ダマスカスのレイピア
珍しくエリーゼから注文を受けた、ダマスカス鋼で打ったレイピアを四本、別々のデザインで注文が入る。
彼女たちは基本的に抽象的なデザインを伝えてくる、それはそれで非常に楽しいものがあるので別段不満ではないが、大変であるということに関しては違いがない。
その点シュタイナーは実用的なものから、装飾のついた煌びやかな物もこちらに任せてくるので、楽といえば楽だが、やはり大変なことには変わりない、なぜならシュタイナーは数を注文してくるからだ。
ダマスカス鋼を作り上げることに成功した俺は、あれからダマスカス鋼の取り扱いをマスターするために延々と、鉱山と工房を往復する毎日を送っていた。
弟子には付き合わなくてもいいと言ったんだが聞く耳を持たず、毎日のように俺の後ろを追いかけていて、まるで一昔前のRPGゲームのように過ごしていた。
弟子もあれから随分成長している、最近では鉄の扱いにも戸惑いはなくなり、自然に鉄を鍛えられるようになってきた。
インゴットも鉄であれば上質なインゴットに持っていくことができるようになり、剣自体も素人臭さが抜けて職人の技も見え始めた、本当はもう一人前の鍛冶師として認めてやるべきなのだろうが、なんだか悔しいので一人前一歩手前の二流として扱っている。
事実まだ装飾の腕も今一歩というところだし、鋼鉄に関してはまだまだ扱いきれていない、そういった面を鑑みてもやはりまだ二流の域を出ないだろう、と自分に言い訳をする。
いや決して鍛冶をしている弟子のたゆんたゆんな二子山を見れなくなるのが惜しいとか、色々と店内を改造してくれて店の売上にも貢献してくれるとか、弟子が居ると店の中が華やかになって居心地がいいとかそういったやましい気持ちはない、断じてない、多分。
ダマスカス鋼の上質なインゴット++を取り出す、インゴットの中でも最上級に分類される上質++は非常に作るのが面倒くさい。
普段やる工程の二倍近い時間をかけて折り返し鍛錬を行い、焼きなましの時も非常にシビアなタイミングを要求される。
このインゴットを四つ作るためにどれだけの時間をかけたことか、まあこういった失敗を重ねる事が重要だと知っているから、大して苦にはならなかったが、弟子はそうでは無かったようで。
形のいい眉を歪めて正座をしながら、何故か目の前に置いたインゴットと睨めっこをしていたのは記憶に新しい。
インゴットをホドに入れ加熱していく、レイピアを作るのでナックルガードをしっかり作りこまなければいけない。
現実ではロングソードやバスタードソードには効果のない絡め取りだが、ここはゲームの世界だから使うことが出来るので、しっかりと絡め取るためのナックルガードを作る準備に取り掛かる。
インゴットがしっかり燃えているのを確認し、取り出してから形を整えていく、いくつかのパーツを最終的にガードへ接着してナックルガードを作るため、パーツごとに鍛錬していく。
これを4セット作っていく、この部分は殴る等打撃が出来る様にしっかりと作っていく、普段作るよりも時間をかけて作っていく。
次に剣身を整形していく、ダマスカス鋼の特徴は強靭であるということで、伸ばすのにも絶妙な力具合がいる。
強く叩いてしまうとせっかくの木目模様が汚くなってしまうし、逆に軽く叩いてしまうと粘り強さが損なわれ折れやすい剣になってしまう。
細く長く剣身を整形していく、その過程でリカッソを作りそこから剣身の幅と厚みが一定になるように形を整えていく。
ここが一番難しい、何故なら少しでもどこかに鉄が偏れば突く際に狙いが定まらず、全く使い物にならないレイピアが生まれてしまうからだ。
ポイントは何よりも鋭くなるように、慎重に作り上げていく。
ここで重要なのはポイントを長すぎず短すぎず、丁度いい長さで作らねばならないということ、長すぎれば折れやすく短すぎれば突きづらい。
この二つをクリアする長さを探りながら作っていく、剣身がどこまでも鋭く何もかもを突き通さんかのような様相になる。
打ち上がった剣身達を磨いていく、ここからは弟子も加わり仕事が楽になっていく、弟子は動きはまだ遅いがきちんとした仕事をこなすようになってきた。
磨き上がった剣をよく見直ししっかりと磨き込んでいく、この時に少しの歪みも許さずに仕事をすると綺麗な木目状の独特な模様が浮かび上がってくる。
「綺麗・・・」
「これぞダマスカス、だな」
仕上げに彫金を施していく、弟子は隣で自分の手元を覗き込んでいる、最近男として意識されていないのか非常に距離が近い。
一つは丸さ強調して、一つはトゲトゲしく、一つは豪華に、そして一つは華美にはせず質素に作り上げていく。
一つ一つ丁寧に彫金を施し、出来上がった物を組み合わせていく、ポメルは弟子が同時進行で作っていたためすぐに完成させることができる。
赤を基調にし黒鉄で装飾を施した鞘に収め、赤目牛の皮で作ったベルトを四本作る。
「完成だな」
「はい、やっと完成ですね」
少し不機嫌な声で、弟子は出来上がった剣を並べ、ベルトに通して固定する固定具を確かめたりしている。
流石にこの仕事はこたえたようで弟子は背伸びをする、突き出された二子山に目が吸い寄せられてしまう、眼福。
剣身に最後の彫金を行う、「エリーゼ」「ナンシー」「アナスタシア」「レニ」の名前をそれぞれの剣に刻んでいく、そしてクラン名の「Schwarzes Kaetzchen(黒猫)」という文字も掘っていく。
あとは待つだけだ、いい仕事が出来た事と久々に友人に会えることなどが重なり、上機嫌でカウンターに座る。
横に座っている弟子は未だに不機嫌なようで、どうすれば機嫌を戻してくれるだろうかと思案する。
その少しあと、ジョンハンマーに四人の女性が入っていき、その女性の中のひとりがジョンに抱きつきちょっとした修羅場が生まれてしまう。
鍛冶屋ジョンハンマーは、今日も賑やかである。
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もうなにがなんだかわかっていません。
なんか、よくわかりませんが吐きそうです。
皆さんにこれだけ楽しんで頂いていると思うと、とても不思議な気分です。
これからも、読者の皆様のご期待に添えるように精進したいと思います。
どうぞリアローフオンラインをよろしくお願いします。
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