鉄のカトラス
太刀魚という魚を勿論皆知っていると思う、泳ぐ際に垂直に泳ぐのが特徴の白身魚である、塩焼きにするのが俺は一番好きなんだが。
それはいいとしてこの太刀魚は、その名の通り泳いでいる姿がまるで太刀の様に見えることから太刀魚と呼ばれる魚だ。
では皆はカトラスフィッシュという魚を知っているだろうか、この魚はお察しの通り西洋で言う「太刀魚」のことである。
つまり西洋ではカトラスと呼ばれる剣に似ていたため「カトラスフィッシュ」という名前を付けられたのである。
カトラスは映画で海賊が持っているのをよく見る、大きなガードに短い剣身の曲剣である。
15世紀より使われている剣で、混戦に合わせるように発展していった、例えばナックルガードを大きくするのは混戦の中手を容易に傷つけられないようにする為で、剣身が短いのはフレンドリーファイアを防ぐためであり、先端は擬似刃にし突ける様にするなど、このように改良を重ねて作られてきた歴史ある武器である。
それだけの改良をされるということは、船乗りに長く愛されていたという何よりの証拠であり、同時にこの剣が非常に扱いやすい剣であったという事の証拠でもある。
中東国家の騎兵も使っていたというこのカトラスは、耐久値も高く多少荒い使い方をしても問題がない、現にサトウキビの収穫に使われるなど鉈のような使われ方もしていた。
元々叩き切ることに向いている剣だから、切るということにも優秀であり頑丈な剣あったことが、カトラスが農機具として使われる一つの要因にもなっただろう。
つまりカトラスは、海の男たちの愛用する武器であり、男のロマンということである。
「弟子、この依頼やってみるか」
「どの依頼ですか?」
店内の掃除をしていた弟子が、工房の入口に立っている俺のそばまで駆け寄ってくる。
揺れる思い、眼福である。
「鉄のカトラス+を10本・・・ですか」
「できるか?」
「やらせてください」
「・・・頼んだぞ」
シュタイン商会から弟子宛の依頼で鉄のカトラス+を10本という連絡が入った、弟子にもそろそろ仕事を経験させるのもいいだろうと思いシュタインに仕事を貰った。
弟子も鉄製武器を打てる程度には技術もつけているし、最近ではもうインゴットを鍛えるのにも慣れたようで、上質な鉄のインゴット+までは行けるようになった。
鉄のインゴットは上質な鉄のインゴットまで鍛えることにより鉄製武器を打てるようになる、大体の人間は鉄製武器の製法を見つけることもできず、当然打つことができずに辞めていくことになる。
「カップガードのある物が5本、ないものが5本だ」
「分かりました、ポメルへの刻印はどうすればいいですか?」
「ああ、今回は剣紋章でいい」
「いいんですか?ジョンハンマーへの仕事なんじゃ?」
「よく見ろ、お前宛だ」
食い入るように注文書を見ている弟子、うちの店では注文は注文書へと書き込んでいく。
その方が打っている最中にウィンドウを開く必要もなく、作業中に煩わしい行動を取らなくてもいいからこの様な形をとっている。
「私宛・・・ですか」
「ああ、頑張れよ」
「っ・・・はい!!」
弟子は注文書を大切そうに胸に抱きながら、俺に素晴らしい笑顔と共に返事をする。
俺が注文書だ、と思いつつ弟子の頭をひと撫でしながら脇を抜け、カウンターに立てかけてあったモップを手に取る。
「今日はもう使わない、好きに使え」
弟子が途中までやっていた掃除の続きを始める、弟子が一人前に近づいているという事実に嬉しさがこみ上げる、しかし同時に出て行く時期が近づいてきて寂しくもあり、また自分よりも飲み込みが早いことに悲しくもある。
複雑だが、こんな感情もいいもんだ。
掃除を終えて工房の中に入る、弟子は既に鍛冶の準備を始めていて、ホドに火が入り道具もきれいに並べられている。
入口近くに置いてある丸椅子にすわり、弟子の背を見ながらアイテムボックスの整理をしていく、どことなく既視感のある背中を横目に整理を進めていく。
弟子が十分に焼けた上質な鉄のインゴットを叩き始めると、熱せられた鉄にあてられ一気に室温が上がっていく、この暑さも音も聞き慣れたもので落ち着く。
弟子は既に鉄製+武器を作るために必要な上質なインゴット+を叩き伸ばしていく、カトラスは剣身が短いため40cm程度緩やかに曲げながら伸ばしたら、今度は少し強く曲げていく。
鉄製武器は加工がしやすく、ゲーム内であれば鍛造でも大量に作ることが可能で、シュタイナーのような大型の販売店にとっては嬉しい武器である。
強く曲げていく際には曲げすぎないように注意しながら、焼入れが入った際にカトラスらしい曲線が出るように作っていく。
それが終われば火造りを行う。
火造りは剣身形を整えていくことで、側面は平になるように形を整え、今回は日本刀ではないため棟は丸くする、その後鎬地の形を整える。
整形を終えたら、剣身があずき色なるまで熱を加えその後に徐冷する、ここまでくれば完成は目の前だ。
打ち上がった剣身を荒く研いで行く、どうやら成功したようだ、ここからは調整しながら剣身のバランスを整えて、歪みがないかも確認しながら仕上げていく。
剣身を磨き棒で磨き上げ鏡面加工を施していく、非常に綺麗な鈍色が見え始めている、成長したなと思いながらそのうしろ姿を見つめる。
「出来た」
弟子は剣身を掲げながら小さく呟いた、その小さなつぶやきにはとても大きな感情が詰まっているように感じた。
あの後弟子は九本の剣身を一気に打ち上げてしまった、そのスタミナは流石で、俺と一緒に延々とインゴットを鍛え続ける、という半日を費やす修行に週三日付き合うだけのことはある。
とっくに空は夜を纏っていて、月が浮かんでいる時間になってしまったので、残りは明日にしろと言って弟子を追い出した。
静かな工房に鍛冶師が立っている、その手には弟子が打った剣身が乗っており。
その剣身を見る目は、とても穏やかであった。
二日連続日間一位ありがとうござます。
あまりの事に現実感がありません。
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