Case:02 「偽警官達が異世界に現れたそうです。」
偽警官二人組、爆誕。
「なぁ、大矢」
「何だ?滝本よ」
目の前に広がるのは、360度を覆い尽くす広大な野原。
草木が風に揺れ、広大な空は蒼く透き通っていた。
そんな中、立ち尽くす俺達にはある重大な問題が発生していた。
それは――
「何で俺達――白バイ隊員の格好なんてしてんだ?」
「……俺に聞くな」
Fake Cop Story
Case:02 「偽警官達が異世界に現れたそうです。」
あの白い空間から抜け出て、最初に眼に入ってきたのがモンスターとか騎士とかではなく、白バイ。
なんと言うガッカリ感。想像してみても欲しい。ゾンビ映画だと思ってワクワクしながら待ってたら上映されたのがジブリ。
そんな途轍もない、こう、何と言うか……あれだ。直ぐに席立って受付に『金返せ』と言いたくなるような気持ちだった。
しかも、二人そろって白バイ隊員の制服着てたしね。あれ?ここって剣と魔法のファンタジーって聴いてたんですけど。
思いっきり、ホルスターに拳銃(シグP-230JP)入ってたんですけど。
「おい、滝本! こんなん見つけたぜ?」
現実逃避していた俺を尻目に、白バイ(CB1300、ホンダ製)を漁っていた大矢がiPODっぽいPDAを右手で持ち上げて見せてきた。
「何処にあったんだ、それ?」
「右のケースに入ってたぜ?」
大矢の返答を聞き、俺も白バイのケースからPDAを取り出し電源を入れてみる。
あー……成る程ね。そう言う事か。
「どうやら、これで経験値と引き換えに物資を手に入れることが出来るみてぇだな?」
「だな。他にもステータスとか地図、それに……おぉ、この世界に関する情報データベースもあるぜ?」
「OK,分かった。俺は物資の方を調べっから、大矢はこの世界の方頼むわ」
「りょーかい」
そして調べる事約一時間。
調べれば調べるほど、”チート能力ではない”という事を実感して欝に成り始めてきた。
何でかって?対価となる経験値が高すぎるんだよボケェ!
何だよ、9mmパラベラム弾が一発で120経験値とか。
ベレッタM92FSが10万経験値でAK-47が100万だぁ?7.62mm弾に関しては一発で800だぞ、800!
あれか?中世だからなのか?剣と魔法のファンタジー(笑)に現代兵器だす代償は高いんですよってか!?
ざけんなボケェ!
……と、言いたい所ではあるが。流石はあの男。ちゃんと抜け道を用意してくれていたのである。
確かに、一発ずつ出してたら経験値がどんなけ有ろうとも速攻で底を尽きる。
しかし! それを解消する為の装備があったのだ。その名も、”マガジン・ポーチ”!
このマガジンポーチ、必要経験値数が1000と言う低価格にも関わらず、その性能は正に最高と言わざるを得ない。
なんと、使用している銃器の予備弾倉が自動的に再装填されるのだ。しかも、経験値の消費無しで!
――まぁ、欠点としてはマガジンポーチに再装填されるまでに3分のインターバルがあるって事だが。
だが、それを補ってでもお釣りが来るほどの性能である。しかも、嬉しい事に初期装備であるP230JPのホルスターにもこの機能が付いてたと言うオマケ付き。経験値入ったら、速攻で買い漁ろう。そうすりゃ、3分のインターバルもカヴァー出来るしな。
他にも調べた所、どうやらあの男が言っていた”オマケ”とはこの白バイと制服の事だったようだ。
白バイに関しては経験値の消費無しで修復と燃料補給が可能。但し、他人に譲渡した場合は無効となるらしい。
制服もパッと見てみると何の変哲も無い白バイ隊員の制服だが、何故か防弾・防刃・防魔仕様。これも白バイ同様、譲渡すればただの衣服に成り下がる。勿論、修復とスペア(同時に2着までこの世界に出せるらしい)は経験値消費無し。本当に有難う御座いました。
「ってな所だな、俺の方は。大矢はどうだった?」
「おう、俺の方はだな――」
大矢の報告を纏めると、どうやら俺達が居るのは『ロンデリニウム大陸』というクソデカイ大陸にある三列強国のひとつ『ローデリム王国』の東端、商業都市『ベルム』から40kmほど離れた草原に居るとの事だ。
丁度、勇者が現れた神殿(転生らしく、俺達がここに現れたと同時にあのクソガキの自我が覚醒するらしい)とベルムの丁度中間地点って所か。
次に、言語に関してだがこれも問題ないらしい。PDAには自動翻訳システムが搭載されており、身に付けている対象の言語と文字の読み書きをサポートしてくれるそうで。PDAを無くしたり忘れてきたりしたら一から覚えなきゃならんってことか……気をつけよう。
最後に通貨に関してだが、これがまた凄ぇ簡単だった。1円=1R硬貨。つまりは……
・1円玉=1R硬貨
・10円玉=10R硬貨
・100円玉=100R硬貨
・1000円札=1000R金貨
・10000円札=10000R金貨
となる。ちなみに、5・50・500・5000は存在しない。
平民と呼ばれる一般庶民の平均月収は10万R金貨であり、俺達の白バイの左ケースには革袋に入った50万R金貨があった。
他にもギルドとか一神教だとか色々あるが、まぁその辺は過ごしていく内に分かるから良いだろう。
日も沈みつつあるし、ここは前の世界とは違い猛獣どころかモンスターまで出るような世界だ。いきなり野宿してたら喰われて終了とか洒落にならん。
「大矢、そろそろ日が沈みそうだ。いい加減、腹ぁ減ったしそろそろベルムに向かわねぇか?」
「だなぁ、あの兄ちゃんもちゃんと金を用意してくれてたし、落ち着くまでは何とかなりそうだしな。とりあえず、ベルムに言ってみるか」
白バイに跨り、エンジンを始動させ、軽くアクセルを吹かす。
心地よい排気音と振動に、思わず顔がにやける。
――畜生、あの世界じゃ叶わなかった夢が叶うとか、何の冗談だよ。有難うよ、神さん。
心の中で盛大に神様であろう、あの兄さんに礼を言いながら大矢の方を見る。
「おい、お前まさか……」
「滝本、実は俺――自動二輪の免許持ってねぇんだわ」
大矢は真剣な表情で、そう言い放ちやがった。