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Case:04 「馬車襲撃事件」


――勇者様が目覚める。

王城勤めの神霊術士からの報が届いたのは、一昨日の事でした。

魔軍との度重なる交戦により、疲労困憊のこの王国にとって――それは正に、希望そのものでした。

即座に勇者様を迎えるべく部隊が結成され、王国最東部にある神殿へと私が向かう事となったのです。

正直、私は勇者様という存在自体に懐疑的でした。

魔軍の脅威は、その数の多さです。単体の力はそう強くなく、訓練を積んだ兵士なら苦戦する事無く倒す事も難しく有りません。

しかし、魔軍は一人の兵士につき何百もの魔物を投入してきます。兵がどれだけの強さを誇ろうとも、それだけの数を前にすれば、まるで赤子の手を捻るかのように殺されてしまいます。

そんな戦場に、"勇者様"を送り込んだとしても、所詮は一人。

戦術的には有利かもしれませんが、戦略的にはなんの意味も無いのではないでしょうか?

そんな思いを胸にしながらも、私は父に与えられた命を果たす為に神殿へと向かったのです。


しかし、私のその不安は勇者様に会った途端に吹き飛んでしまいました。

……あくまで、単身で戦力的な価値の問題だけでしたが。

勇者様は、まるでこの世の者ではないかのような魔力を秘めていました。

その力、凡そ我が王国の誇る精鋭部隊である"近衛魔道士隊"の平均魔力の一千倍。

"兵力"と考えれば、十分に戦略級です。私は、湧き上がる喜びを胸に、一刻も早く王都へと戻る為に最大速度で馬車を走らせました。


ですが、私の喜びは僅か30分で不安へと錬金されてしまいました。

この男(最早、勇者様であるかどうか疑わしい。実は、魔軍のスパイではなかろうか?)は、馬車に乗るや否やもう、喋るわ喋る。

その速さは、正に流れ星の如く物凄い勢いでした。

それも、話の内容は自分の力の自慢か歯が浮く様な甘い台詞ばかりです。何度、その気持ち悪いニヤケ顔を張っ倒してやろうかと思った事でしょうか。

自分ではカッコいいと思っているのかも知れませんが、正直気持ち悪いだけです。

露骨な視線(主に私の脚と胸に集中していました)と、あの笑顔にいい加減、私の堪忍袋も破裂しそうでしたが、今回の護衛部隊の隊長であるクリスの言葉がそれを留めてくれました。


曰く、盗賊集団が私達を狙っているかも知れないとの事。


これは、この男の力を計るチャンスだと思い、私はそれを気取られぬようさり気無くクリスに護衛部隊を馬車から放すように指示しました。

馬車一台で、夜の帳が降り始めている時間帯に街道を行くなど、盗賊に襲ってくださいと言っているようなものです。


結果から言えば、この男は勇者たる器は持っていても勇者に成る資格はありませんでした。

最初こそは「別に倒してしまってもかまわんのだろ?」等と格好を付ける余裕も有ったようですが、盗賊連中の放った矢が掠めただけで腰を抜かし、腕に矢が刺されば泣き喚き、気絶してしまいました。

この醜態に、私はあきれ果て遅れてきている護衛部隊が追いつくまで盗賊から逃げ惑う嵌めに成ってしまったのです。



――その時でした。

今まで、聴いたことも無い大きな『ウー』という音と、紅く点灯する光と共に彼等が現れたのです。





Fake Cop Story

Case:04 「馬車襲撃事件」





「大矢ぁ! 馬車とすれ違った後、追従する盗賊を殺るぞ! 俺は右、お前は左だ!」


「よっしゃ、任せろ! って、警告はせんで良いのか!?」


「今からやるさ――”馬車を追っている者達に告ぐ! 今直ぐ武装解除し、投降せよ!”――って、ヤヴァイ!」


一瞬、チカッと光った直後。赤い光の矢が俺のすぐ右脇に着弾した。


「あのクソ野郎共……OK、テメェ等がその気なら殺ってやろうじゃねぇか!」


「滝本っ! 接触まであと5秒って所だ!」


「お出迎えと同時にお帰り願え! 行くぞ!」


白バイのアクセルを回し、一気に加速。

時速120kmで馬車の脇をすり抜けると同時に、左手で構えた拳銃の引き金を引いた。


――タァン


――タタァン


ほぼゼロ距離で放たれた32口径弾は、見事に盗賊に命中し馬から放り出された。

急ブレーキを掛け、白バイをターンさせる。


「やるじゃねぇか」


「滝本程じゃねぇさ――行くぜっ!」


真後ろを取った俺達は、アクセルを思いっきり回し急加速する。

この世界じゃ信じられん程の速度に驚き、攻撃の手を緩めたのが盗賊連中の運の尽きだった。

ハンドルから手を離し、両手で照準を付ける。


――恨むなら、犯罪行為に手を染めたテメェを恨みな


俺と大矢の拳銃が火を噴き、乾いた銃声と共に盗賊連中の人生は終劇を告げた。

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