寄ってくる。
「すいませんが、この店はメイスを作れますか?」
「ああ、自分で選びな」
「あっわかりました」
この店のカウンターには一冊本が置いてあり、その本で作れる武器や防具を調べることができる。
今回コイツが作ろうとしているのはメイス、見たところレベル的にも装備的にも中堅のようだ。
職人系の人間はある程度スキルレベルを上げると、共通で「特殊観察」というスキルを習得できるようになる。
これは相手の職業欄や武器、防具の鑑定を店の中であれば行うことができるスキルで、戦闘を主にこなす人間には馴染みのないスキルだろう。
「すいません、セイントメイスはどうなんでしょうか?」
「あんたのプレースタイルで変わるが、軽くて振り回しやすいぞ」
「聖職者のメイスとはどう違うんでしょう」
「セイントメイスはさっき言ったとおり軽く手数が多い、聖職者のメイスは重く一撃で沈める」
男は思案顔でセイントメイスと、聖職者のメイスのページを見比べている。
名前がついている武器は「ユニーク武器」で、敵がドロップするレシピで作ることができる武器だ。
あまり鍛えなくても使うことができる反面、伸びしろがあまりなく、最高火力は通常武器と変わらない為お手軽な武器とされている。
セイントメイスは石のガーゴイルから、聖職者のメイスは闇神官から、それぞれレシピを手に入れることができる。
「聖職者のメイスにします」
「あいよ、毎度あり」
ジョンハンマーでは、代金をかなり多めに出して素材をこちらが準備し作る方法と、素材を出し代金を安めに済ませる方法がある。
今回この僧侶は素材を持っていたようで、素材と代金を置いて店を出て行った。
やはりイベントまであと僅かになり、キャンペーンにおける凌ぎも苛烈になっているのだろう、頭から足まで全身を鉄に包み素材を取りに行った時の人の多さには驚いたものだ。
ダンジョンに入ってしまえば個別に挑むことができるため、他人とかちあったりすることはないが、それでもそこに行くまでの人の多さは凄まじいものがあった。
メイスは柄に槌頭をつけた複合素材で作られた物をさすため、棒に石をくくりつけた物でもメイスと呼ぶことができる。
しかし、一般的にメイスといえばポールに放射型のプレートがついたメイスヘッドをつけたものを思い浮かべる事だろう。
この武器は非常に殺傷能力が高く、武術の心得がない人間が使っても、絶大なダメージを与えることができる大変危険な武器である。
この武器は元々聖職者達が血を流す刀剣武器を使えなかった、だから職杖としてメイスを持ち歩いたのだ。
その為メイスは聖職者が持っている武器、という風に認識されているが、杖と言い張っている、何度も言うが聖職者の職杖なので何の問題もないのだ。
聖職者のメイスは、ミスリルに鋼鉄と聖職者のカフス、それに聖なる布の三つを使って作る武器だ。
まず鋼鉄を熱してメイスヘッド用の板を六枚作っていく、この時中央少し上に突起ができるように整形していく。
この六枚の板は全く同じ形にしなければ、振った時に重心のブレを引き起こし、破壊力を低くしてしまうし、その結果妙な力の加わり方をし壊れやすくなってしまう。
六枚の鋼鉄の板を一旦冷やし空締めを行い、生砥ぎをして形を整えていく。
ここできちんと六枚全てが同じになるように、慎重にかんなを入れ、砥ぎをいれていく。
「何作ってるんですか?師匠」
そんなこんなしている時に弟子が来ていたようで、作業が一段落したのを見計らって話しかけてきた。
良く気を使って作業の合間合間に話しかけてくる弟子、なんだか見ていると実家の毛並みのいい犬を思い出す。
「聖職者のメイス、ユニーク武器だな」
「そうですか・・・とっ所で何故私の頭を撫でてらっしゃるんですか?」
「お前は綺麗だと思ってな」
本当にきれいな髪だ、現実ではなかなか見られない程綺麗な髪も、ゲームの中ではよく見ることができるが、特別弟子の髪は輝いて見えるあたりエルフ補正とはすごいものだ。
