火鋼鉄のクレセントアックス
金属を研ぐ音が工房に響く、三日月の形をしたアックスブレードをゆっくりと研いでいく。
三日月の形には歪みがなくどこまでも綺麗な流線を描いていて、そこに砥石を這わせて修復した刃の形を整えていく。
この武器は耐久値が非常に高くなかなか壊れない武器だ、どこまで無茶をすればこの様な状態まで壊れるのか。
刃こぼれを起こし細かい傷がいくつも走り、持ち手のポールは完全に折れている、しかし幸いにもヒビは入っておらず修復は可能な状態だった。
もしヒビが入っていたらどうしようもなかった、欠けただけであれば鉄を当てて鍛えればいいし、傷は研いでやればなんということもない。
いままでの特徴から分かるとおり、この武器はクレセントアックスである。
弓なりの曲線が非常に美しく特徴的なこの武器は、14世紀ヨーロッパのイタリアで使われていた、その頃のイタリアは群雄割拠の時代で、傭兵が各地に溢れていた。
イタリア軍が使っていたクレセントアックスをドイツ人傭兵が持ち帰り、研究、発展を繰り返し東欧や北欧に広まっていった。
この斧は叩きつけて切り捨てる、という斧では最も強力な攻撃を繰り出すことに関し、そのアックスブレードの広さから、このクレセントアックスが斧の特徴を最大限引き出せるということは想像に難しくないだろう。
パーティにおいてもその恩恵は凄まじいものがある、一撃で相手を怯ませるほどの威力にほかの斧よりも軽いことからくる取り回しのしやすさ、パーティに一人クレセントアックス!といった所か。
「上鋼鉄ってのはどうなんだ?オヤジ」
「・・・折れず曲がらず魔法もよく通る」
「魔法ってのは性に合わねぇな」
「火鋼鉄なんてのはどうだ?」
火鋼鉄とは、前にも出た通りファイヤードラゴンのウロコと上鋼鉄に合わせて鍛えて出来上がる赤い鉄で、その最大の特徴はマジックエンチャントにある。
切り口から発火し小規模の火を起こす、その威力は微々たるものだが火傷のバッドステータスを引き起こし、尚且つうまくいけば相手に火をつけることも不可能ではないため、決して馬鹿にはできない。
目の前にいる男はダイナスという重戦士。
丸坊主の頭に極悪犯罪者顔、さらにその身を包むのは黒王鬼のブラックレザーアーマーと、どこの山賊かと言いたくなるような風貌で、クラン「エルレイ騎士団」のたしか副隊長だったはずだ。
「火鋼鉄?なんだそりゃ」
「上鋼鉄にファイヤードラゴンのウロコを合わせて鍛えるとできる鉄だ」
「そうか、でどうなるんだ?」
「マジックエンチャントによって相手を切りつけた時に、その切り口に対し特殊な魔法付与を・・・」
「手短に頼む」
そういえばこいつは、人の話を聞かないことで有名だったな。
「・・・切ったら火が出る」
「そいつをくれ」
「毎度、できたら連絡する。」
ダイナスが出て行ったのを確認し、工房に入っていく。
今日は弟子が用事のため不在で、どうにも店内も工房も寂しさが漂っている、いつの間にやら弟子がいるのが普通になってきているようだ。
弟子もいつかは独り立ちしこの店を出て行くのだから、やはりその時の覚悟はしておかなければならないだろう、いざとなったら泣いてしまいそうだ。
火鋼鉄のインゴット++を取り出し並べていく、クレセントアックスではインゴットを三つ消費して作るのでかなり値が張る、もちろんそれに見合った火力や美しさはあるが。
火鋼鉄の特徴は火が入りやすいことで、すぐに叩くことができる、しかし逆に叩きづらくなる理由も存在する。
この火鋼鉄を叩くと、そこから火が吹き出すのだ、その火をある程度制御するためのまじないを彫金で施すまでは、吹き出す火と戦いながら打たねばならないため、非常に作り手の少ない鉄と言えるだろう。
ちなみに他にも雷鋼鉄、氷鋼鉄の存在を確認しており、どの鉄も制御のまじないを施さなければまともに使うことすらできないだろう。
ひと叩きする度に火が吹き上げる、流石に普段の作業着では燃えてしまいダメージをもらってしまうため、火竜革の服を着て何度も叩いて弓なりのアックスブレードを作っていく。
綺麗な曲線を目指し火の上がる鉄を睨みつけ、鉄と格闘を繰り広げる。
工房の中がまるで火山かのように暑くなっていく、この暑さは反則的だ、長袖に長ズボンを着ている俺にはこの熱は殺人的で、そのことを振り払うかのように鎚を振るう。
出来上がったアックスブレードに制御のまじないを彫金していく、彫金は非常に気を遣う作業で、少しでも自分のイメージから離れてしまうと、まじないが意味を持たなくなってしまう。
まじないを施すときは最低限彫らねばならないルーンをどのように繋げていくかが肝で、俺は魔法陣の形に収めながら掘るというスタンダードな彫金ではなく、模様になるように掘っていくというスタイルをとっている。
今回はケルト模様を発展させた物を彫り込んでいく、火の制御に必要なルーン文字はlaguzにansuzの二つで、この二つを隠すように模様を入れていく。
彫金の終わったアックスブレードとアックスヘッドを沸かし付けするための準備に取り掛かる、アックスブレードの接着面にしっかり熱を加えて固定し、アックスヘッド側の接着面にも同様に熱を加える。
この二つがしっかり接着するように、空気が入る隙間がないか等を確認し、それから鎚を振るいくっつけて行く、もう火が上がることはないが、それでもそれなりの火花が出る。
きちんと接着できたことを確認し軽く磨き上げる、ポールを作るためにトレントロードの原木を削っていく。
ダイナスのグリップは体が覚えている、あいつはアックスヘッドの近くを握り込み、叩き付ける時に握った手を下へスライドさせ全身全霊で叩き込む、防御はポールで受け止めるという立ち回りをする。
その為ポールは下を少し出っ張らせグリップしやすくするのがいい、木はトレントロードの原木で固くあまりしならないのが特長だ。
できたポールとしっかりと磨き込んだアックスヘッドをはめしっかりとはめる、あいつは無駄な装飾は好まないのでこのままでもいいだろう。
裏庭にある木像を叩くと傷口から発火し、傷口の周りを少し焦がす。
「完成だ」
出来上がったクレセントアックスは調節した後、ダイナスへと渡された。
弟子はどうもクレセントアックスが好きなようで、打ち上げた火鋼鉄のクレセントアックスを見て。
「なんでさっさと打っちゃうんですか師匠!見たかったのに!」
と言われ後日もう一度打つところを実演することで話がついた、もしかしたら火鋼鉄の打ち方を学びたいのかもしれないな。
「鍛冶屋ジョンハンマー」の工房からは時折火が上がっている、それを見たプレイヤー達はバグって鉄が火を噴いていると噂をした。
今はその噂も払拭されている、しかしその火に包まれながら打つ姿から、NPC説に拍車をかけたのは当然のことであった。
日間一位、という素晴らしい結果が残せました。
もう私に思い残すことはありません。
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もう突然こんなことになって、何が何やらといった感じで混乱しています。
この小説が、こんなにたくさんの人に愛されると思っていませんでした。
読んでいただき、本当にありがとうございます。
感想、誤字脱字の御報告等お待ちしております。




