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灰と王国  作者: 風羽洸海
第三部 帰還
79/209

1-1. 急使


   一章


 朝まだきの凍てつく静寂を割って、蹄の音が響く。大地は一面霜に覆われ、去り行く夜闇の裳裾が藤色の薄絹を引いている。それを追うように、東から疾駆する騎影があった。

 人馬の吐く息が白く煙る。騎手は顔を上げ、消え残った星の下に黒くうずくまる兵営を見つけると、ほっと緊張を緩めた。

 歩哨がこちらに気付いたのが、動きで分かる。彼は声を張り上げて叫んだ。

「伝令、伝令ッ! 皇帝陛下に火急の知らせだ!」

 封緘書袋を振り上げて見せると、慌しく門が開いた。門扉の間を駆け抜け、鞍から滑り降りると、急使は休む間もなく建物の中へと走った。

 にわかに兵営が目覚め、従者が皇帝の寝室へと走る。疲れきった急使の足が膝から崩れる前に、信書は無事、皇帝の手に渡った。

「……司令官を失い、善戦するも敗退、渡河を許しアクテを奪われた次第……」

 皇帝ヴァリスは無意識につぶやきながら、書面に目を走らせる。手元を照らすランプの明かりが、彼の吐息で震えた。下命があるのをじっと待っている急使に気付くと、ヴァリスは労いの言葉をかけた。

「知らせは確かに受け取った。ご苦労だった。すぐに対策を協議する。ひとまず下がって休め」

 ようやく解放され、急使は一礼して、よろけながら部屋を辞した。まだ薄暗い室内に残ったのは、青ざめた皇帝と、隣室から駆けつけたグラウス将軍のみ。

 二人だけになると、ヴァリスは怒りをあらわにして、書状をグラウスに突きつけた。

「読め! 評議会の無能ぶりがこれほどよく分かるものもなかろう」

「第二軍団がエレシアに敗れたか」

「それだけではない。司令官を殺されながらも、なんとかデウルムに拠って防衛線を築いたというのに、その後の指揮をとる者がおらぬというのだ。アクテを落とされたのなら、北と南の一番近い兵営から援軍を出させて包囲するぐらいの策を取れぬでどうする!? 評議員には元軍人も多いと言うに、何をしているのだあの馬鹿どもは!」

 憤激してそこまで言い、それからヴァリスは、グラウスの視線に気付いてしかめっ面をさらに険しくした。

「ああ、良い、言うな。馬鹿どもが何をしているかは承知だ。誰が何の権限で命令を出して、誰と誰がそれに従うのか、そんな“席次”の問題でぐるぐる一日中踊っているのだろうよ。常には皇帝をないがしろにするくせに、非常の時にだけすべてを任せようというのだからな」

「どうやらその通りのようで、皇帝陛下」

 グラウスは皮肉っぽく応じ、夜明けの光が差してきた窓際に行って、書状を読んだ。

 州境であるティオル川に沿って置かれた兵営のひとつ、第二軍団の駐留するアクテが、ロフルス竜侯軍の急襲を受けて陥落。第二軍団はそのまま西へ押され、デウルムの兵営まで後退を余儀なくされたという。グラウスは眉を寄せた。

「アクテから西進してデウルムを落とせば、あとは皇都まで一直線だ。まさか年の変わり目に進撃はすまいと思っていたのだが……どうやらエレシアは、復讐を果たすまで年は明けぬものと決めたらしいな」

「皇都の市民も、新年どころではなかろうよ。協定が結ばれたばかりで不安がないとは言えぬが、そなたには急遽、東へ向かって貰わねばならぬな」

「むろんだ。おぬしが言ったように、北と南の第一・第三軍団から兵を動かす手は、第二軍団の生き残りも考えたろうよ。だが何か、それがかなわぬ事情があるように思えてならぬ。単に指揮官不在という問題ではなく、な」

