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『魔法学院のオトコの娘』 ~女子しか魔法を使えない世界でどうしてぼくが魔法学院に!?~  作者: 十草 九斗


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9/9

9.不穏の萌芽

 これまで、同じくらいの年の人と遊んだことなんてあっただろうか。記憶にある限り、そもそもぼくに友達と呼べる人はいなかった。

 だからだろう、ぼくはこの新たな人間関係に大いに舞い上がっていたらしい。お茶会の前日に、ぼくは再びエステリオンの街をおとずれた。


(クッキーを焼いたらみんな喜んでくれるかな?)

 ぼくはエトバの王宮でアレンさんから様々なことを学んだけど、短期間でマスターできたものはほとんどなかった。だけど、あの絶品クッキーは別だ。

 あのクッキーをひと月食べれなかったらぼくは死んでしまうだろう。アレンさんに頼み込んでレシピと作り方を伝授してもらった。あの感動をみんなにも味わって欲しくて、今日は一人で買い出しだ。


 一通りの材料を調達して学院に帰ろうとしたとき、見知った顔を見つけた。

「よう、元気にしてるか? お嬢さん」

「うげ、シュラウス…」

「いやそうな顔をするんじゃねえよ。お前から学院の情報を聞くのが今は仕事だからな。晩飯はおごってやるからついてこいよ」

「……わかりましたよ」


 シュラウスに連れられ入った店は、この町には一つしかない酒場だ。

(子供を連れて来るかなぁ?)

 案の定というべきか、まだ日が暮れてから時間がたっていないのに、出来上がった大人たちが盛大に酒盛りをしている。

「秘密の話をするときにはうってつけってわけさ」

「はあ…」

 確かに、これだけ騒がしかったら盗み聞きも難しいのだろうけど…

(シュラウスが飲みたいだけでは…?)


 それからシュラウスにはぼくが学院に入ってからの出来事を一通り話した。といってもまだ一週間ほどなので大した内容はないんだけどね。

「皇女と友達になった!?」

「ええっと、明日はお茶会に誘われてて…何か問題がありあしたか?」

「いや、問題はない、問題はないが…とりあえずお前はそのまま皇女と仲良くしておけ」

「そういう打算的な言い方、ぼくは好きじゃないです…」

「……それもお前の仕事だろうが…まあいい、つまりだ、せっかくの友達なんだ、喧嘩は無しでいけよ。悪く行けば…外交問題かも」

「………気を付けます」


 これまで人付き合いなんてほとんど知らない世界で生きてきたんだ。ぼくは友達の政治的な背景を意識しながら会話をするような器用さを持ち合わせてはいない。


「いいか、帝国は強大な国家だが、その分敵も多い。特に帝国が持つマナタイトの利権は他国からしたら気に入らんはずだ。最近は共和連盟の動きがどうもきな臭いからな、気は張っておけよ」

「シュラウスにしては随分と真面目なことを言うんですね」

「まあな、俺はこれでも騎士だ。お前のことも心配してるのさ」

 キザったらしいことを…ぼくは忘れていないぞ、その剣をぼくに向けようとしたことを。完全にこちらに非があったとはいえ、あの時はかなり冷や汗をかいた。


「信じてないって顔だな。まあいい、ところで、今日はシュバルツはいないのか?」

「なかなか起きないのでおいてきました」

「そうか…」

 何かを言おうとしてためらっているのか? この男は大抵にやにやしている。動揺を見せたのは、ぼくが彼の義理の“妹”になった時ぐらいだ。そんなシュラウスのはっきりとしない態度が気になってしまう。

 シュバルツに何かあるのだろうか?


