第91話「国王の決断」
その夜、ルシアンは国王の部屋に長くいた。
エレナは自分の部屋で待った。
一時間が過ぎた。二時間が過ぎた。
リーナが温かい茶を持ってきた。
「殿下と陛下、まだ話しているみたいです」
「……そうですか」
「大丈夫だと思います。殿下は、絶対に折れないから」
エレナは茶を一口飲んだ。
三時間後、ルシアンが部屋に来た。
顔を見た瞬間、エレナには分かった。
良い話ではない。
「兄上は——認めなかった」
静かに言った。
エレナは少し間を置いた。
「……そうですか」
「セルディアとの婚約を進める意向は変わらないと言った。お前との関係を、公式には認めない」
「陛下の理由は」
「国の安定のため。それだけだ」
ルシアンの目に、珍しく——疲れがあった。怒りではなく、ただ深い疲れ。
「どうするつもりですか」
「諦めない」
「でも、陛下が——」
「兄上が認めなくても、私はお前と生きることを選ぶ。ただ——時間がかかる」
「どのくらい」
「分からない。でも——」
「待てます」
エレナが言った。
「どれだけでも、待てます」
ルシアンがエレナを見た。
「……お前が待つ間、辛いことが増えるかもしれない」
「知っています」
「宮廷での立場が、難しくなるかもしれない」
「知っています」
「それでも——」
「それでも、ここにいます」
ルシアンが、エレナの手を取った。
「……必ず、解決する」
「信じています」
その夜は、二人でいた。
でもエレナの胸の中に、小さな不安が残っていた。
国王が認めない。その事実の重さを——エレナは、まだ全部受け取り切れていなかった。




