Case:01 「野郎二人がテンプレに巻き込まれました。」
「なぁ、大矢?このクソガキ、自分が言ってること理解して言ってんのか?」
「滝本よ、一国の総理が自分の言ってることを理解出来てねぇんだぜ?そりゃ、こんなガキが量産されるに決まってるわさ」
目の前で繰り広げられてるのは、まぁ所謂テンプレって奴だろう。多分。
あれだ。神様が手違いで殺してしまったから、チート付きで転生させてあげようって奴だ。
「しかし、あれだな。本当にこんなんがあんだなぁ……俺はビックリだよ」
「寧ろ、俺はあの会話から置いてきぼりにされて放置されてる事に驚きだよ。なぁ、滝本?あの爺さまの話だとあのガキに巻き込まれたっぽくね?俺達」
「安心しろ、大矢。俺も同じ認識してっから。しかし、あのガキ無茶苦茶な条件出してんぞ……何だよ、使徒の能力とか王の財産?とか」
「しかも、身体能力最強にしろ!もちろん魔力も!とか言ってんなぁ……俺達もゆとり教育受けてきたが、あいつは突き抜けてんぞ?」
「平成生まれって、あんな奴ばかりなのか?」
「見た所高校生だし、厨二病でも患ってんじゃね?」
そんな軽口を大矢と交わしていたら、どうやら交渉は終わったらしくクソガキはすんげぇ満足そうな顔をしながら光の中に消えていった。
「すまんのぉ、お主等も話を聞いて居ったから分かると思うが……」
「その前にひとつ、宜しいですか?」
「ふむ、なんじゃ?」
近寄ってきた爺さんに、クソガキとの会話を聞いていて疑問に思った事を告げる。
「手違いで死なせてしまったと言ってましたが――それ、嘘だろ」
Fake Cop Story
Case:01 「野郎二人がテンプレに巻き込まれました。」
「ほう、気が付きましたか」
「そりゃ、気が付きますよ。手違いで死なせちまった割には余りにも"適任"過ぎる」
そう、あのクソガキはまるで"これを望んでいた"。
自身が死んだというのにも関わらず、遺された者など考えずに爺さんの話を聞いて喜んでたしな。
さらに言えば、爺さんはそんなクソガキの様子に戸惑いもせず、それが"当たり前"の様に会話を進めていた。
「それならば、話は早い。お二人は何をお望みで?」
「俺自身に関しては必要有りません。ですが、家族には何かしらの保障を」
「俺も滝本と同じく。転生とかチートとか、そんなやっかいな代物は好かん」
爺さんはそれを聞くと、笑いながらスーツ姿の若い男へと変化する。
……いやはや、これをハリウッド映画じゃなくて実際眼にするとはねぇ。何が起きても驚かんぞ、俺は。
「これは――久方振りにマトモな人に出会えたかも知れません。何せ、個々最近はやれ『チートよこせ』とか、『最強にしろ』、『ハーレムにしろ』なんて要求ばかりでして……自分の事ばかり考えて、遺された者を考えるのは極まれでしてね?しかし、困りました。ここに着たからには転生する意外に抜ける方法は無いんですよ」
「無理矢理拉致ってきてそれかい」
大矢の突っ込みに、申し訳有りませんと頭を下げる男。
「誠に申し訳有りませんが、転生する意外に選択肢は無いのですよ……ですので、お二人には先程のクソ――失礼、先程の方と同じ世界に転生して頂けると……」
「ここは、転生"したがってる"奴を呼ぶ為の場所で、そいつを"必要としている世界"に送り込む為の場所だろ?悪いが、俺達は本当にあのクソガキに巻き込まれただけで、転生してぇ訳じゃねぇんだ。勿論、ここがそういう場所だって分かってっから、転生するしかねぇがチートは要らんよ」
「ほう、まさかそこまでお気付きに?」
「確証は持てんから、口に出して言わせて貰うが――あれだろ?チート能力貰うと"世界を救う運命"ってのが強制されるんじゃねぇか?」
「正解です。説明させて頂けば、彼等は自らが望んだが故に選ばれた者達です。そして、私達は世界の管理者……滅亡に瀕している世界を救う事が主任務とされています」
「つまりは、あれだな。需要と供給」
「正解です。私達自身が、世界の滅亡となる原因に直接介入は出来ません。その様な事をすれば、世界は私達の力に耐えられず崩壊してしまう。それでは、本末転倒ですからね。そこで、考えられたのが間接的な介入。他の世界からそれを望む者に力を与え、滅亡から世界を救わせる……世界に介入する事は出来ずとも、彼等の存在ならば可能ですから」
男は、そこで一旦口を閉じると真剣な表情で俺達を見つめた。
……男に見つめられても全然嬉しくねぇ。
「しかし、あなた方は違う。本来ならば、ここに来るべきではなかった……しかし、あの状況では仕方なかった」
「……何か理由が在るみてぇだな」
「はい。あの少年、実は鞄に包丁を忍ばせていたのですよ。どうやら、理想とする自分と現実の自分のギャップに耐えられずに……」
さ、最悪だ。
あのクソガキ、通り魔しようとしてやがったのかよ!
「良いのか、それ?」
「良くねぇだろ。それで、あれか?通り魔阻止する為に慌てて殺したと」
「正解です。可能な限り犠牲を少なくするにはああする他有りませんでした。だからと言ってあなた方を殺してしまったのは事実です。故に、あなた方に対しては可能な限り要望に答えろと、上からは仰せつかっております」
「OK,分かった。それじゃ――交渉といきますか」
その後、野郎三人であーでもない、こーでもないと喧々轟々と議論を続けた結果。
俺達の転生条件は以下の様に決定した。
・転生先は残念ながらあのクソガキと同じ世界、同じ時間。但し、場所はあのクソガキと同じ神殿ではなく安全な野原に決定。
・チート能力による運命の強制・誘導は無し。当然、俺達自身に対するチート能力の付与は無し。
・でも、何の能力も無しじゃ気が済まないらしいから経験値と引き換えに物資支給に決定。これは等価交換と見なされるらしく、世界に対する影響は皆無らしい。
・お陰で俺達は死ぬまでレベル1のまま。つまり、神(世界)の加護でレベルUPと同時に起こる身体能力・魔力の増強は無し。強くなりたきゃ自力で体を鍛えにゃならん。
・それでも気が済まないから多少のオマケをしてくれるらしい。それに対する世界への対価は勇者に払わせるそうで。曰く『彼自身が望んでいるので、この程度なら問題ありません』だってさ。
・遺された家族に関しては、全力でアフターケアしてくれるそうで。一番の懸念はこれだったから、本当に良かったよ。いや、マジで。
「では、この内容で宜しいですか?」
「あぁ、大丈夫だ。問題ない」
「滝本、そりゃ死亡フラグだぜ?」
「お前はここで死ぬ定めではない、とでも言っておきますよ――さて、冗談はさておき。これより転送を開始します」
男がそう言うと同時に、俺と大矢の体が淡い光に包まれ――両手、両足の指先から順にまるで火の粉の様に崩れ去っていく。
徐々に崩れ去る自分の体を見るってのも、あれだな。非常に気持ち悪い。
「最期になりますが、もう一度心より謝罪申し上げます。この度は、非常時だったとは言え巻き込んでしまい誠に申し訳有りませんでした。滝本様、大矢様が新たなる世界で良い人生を歩まれる事を、一同心よりお祈り申し上げます――Good Luck!良い人生を!」