 難しい顔で唸り、グラウスは書状をヴァリスに返した。

 皇都に助けを求めるよりも、第一・第三軍団の方が近いしすぐに動ける。我が身の可愛い臆病な評議会が、皇都守備隊を簡単によそへ派遣しないのは有名だ。

 ヴァリスも眉間に皺を寄せて考え込んだ。

「伝令が出られぬのか、あるいはアクテ陥落の際に、南北のいずれをも手薄には出来ぬと覚悟するような何かを見たか、であろうな。だがここで推測しておっても始まらぬ。そなたはコストムから連れてきた部下から少数を選りすぐって、先にデウルムへ向かってくれ。皇都は素通りして構わぬ。私はここで、残った兵とナクテ領主の兵とをまとめてから、後を追おう」

「そうするよりほか、あるまいな。しかし……不安だな、ヴァリス。セナト侯の手の中に、おぬしを残してゆかねばならんとは」

「病弱の子を気遣う母親のようなことを申すな、似合わぬぞ」

「別におぬしが病弱とは言うておらぬ。俺はただ」

「皆まで言うな。危険は私も弁えている。だが、侯が養子縁組や婚姻を通じて政権を奪うつもりでいる限り、暗殺は最後まで控えておくだろう」

 自分の命を他人事のように言う皇帝に、グラウスは不機嫌に顔をしかめた。しばし黙りこみ、それからぼそりとつぶやく。

「フィニアスに残って貰おう」

「……彼は北に帰るつもりだぞ」

「ああ、昨夜おぬしから聞いたとも。だがここでは他に味方がおらぬだろうが! おぬしこそ、ルフスの警告を忘れたか? おぬし自身を害せずとも、俺を――即ちおぬしの剣を、折ろうと企むぐらいはする男だ。おぬしが一人でここに残れば、警護兵だけでは守りきれぬ毒を注がれるやも知れぬ。おぬしが皇帝としてこの国を支えられなくなれば、たとえエレシアを退けたところで無意味だ!」

 なんとか声は抑えたものの、グラウスは激情を堪えかねてヴァリスの両腕を強く掴んだ。

「いいか、フィニアスには俺から頼む。必要とあらば脅してでも残らせるつもりだ。憎まれ役は俺が引き受ける。だからおぬしは、用心の上にも用心してくれ」

 命令するように頼みながら、彼は友人の目をまっすぐに見つめた。涼やかな灰茶色の瞳の奥に潜む気高い魂に、己がまなざしで触れようとするかのように。

 しばしの沈黙の後、ヴァリスは静かにため息をついた。

「……分かった。しかし、脅すならば私の名を出してくれ。自治の是非は皇帝の裁量であって、将軍のではない」

 そう言って彼は、自嘲の笑みを閃かせた。

「もっとも、あの者ならばその必要はなさそうだがな。我々のような、損得勘定や駆け引きに首までどっぷり浸かった人間とは違って……彼はまだ、誓約や信頼といったものに価値を置いている」

 グラウスの返事はない。二人はそのまま、しばらく無言だった。

 やがてグラウスが、ふいと視線を窓の外へ向けた。空が明るくなっている。

「……いい若者だ」

 ぽつりとグラウスがつぶやき、ああ、とヴァリスも答えた。


 その数刻後、フィンは将軍のつむじを見下ろして、困惑していた。

 普通、人は偉くなれば滅多に頭を下げなくなるものだ。だからこそ、『謙虚』が権力者の美徳に数えられたり、頭を下げることが切り札になったりするわけで――その『珍しいもの』を立て続けに目にしたフィンは、少しばかり世間の常識を疑いだしていた。

「すまんとは思っている、北へ戻るつもりだというのもヴァリスから聞いている。だが頼む、この通りだ!」

「残って皇帝陛下をお守りせよ、ですか」

 フィンは複雑な顔で返事を保留し、仲間達を振り返った。どうやら、半ば以上はグラウスの頼みを受け入れるつもりがあるようだ。一番渋い顔をしていたヴァルトが、頭を上げない将軍から目をそらし、忌々しげに唸る。