髪を褒められたのが嬉しいのか、弟子は髪をいじりながらクネクネしている。
その腰、非常によろしい。
クネクネしている弟子の横を抜け、ミスリルを聖銀にする為に必要なまじない用の紙を準備する。
「弟子、ミスリル用のまじないを教えるから来い」
「あっはい!すぐ行きます!」
紙は教会で買うことのできるもので、紙を聖水に浸けて乾かすのを複数回繰り返し、祝詞をあげ祝福を与えた特殊な紙で、この紙に羽ペンを使って与える効果を書いていく。
付与したい内容を紙のどこでもいいので、ペルシア語で書き込んでいく。
ペルシア語と解説の入った補助システムを本型デバイスを開いて、その中から必要な言葉を探していく。
「この硬化と破魔を書いてみろ」
「はい、わかりました」
「失敗してもいいからしっかりかけ」
弟子が震える手でペンを持つ、最初は緊張するもんで、俺も何枚紙を無駄にしたかわからない。
緊張は前にも言ったとおりバッドステータスを引き起こしてしまう、声をかけようとしたその時、ペンを一旦置いた弟子は自分の頬を叩き気合を入れる。
その時に見せた表情は職人のそれで、弟子も日々成長しているのを感じる。
「行きます!」
丁寧に複雑なペルシア文字を書き込んでいくその手には、既に緊張から来る震えはなく、ただひたすらに紙に向かう意志が感じられる。
書きあがった紙を一度置いておき、次に焼入れのための聖炭を用意する。
「これは聖炭、聖なる火を起こしミスリルに祝福を与えて聖銀に変える」
「それはどこで手に入れればいいんですか?」
「石炭か木炭を聖水で蒸せばいい」
「わかりました」
「まぁ教会でも買えるから気にするな」
聖炭には特に火をつける上で気をつけることはない、冷炭や雷炭のように特殊なアイテムを使い火をつける必要はない。
聖炭に火を点け、火が回るのを待っているあいだに、ミスリルでできたポールの歪みや、綺麗な円柱になっているかを確認していく。
聖炭に火が回ったのを確認し、ポールを紙で包み焼入れの準備をする。
焼入れの際に必要な事としては、祝福の祝詞を読み上げて祝福を与えるのを助けてやることだ。
聖典を取り出し必要なページを開け、弟子に渡す。
「今回は祝詞を読んでみろ、焼入れは俺がしよう」
「わかりました、慣れたら何時も通り一人でですか?」
「ああ、いつも通りだ」
焼入れを開始する。
聖銀の焼入れは何度見ても不思議な気持ちになる、紙が火を纏うかのように一気に広がり、少しずつ少しずつ光となってミスリルに吸い込まれていく。
その姿は祝福といっても過言ではない現象で、そこに弟子の上品なアルトが響き、ここは教会なのだろうかというほど神聖な空気が漂っている。
焼入れを終えたポールを磨き、同様に磨いた鋼鉄の板をメイスヘッドに沸かし付けしていく。
それを終えたらメイスヘッドとポールを沸かし付けし、グリップに聖なる布を巻く。
カフスをバットに埋め込むなど、作り込みをしていく。
「完成だ」
「師匠と私の初めての共同作業でしたね」
「そうだな」
可愛いことを言うやつだ、こいつのこう言う所がこの店を華やかにしているし、弟子目当てで来る客もいることの所以だろう。
聖なる歌の聞こえる店「鍛冶屋ジョンハンマー」時にその声は低く壮大に、時には明るく可憐に店を満たす。
それには、慈愛に満ちた響きも含んでいた。
体調を崩し、最低限の感想がお返しできていません。
必ず返信いたしますので、気長に待っていてください。
今日は少し投稿が遅れてしまいました。
なるべく毎日更新するよう心がけていますが、今日のような日もあるのが現実です。
どうかご理解いただけると嬉しいです。
日間三日連続一位ありがとうございます。
四半期にも載り、なんだかプレッシャーで全裸になりそうです。
これからもリアローフオンラインをよろしくお願いします。
ご感想、誤字脱字のご報告よろしくお願いします。




