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魂の居場所(ありか) ~リアルとバーチャルの境界線~  作者: りす
第一章 リアルとバーチャルの境界線
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勝利の報酬

 放課後、黒曜石は俺の側転プログラムで華麗に舞い、奏が自ら会得した側転で淑やかに舞う。

 二つの側転は、昨日より減ったギャラリー中に小さな拍手を巻き起こした。

 奏は黒曜石の姿で深々と礼の仕草を行い、メティスに戻ると満面の笑みで飛び跳ねる。

 一緒になって喜びたい気分だったが、自分で構築したプログラムという名目上そうもいかない。


「ありがとうございました」


 黒曜石と同様に礼を言うと、その場を解散とした。

 興味を持ってくれた友人からの質問を受けていると、手を振りながら電算室を後にするゆりかの姿が映る。

 その顔が笑顔であったことに、ほっと胸を撫で下ろす。

 ゆりかは、今日は一人で来たようだった。手を振り返してから、途中まででも一緒に帰れないかと考える俺の名前を翔が息を切らせながら呼んだ。

 今まで姿を見せていなかった翔は、ゆりかの去った扉とは逆の扉から電算室へ入って来たところだった。


「優斗、事件だ!」


 翔は俺の腕を掴むと、電算室から引きずり出そうとする。


「お、おい」


 腕を振り払い、翔に向き直る。


「事件だって?」

「ああ」


 翔が真剣な表情で頷く。事件と聞くと体がうずく。

 俺は翔の話を聞くことに決めた。

 建物を出た翔が自動販売機の前で立ち止まり、コインを投入した。


「何がいい?」


 裏がある。直感的にそう思った。

 翔は自然な装いで問い掛けてきたが、行為そのものが不自然だった。

 なんでもない時にわざわざジュースを奢ったりはしないだろう。

 無言で翔の反応を伺う。

 翔は微糖のコーヒーを二つ買うと、一つを投げて寄こした。


「どういうつもりだ?」

「お前、そいつでロボットドールコンテストに出るんだったよな?」


 俺の質問には答えず、翔が話を進める。


「……もちろん」

「勝ってくれ、そして優勝したら、俺に最優秀賞の賞品を譲ってくれ」


 最優秀賞賞品、限定メタリックカラーの黒曜石。

 今までに翔が黒曜石を話題にすることなどは無かった。


「翔、お前もついに黒曜石の魅力に気づいてくれたか? しかし、あれはやれん。つかコーヒー奢られたくらいでやれるか、ふざけんな」

「違う、そうじゃない」


 翔が首を振ると、鋭い眼差しで口にする。


「俺もさっき裏から入手したばかりだけど。今夜、新しい最優秀賞賞品の発表があるらしい」

「新しいって、最優秀賞賞品が黒曜石以外にあるかよ。だいたい、今更なんで?」

「弔いかな」

「は?」

「月から舞い降りた歌姫、天上の聖女、俺の嫁」


 恍惚とした表情で、翔が月に向かって手を伸ばす。


「優月奏、追悼記念。第三弾ロボットドールとして開発が噂されていた『奏』のプロトタイプだ」

「なんだって?」「なんですって?」


 俺と奏の声が重なった。


「黒曜石とあれを同レベル扱いすんのか? 特別賞くらいにしとけよ」