「……まぁ、竜侯エレシアと戦え、ってよりはましだな」

 条件や文句を付け足す者はいなかった。およそ、部隊の総意ということだろう。フィンはうなずき、グラウスに向き直った。

「顔を上げて下さい、将軍。こういう事態になったのなら、我々も見て見ぬふりは出来ません。立会人の責任として、引き受けましょう」

「ありがたい、恩に着る!」

 心底安堵した様子で、グラウスは腰を伸ばして笑顔になった。

「本当は、あの天竜の姿を第二軍団にも見せてやれば、兵も安心して戦えるのだろうが……いや、そんな顔をするな。竜同士で戦わせようというつもりはない。大戦の二の舞を演ずれば、今度こそ神々がディアティウスを滅ぼすかも知れぬからな。向こうとてそれは同じだろう」

 向こう、とはエレシアのことだ。フィンは察してうなずいた。

「竜の力は様々に違うようですが、ひとつ確かなのは、彼らがその力で軍団を焼き尽くしたりはしない、ということです。もしそれが出来るのなら、エレシア侯はとっくに皇都へ飛んできて、火の海にしてしまっているでしょう」

「ああそうだな。書状を読む限り、どうやら第二軍団も『普通に』負けたようだ。ならば俺にも勝機はあろう」

 グラウスは皮肉っぽく言い、肩を竦めた。だがおどけたのも束の間、すぐに彼は真顔になってフィンを見つめ、声を潜めて頼んだ。

「用心してくれ。協定の成った今、よもやセナト侯もヴァリスの命は狙うまいが……しかし、奴の真意は分からぬ。昨夜、ルフスが警告してきた。あの蛇の穴だか何だかがあった場所を、セナト侯は事前に把握していたそうだ」

「罠だった、と?」

「確実にはめるには、ちと不確かな罠だがな」グラウスは辛辣に笑った。「だが、かかれば良し、かからずとも余興にはなると思ってのことなら……まったく、始末の悪い業つくばりの爺だ」

「西方で暴動があったというのも、虚報でしょうか」

 フィンは厳しい面持ちでささやいた。

 ヴァリスの元に急使が駆け込んでから、グラウスがフィンを訪れるまでの間に、竜侯セナトもまた、知らせを受け取っていたのである。

 セナトによれば、東の反乱に呼応するかのように、ナクテの西方でも暴動が起こったのだという。西方に駐留する第九軍団はその鎮圧に追われているのか、あるいは軍団そのものが協定を不服として背いたのか、判然としない。ルフスの第四軍団が総出で東へ向かえば州都ナクテが危うい、ゆえに援軍をすぐに送ることはかなわぬ――というのが、セナトの言い分だった。

 理屈は通っているが、なぜこの時に、という疑いは晴れない。しかも、報せをもたらした筈の急使を、セナト本人以外に誰も見ていないのだ。そのことを問い詰めたグラウスに、セナトは毛ほども動じずこう言ってのけた。

 ――私の使いは、変事を内外構わず触れ回るほど騒がしくはありませんのでな。

 慇懃無礼な声音を思い出し、グラウスはぎりっと奥歯を噛んだ。

「ぐずぐず時間を稼いで、我々とエレシアの軍が互いに消耗するのを待つための方便だろう。だが事実謀反があったのだとしたら、無視しろとも言えぬ。……ともかく、奴がどうあれ、俺は東へ向かわねばならん。ヴァリスを、と言うのがまずければ、協定の誓約を、守ってくれ。頼む」

 言ってまた頭を下げようとしたグラウスに、フィンは黙って手を差し出した。グラウスは目をしばたき、それからうなずいて手を握る。てのひらが重なり合った瞬間、フィンはそこを通じて光を注ぎ込んだ。

