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Case:05 「ゴースト・ファイター」


俺達が撃ち殺した盗賊連中の亡骸を前に、胸ポケットから煙草を取り出し口に咥える。

馬から放り出されたそれは、ピクリとも動かずにただ赤黒い血を地面に染み込ませて横たわるだけ。


「人殺した割には、別にそう大したあれもねぇなぁ……もっとこう、ゲロ吐くとかするもんだと思ったんだが」


「とか言ってる割には手が震えて煙草に火を着けれてねぇじゃん」


カタカタと小刻みに震える手を隠すように、ポケットに手を突っ込む。


「――気にすんな、ただの武者震いさ」





Fake Cop Story

Case:05 「勇者の条件」






盗賊の襲撃にあってから、優に30分以上もの時間が過ぎ――表面上には出さぬとも私は胸の内で焦りを大きくしていた。

姫様の命令に従い、この勇者と名乗る男の実力を知る為に護衛部隊をこの馬車から引き離した結果は散々な物だった。

男は勇者とは口だけの、実力も何も無いペテン師だったのだ。

姫様は当然、盗賊と戦うなどと言う事が有っては為らぬ故に、実質この馬車に乗っていて戦力として換算できるのは私一人。

せめて、この男が馬車を操れるならば、たかが盗賊如き私が蹴散らしてやるものを!

しかし、男は泣き叫ぶのみ。仕方無しに私は、馬車を操り最大速度で盗賊の追撃から逃れねばならなかった。


私が異変に気が付いたのは、襲撃から10分が経った頃だったろうか。

護衛部隊を離れさせていたとは言え、これ程の激戦だ。魔法の矢が飛び交い、魔法が爆発する音が木霊しているにも関わらず、一向に護衛部隊が駆けつけてくる様子は無い。

万が一の際を考え、私は護衛部隊に対し馬車から10分程度の距離を保って進軍するように命じたはず。

にも拘らず、この様だ。何かが起きているとしか考えられず、私自身が打って出るしか手は無いかと覚悟したその時――

そう、その時だった。私が操る馬車の真正面からそれが姿を現したのは……

赤い光を点滅させ、聞いたことも無いような大きな音を響かせてそれは現れた。

松明とは違う、余りにも強い光を放ちながらまるで地を這うように飛ぶ飛龍の如き速さ。

常識を遥かに超えるその速さに、私は反応する事が出来ず――危うく、それと正面から衝突するかと思った。

だが、なんとそれは私達の脇を擦り抜け追跡してきた盗賊へと攻撃を加えたのだ。

魔法が炸裂する、と言うよりも砲撃音を小さくしたような音が数回鳴り、その直後には盗賊は馬から放り出され死に絶えていた。

その者達――そう、驚くべき事にそれを成したのは"人"だった。

すれ違う一瞬。一瞬という僅かな時間ではあったが、私は確かに見た。

白い馬に跨る、蒼き戦士。

瞬く間に、盗賊を倒し忽然と姿を消した幻影戦士。

これが私――クリス・ホービッシュと彼等、<<ゴースト・ファイター>>との初めての出会いだった。






「で、大矢の方の経験値はどうよ?」


馬車の無事を確認した後、俺達は即座にその場を後にした。

なんでかって?理由は超簡単だ。



――あれに関わると碌な目に合わんだろ。



現に、村に向かう途中で数十騎の騎士部隊が盗賊連中に対して無双しているのに大矢が気が付いた。

よくある異世界転生や召喚物の序盤に盗賊に襲われていたヒロインを救出するイベントがあるだろ?

どうも、それっぽくてなぁ……俺達はこの制服着てる限り、悪党から逃げる事も敗北する事は許されんよ。


が、迫り来る死亡フラグからは逃げても構わんだろう?


と、言う訳で俺達は即座に逃走――ではなく、戦略的転進を行い村の近くでPDA相手に睨めっこしてるって訳だ。




「経験値、1010。多いのか、少ないのかわかんねぇわ」


「って事は、倒した人数じゃなくて"どうやって倒したか"によって経験値は変動するみてぇだなぁ」


「滝本の経験値、幾つよ?」


「2100。」


「……俺の方が一人、余分に倒してんだけど」


「俺、ワンショット・ワンキル。お前、全弾発射。この差、経験値の差」


「インディアン、嘘吐かない――ってか?あー……理解した。滝本の場合、クリティカルになってんじゃね?」


「一撃で殺してるからか?」


「そ。良くあるだろ、クリティカルで倒すと経験値ボーナスって」


「な~る。ま、良いや。じゃ、俺がマガジン・ポーチ出すから貯金しとけ」


「りょーかい」



PDAを操作し、マガジン・ポーチを2個選択する。

すると、確認画面が出て”はい”を押した瞬間、目の前で淡い光が走ったかと思ったら直ぐに消え去り、地面に黒いマガジン・ポーチが置かれていた。

その内のひとつを大矢に渡し、中に何も入っていないのを確認してからもうひとつのポーチをベルトに装着する。

すると急に重みを感じ、ポーチの中を見るとP-230JPのマガジンがひとつ。

大矢の方を見れば、さっそくポーチから予備マガを取り出し弾切れ状態のP-230JPに突っ込んでた。


「どうやら、俺と大矢の間で装備の譲渡とかは問題無さそうだな」


「だな。さて、どうするよ?そろそろ本気で夜になりそうなんだが」


白バイに跨り、キックしてエンジンを掛ける大矢。

一応、セルスイッチがあるにも関わらず態々キックしてるのは形式美ってやつらしい。

俺も白バイに跨り、エンジンを掛ける。


「流石にあんな事があった直後だかんなぁ……野宿はマジ勘弁。つー訳で、村に行くぞ」


「うぃ、りょーかい。じゃ、先行するぜ! ヒャッハァ!」


そう言うやいなや、白バイをウィリーさせながら急発進する大矢の姿に苦笑を浮かべながら、俺も村へと向かうべくアクセルを回した。


――今宵は気分が昂ぶって眠れそうにねぇなぁ……


なんて事を、思いつつ……



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