「優斗、それよ。それにしよう、わたしの体!」

「奏ちゃんの魅力が分からないなんて、人生損してるぜ」

「黒曜石の魅力が分からないなんて、浪漫のない男だな」


 と、睨み返す。


「まあ、そう言うんじゃないかと思ってたけどな。そこで、お前にこれを授けるぜ」


 言うが早いか、翔からメールが届いた。


「こんなところで布教活動かよ」


 舌打ちしてメールを確認する。


『HolyBible』という圧縮ファイルが添付されていた。


 ……怪しいこと、この上ないファイル名だ。

 奏の件で痛い目を見たからな。

 添付ファイルには最新の注意を払わなければ……。


「変なもの仕込んでないだろうな?」

「当たり前だ、創作の神が俺に与えた癒しの書だぞ。これでお前も奏ちゃんの虜になる」


 言いたいことだけ言って満足したのか、翔は手を振りながら去っていった。


「百歩譲って虜になったらなったで、お前に譲るという選択肢は無くなる訳だが?」


 誰もいなくなった空間に向かって呟く。


「えー、なになに?」


 奏が興味津々の声を上げる。

 待て、と言いかけた俺を無視して、圧縮ファイルの展開ゲージが上昇していく。

 俺は溜息をつきながら、缶コーヒーを一口飲む。


「――触手魔王ぬるん×魔法少女 奏」


 奏がいきなり訳の分からない言葉を口にし、俺はコーヒーを噴き出した。

 通りすがりの女子生徒の視線が痛い。

 それが、翔の言う『癒しの書』のことだと理解するのに数秒の時間を必要とした。

 触手の王様なのか、魔王が触手持ちなのか?

 どちらにしても……。


「優斗、魔法少女だって。――ちょっと、憧れてたんだ」


 奏が嬉しそうにはしゃぐ。

 このまま、放っておいたら危険だな。


「おい、中は見るなよ」


 釘を刺しておく。


「どうして?」

「多分、お子様向けじゃなからな、それ」

「なによ、子ども扱いしないでって言ってるでしょ?」


 ああ、この台詞は火に油だったか……。


「お前の為に言っている」


 とは言ってみるものの、奏が素直に従うとは思えなかった。

 そして、手を触れることができない以上、俺に彼女を止めるすべはない。


「うわっ、優斗、コスチュームがえっちだよ。変身して胸、おっきくなってるし」


 ホントに読み始めたか。奏は魔法少女になった姿を俺に向かって解説する。


「マジカルロッド、スリーディバイド!」

「すごい三節棍さばきで一網打尽だよ! なんかイメージと違うんだけど……」


 打撃!? って魔法少女じゃなかったのかよ。


「何あれ、ぬるん、気持ち悪い。ぶよぶよで攻撃効かない。あっ、絡みつかれた」


 奏がうろたえた声を上げる。


「え? やっ、やだ、服が溶けてる!」


 ちょっと面白くなってきた。

 おぉぉ、やばいぞ。

 奏、大ピンチ。


「じゃなくて、何これ優斗。助けて」


 嫌なら、読むのを止めると言う選択肢がないのだろうか?


「いやぁぁぁ」


 奏が絶叫した。

 愚かな。

 荒い息を吐き、真っ赤な顔でその場に崩れ落ちる。


「――優斗、こいつ焼き殺してもいい?」


 どこかから生み出したのか、奏は銃口が大きく開いた火器を構えた。

 火器の根元には小さなタンクが接続されている。

 火炎放射器というやつだろうか?