 強く眩い力が心身に流れ込み、グラウスは驚いて咄嗟にふりほどこうとする。だがフィンはしっかりと手を握ったまま離さなかった。

 ややあって、フィンは相手に充分な加護を施したと感じられてから手を離し、ゆっくりと口を開いた。

「正直に言って俺には、皇帝陛下と竜侯エレシアのどちらが正しいのか、よく分かりません。ノルニコムが皇帝の支配を受けないと言うのなら、別に構わないじゃないかと思うぐらいです。大地を引き裂いてどこか海の彼方へ去ってしまうわけでなし、今までと同じようにそこにあって、物や人の行き来も続くんですから。……ですが、今、あなたに死なれたら大変だということは、分かります」

 グラウスはまだ己の手を不思議そうに見ていたが、フィンの言葉に表情を改め、彼のまなざしを受け止めた。

 フィンの言う通り、今グラウスが死ねば皇帝の軍団は恐ろしく弱体化する。そして本国は東西の竜侯が覇権を争う戦場となり、荒れ果ててしまうだろう。

 そうなれば苦しむのは一般市民だ。生活が破壊されることの意味を、それが何を招くかを、フィンは身に染みて理解している。続けて言った彼の声は、淡々として、少し暗かった。

「だからせめて、竜の力によって滅ぼされることのないように、レーナの力を注いでおきました」

「というと、つまり……?」

「たとえば槍で突かれても、それだけの傷ですむ筈です。伝承にあるように、瞬時に燃え上がって灰になってしまったら、手当ても出来ませんから」

 フィンがわずかに肩を竦めて答えると、グラウスは一瞬ぽかんとし、それから苦笑して、参ったと言うように頭を振った。

「そうだな。いや、ありがたい、これで安心して復讐の女神と対峙出来る。あとは、フィニアス、おまえがしっかり皇帝陛下のお守りをしてくれたら言う事はない。クォノス滞在中は、今まで俺が使っていた部屋に入ってくれ。皇帝の隣室だ」

「…………」

 フィンが複雑な顔をしたのには気付かず、グラウスは室内の面々を見回して続けた。

「中立という建前がある以上、おまえたちにも皇帝の護衛をとは頼めぬ。今まで通り皇帝の身辺は警護兵が守るが、おまえたちも周囲によく目を光らせてくれ。ヴァリスも、嫌な顔はするだろうが、文句は言わぬ筈だ」

 あるいは不承不承、あるいは名誉に顔を輝かせて、皆がうなずく。グラウスはそれを確かめると、オアンドゥスに目を留めた。

「オアンドゥス、だったか。フィニアスの父親だな」

 名を覚えられていたことに驚き、オアンドゥスは辛うじて、は、と短く答えた。グラウスは彼のすぐそばにいる妻にも目をやった。

「それと、ファウナ。二人で部隊の庶務を受け持っていると聞いた。今回の件は、皇帝からの依頼という形になるゆえ、警護に必要な経費はすべてこちらで持つ。あまり無茶をされてはかなわんが、衣食の費用などは遠慮なく皇帝に請求するが良い」

 目を丸くしたオアンドゥスの横で、ファウナが「はい」と柔らかく答えた。その声にはありありと、助かるわ、との心情が表れている。グラウスは一瞬おどけて眉を上げてから、改めてフィンに向き直った。

「ではな、フィニアス。出来ればお互い無事に、皇都でもう一度会いたいものだが、おまえにはそこまで付き合う義務はない。援軍が東へ向かえば、おまえ達はここから北へ向かっても良い。おまえの裁量に任せよう」

