前方不注意と約束の時間
プロローグ続き
8年前、俺と姉さんはこの街で出会った。
この街に俺がいたのは、ほんの一ヶ月足らずだったのだが。
机の横に掛けてある鞄を手に取ると教室を出ようと手をかける。
商店街まではバス込みで20分でいける距離だからまだ時間に余裕がある。
ドカッ!
「きゃっ」
教室の入り口を開くとクラスメイトとぶつかる。
倒れた拍子に大胆なM字開脚を披露してしまったクラスメイトは状況を把握するとトマトなみに赤い顔をし、あたふたと手を振り混乱している。
「ご、ごめん。その・・・大丈夫?」
つい視線が下におりてしまうのを必死に押さえ相手の頭を下げずに謝る。
「い、いえ。はうっ。」
スカートが捲れているのを直すのを忘れていた彼女が慌てて思い出したかのように直し、ペタリと座りこみ見ました?といった表情で涙目ながらに訴えてくる。
気まずくなるのを感じ、回答を避け手を差し出す。
よくよく見るとボサボサ頭の髪をした目が見えない(髪が長いせい)彼女だがメガネをはずし、それなりの格好をすれば可愛いのではないか?などその出るとこと出ないとこがはっきりしている体系を観察してしまう。
「ありがとう。」
彼女は手を掴み立ち上がるとスカートを叩き埃を払う。
「久遠さん、だったよね?クラス委員長の。急いでいたから注意を怠った。」
「あ、うん。だ、大丈夫だよ。」
段々と尻つぼみに声が小さくなり会話が終了してしまう。
(き、気まずい。)
どうしたものかと考えていると声がかかる。
「あ、あの!」
「お、おう!」
いきなり大声で言われ音量大きめの口調で返事をしてしまう。
ビクリッと彼女は身を震わせ
「やっぱり無理!ご、ごめんなさい!」
といい走り去ってしまう。
去り際に、派手にこけて黒の見た目に合わずアダルトな下着が見えた気がするが、とにかく謝るのはこちらだと思うのだが。
完全に見失うまで視線を追っていたが、ふと思い出す。
(今日は委員会の日だったな。委員会って確か・・・)
ぶるぶるぶる・・・ぶるぶるぶる・・・
ピッ
「はい。」
携帯を耳に当てると耳をつんざくような声が響く。
「はい。じゃ、ねー!!どんだけ待たせるきなのかっての!」
キーンとなる耳を保護すべく携帯を耳から遠ざける。
「あんた、今どこにいるのよ?」
そこで腕時計を確認する。
「17時5分?」
(ん?なんか違和感が・・・)
「あん?誰が時間を聞いてって17時5分だ?」
違和感をやはり感じる。
教室で起きた時刻は17時5分である。
クラスメイトとぶつかって時間を使って17時5分である。
時計が止まっている。
「姉さん今何時?」
「19時だが?」
「・・・」
「・・・」
沈黙。
委員会が終わる時刻は確か19時だった。
久遠さんとぶつかったのはそのせいだったらしい。
「姉さん。20時まで時計屋ってやっているかなー?」
「知るか!そうそう色々と待っている間に罰を考えていたんだ。今いるナイトの教室からだと5分でバス停まで行けばバスに間に合うわね。そうすれば19時30分までには私のいるここまで来れる。」
クスリッと嫌な笑いが聞こえる。
(今、ナイトって言ったという事は・・)
「今の時間なら間に合うな。罰は19時半から5分遅れる事に厳しいのにしよう。そうそう来ないは選択肢にないぞ。来ないとア・レをしちゃうぞ!では、あと3分の健闘を祈る。」
ブチリッと携帯が切れる間際から俺は走り出していた。