「いや、せっかくなので、ちょっと読んでから……」

「へる・ふれあ!」


 言葉と共に火炎が吹きすさび、ファイルを焼き尽くす。


「おい」

「ちゃんと聞いたもん」


 顔を真っ赤にして、涙目になった奏が訴える。


「だって、あんなの見られたら……。もうわたし、お嫁に行けない」


 まあ、今回は奏が正しいか……。


「だから言っただろ、見ないほうがいいって」

「不潔よ、信じらんない。あんなもの全部焼き尽くしてやる」


 怒りに体を震わせ、奏は復讐を決意するのだった。



 自宅に戻って夕食を終えた俺は、ロボットドールコンテストのホームページにアクセスする。

 最優秀賞賞品を確認すると、翔の言うとおり賞品が一つ追加されていた。


『1/8ロボットドール 優月 奏 プロトタイプ』第一弾、第二弾のドールと同様に完全電子稼動の奏だった。

 掲載されている写真を見て俺は驚愕した。


 白い刺繍が所々にアクセントとして施された朱いワンピースの少女。

 全身稼動の人型ドールであるにも関わらず、露出した肩や膝は関節パーツが剥き出しになっていない。

 伸縮性のある樹脂で覆われた肌は艶があり、見るからに柔らかそうだった。シルクゴールドの髪やワンピースも、動くことを前提にして、柔らかな素材で作られている。

 実物のドールを写真に撮ってるだけに、3Dモデリングされた今の奏以上のリアルさだった。


「やったあ、お気に入りの服だよ。ね、優斗」

「ああ」と、相槌を打つ。

「優斗、これに出るの? 出よう!」


 今日一番のハイテンションではしゃぐ奏。

 しかし、残念ながら俺の目当てはこいつじゃない。

 ページを戻り、限定黒曜石を表示する。


「出るけど、俺はこいつを貰うからな」

「くろちゃん? もう持ってるじゃない!」

「よく見ろよ。メタリックカラーで光沢が全然違うじゃないか。人工筋肉や内部も量産品よりも質が高いし」

「わたしのプロトタイプだって、量産品とは全然違うよ。肌の材質とか、服の素材が特別って書いてたじゃない」

「黒曜石!」

「わたしの体!」


 睨み合う俺たちの間にメティスの着信音が割って入った。

 表示を確認する。翔だ。


『優斗、見たか?』


 繋がるなり翔が問いかける。

 癒しの書のことだろうか? 最優秀賞賞品のことだろうか?


「ああ、確かに増えてたな」


 書は奏が燃やしてしまったから、最優秀賞についてだと思うことにした。


『だろ? それからもう一つニュースだ。さっき、動画サイトにアップされた奏ちゃんの動画がすごいんだ。めちゃくちゃ可愛いから見てく……』


 ああ、うっとおしい。

 俺は接続を切った。

 その様子を、着信を聞きつけてメティスに入り込んできた奏が含み笑いを浮かべて聞いていた。

 翔のことをぼこすかに言いながら帰宅していただけに、何か違和感を感じる。

 だが、それよりも……。


「よし、じゃあ、勝負するか?」

「勝負?」

「じゃんけんで勝負だ!」

「嫌よ、そんな運まかせな勝負。やるなら実力で勝負しないと」


 俺以上にやる気満々だった。面白い。


「なら何がいいんだ? 何だってやってやるぜ!」

「トランプよ」

「何!?」

「神経衰弱」

「そんな子供の遊び」

「何言ってるのよ、全国大会だって開かれてる立派な競技よ。それに……、もう大人のお兄ちゃんにだって負けないんだから!」


 誰のこととを言っているのかは知らないが、そこまで言うならやってやろう。


「分かった。だが条件が一つある」


 俺は机の引き出しを開け、奥から青いチェック模様が入ったトランプを取り出した。


「ソフトウェアのトランプはなしだからな、こいつで勝負する」

「望むところよ」


 言葉と共に黒曜石が動く。

 肩に手を当ててぐるぐると腕を旋廻させる。

 俺はトランプをシャッフルさせると、七並べのように横に十三枚並べる。

 二列目に入ったところで、


「ジョーカー入れたら、五十四枚になるから綺麗に並ばないよ。6×9がいいんじゃない?」

「うるさいな、綺麗に並べるゲームじゃないだろ」


 神経衰弱は三人以上だと隣のプレイヤーの腕の良し悪しが影響してくるが、二人での神経衰弱ならガチの勝負だ。

 カードは右脳を使って画像として記憶する』というのを聞いたことがあるが、俺はそういうのが苦手だった。

 開いたカードを左上から右下に向かって、順番に呪文のように頭の中で唱え続ける。

 俺たち二人は互いにミスすることなく、五組ずつペアを作っていたが、中盤になると場に残って閉じているカードと開けて取り終えたカードの記憶がごちゃ混ぜになってくる。

 俺のミスしたカードを奏に取られた時、焦りで頭をから幾つかの記憶が滑り落ちる。

 差はあっという間に広がっていった。

 圧倒的な記憶力。

 こいつまったくミスしない。

 って、おい。


「ちょっと待て、お前見たの全部記憶してるんじゃないのか?」

「当たり前じゃない、そういうゲームでしょ」

「どうやって覚えてる?」

「うーん、過去ログ参照」


 黒曜石の人差し指を口元に当て、奏が答える。


「それは記憶じゃない。記録だ。メモ帳持ってトランプしてるってのと変わらないじゃないか」

「何よ、負けそうだからって男らしくない」


 いやいや、男らしさの問題じゃない。


「トランプはなし!」


 取得済みのカードを場に投げ捨て、ぐしゃぐしゃに混ぜた。


「うわ、最低」


 奏はいつかのゆりかの口調を真似て言った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一つ一つの行動が可愛らしく表現されてて素敵。これに尽きる。 [一言] 翔が渡してきた癒しの書。閲覧した奏に大ダメージ与えることに成功……っていうか、そもそもなんで奏ってば作品内の自分とリン…
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