「ありがとうございます」

 フィンは一礼すると、お気をつけて、と言い添えた。グラウスはうなずき、束の間、まだ何か言いたそうにしていたが、結局は無言のまま、思い切って踵を返した。

 将軍の足音が廊下を遠ざかって行くと、マックが衣装櫃からフィンの上着を取り出した。

「どうやら、この『竜侯様服』は、このまま兄貴のものになっちゃいそうだね」

「……そのようだ」

 やれやれと苦笑したフィンに、まだ少し呆然としているオアンドゥスが言った。

「偉くなったもんだなぁ。まさかおまえが皇帝や将軍に頼み事をされて、それを俺たちも受ける日が来るとは、まだ信じられん」

「下剋上、ってこった」ヴァルトが鼻を鳴らした。「こういうご時世だからな。皇帝も一日で路傍の乞食になり得るし、盗賊が司令官になることだってあるだろうさ」

「――ヴァルト」

 オアンドゥスが小さく息を飲み、気色ばむ。ヴァルトはうるさそうに手を振り、フィンに向けて言葉を続けた。

「まったく、気に入らねえ成り行きだな。結局、俺らは皇帝のお供扱いってことかよ。寂しくなるな、なんて言うからだぞ。まさかおまえ、やっぱり本物のお貴族様になりたくなった、ってんじゃないだろうな」

 ただの厭味にしては毒の強い言葉を、フィンは首を振って退けた。

「まさか。俺が昨日げんなりしていたのを、あんたも見ただろう。出世や栄誉が望みなら、とっくに皇帝陛下に忠誠の誓いを立てているさ」

「その気がないんなら、おまえも大概にしとけよ。律儀に『立会人の責任』だとかぬかしやがって、そんなだから付け込まれるんだ」

 馬鹿、とヴァルトは呆れた風情で一言投げつける。フィンはそれを避けるように、ひょいと首を竦めた。

「その代わり、向こうも脅しを使わなかっただろう? 馬鹿正直に律儀でいるのだって、損をするばかりじゃないさ」

 意外な台詞に、ヴァルトのみならず、ネリスやマックも目をしばたたく。フィンは彼らに、気付いてなかったのか、と問うように小首を傾げて見せた。

「俺達は北辺での自治を皇帝に願い出ただろう。あの場で、口頭での許しは貰ったが、あれは誓約ではなかったし、書面にもなっていない。いつでも撤回出来る。本心ではその気がなくとも、単に交渉の手札として使えた筈だ。でも、将軍は――つまり皇帝は、協力しないなら自治の話もなしだ、と匂わせもしなかった。そんな事をしなくても、俺が頼みを聞くと分かっているからだろうが、おかげで、自治の件には全くけちがつかずに済んだ」

 そうだろう、違うか?――そう言いたげなフィンの表情に、ヴァルトは唖然とし、ぽかんと口を開けてしまった。ネリスが胡散臭げに顔をしかめる。

「お兄、まさか、わざとクソ真面目なふりをしてるわけ?」

「いいや。だからそんな言葉を使うんじゃない、ネリス。演技でなくとも、これだけ周りに言われ続けたら、自分が律儀だってことぐらい自覚するさ。だがそれで物事が有利に運ぶ場合もある。今回みたいにな」

 フィンは真顔でそこまで言うと、珍しくにこりとして皆を見回した。

「あと何日かかるか分からないが、皇帝を無事に送り出したら、大手を振って北に戻ろう。そうして、皆が安心して暮らせる町を作るんだ」

 束の間、誰もが言葉を失った。

 そして。

「賛成!」

 ネリスが笑顔で叫び、マックも拳を突き上げて呼応する。故郷を失った者達は、それぞれ顔を見合わせ、そして、希望に満ちた笑みを広げた。

「しょうがねえ、あと一仕事踏ん張るか!」

 ヴァルトも苦笑気味に応じ、部下の一人に、でもやっぱりあんたが市長ってのは無しにしてくれよ、と釘を刺されて渋面をする。

 かつてなら、そんな話は夢物語だったろう。だが今は違う。闇を退ける力を持った竜侯がいて、その竜侯は皇帝から許可の言葉を引き出したのだ。まだ実現はしていない、けれど実現への道が見える。自力で歩まねばならぬにしても、先は遠くとも、確かにそこに道はあるのだ。

 竜侯フィニアス――その存在が希望と未来を与えていることに、彼ら自身、はっきりとは気付いていなかった。今は、まだ。


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