「シュラウス?」

「いやなんでもない…さあ、飯がきたぞ、冷めないうちに食べるんだ」

 結局シュラウスはそれ以上は何もしゃべらず、ぼくもすぐにそのことを忘れてしまった。


「そういえばシュラウスはいつまでこの街にいるんですか?」

「そうだな、せっかくのバカンスだからしばらくはゆっくりするさ。この街はいいぞ。飯はうまいし昼間でも涼しい。なにより治安がいいのが最高だな」

 シュラウスがそう言い終わらないうちに、突然外が騒がしくなった。

「盗賊団だ!!!」

「火がつけられたぞ!!」


 ズタボロの服を着た男が店内に向かって叫ぶ。騒がしかった酒場は一瞬の静寂に包まれたが、その静寂もヒステリーをおこした客たちによってすぐに喧騒へと変わった。


「うっそだろおい!?」

「治安がなんですって?」

 軽口を言っている場合ではない、しかし、どうするというんだ。あまりに唐突な出来事に対して、ぼくの思考は停止してしまう。しかし、テーブルの向こう側にいる男はそうではなかった。


「まずいな…パニックを起こしてやがる。良いかリア、お前はまっすぐ船着き場まで走れ!自分の安全を最優先で考えるんだ」

「は、はい!」

「いい子だ。俺は市警の助太刀にいく。敵に出くわしても下手に抵抗して刺激はするな、奴らはプロだ」

 ここで初めて理解した。目の前にいる男は確かに騎士なのだ。


「さあ、もう行け!」

 シュラウスのおかげで少しの冷静さを取り戻したぼくは、その言葉のとおり駆け出した。一度振り返ったときに目に入ったのは、月夜に反射する長い刀身と風を切ってたなびく青いサーコートだった。

(気を付けて!)




(この通りを抜ければすぐに桟橋だ!)

「おっと、動くなよ。お前、シュリスのガキだろ?」

「っ!」

 最悪だ!あと一歩のところだったのに…

 盗賊の一人だろう。眼帯の男は下品な笑みを浮かべながらぼくの進路を阻む。


「俺は身代金が欲しいんだ。おとなしくついてくれば痛くはしねえぞ、さあ」

 どうしようか…シュラウスは戦うなといった。でも逃げるためにはここを抜けるのが最善なのだ。思い出すのは最初にシュラウスに出会ったときだ。いまのぼくは杖も持っている。

(一人くらいなら…)

 これは賭けだった。ぼくは賊におびえて従う振りをすることにした。魔法をくらわすのはやつにギリギリまで近づいたときだ。


「お、聞き分けがいいねぇ」

男まであと五歩、四歩、三歩……

(いまだ!)

 ぼくは懐から杖を取り出し、まっすぐ男に向ける。そして…

「吹っ飛べ!!!!」

 目が眩むほどの閃光。杖のおかげなのか、訓練のおかげなのか、前回の何倍もの威力となったぼくの魔法は、盗賊を通りの端まで吹き飛ばした。

 視界が元に戻り、ぼくは一目散に桟橋を目指す。しかし、ぼくが通りを走り抜けることはなかった。


 倒れた男をまたぐようにして、いくつもの影が姿を表す。

「おいおい、こりゃてめえがやったのか?」

「可愛い顔して怖いことするじゃねえか、へへ、俺らも楽しませてもらおうか?」

 今度は十人もいる。盗賊の魔の手はすでにエステリオン全体にまで広がってしまったのだろう。


(もう一度!)

 杖を握る手に力をいれる。しかし、クリスタルが淡く光るばかりで、ふたたび魔法が発動することはなかった。

(マナを使いすぎた!?)

 賭けはぼくの負けだ……

来た道を引き返して逃げるしか……だめだ、足に力が入らない…



「いたいけな少女を相手にむさいおっさんがよって集って…まったくナンセンスじゃないか」

 凛とした声が夜風に響く。賊どもの背後からだ。ぼくも男たちも声の方を向いた。

 立っていたのは背の高い女性だった。服装をみるに、彼女もシュリスの生徒だろう。

「なんだ?お前も学生か?自分から捕まりに来るとは良い教育を受けてるようだな」

「だが、口の利き方がなってないぜ!!」


「そうだね、君たちのような下衆相手には言葉はいらないだろう」

 杖の先端を向けられた瞬間、彼女を挑発した盗賊に異変が起きた。

「なにを…っぐあああああ!!!」

 突然苦しみだして、地面をのたうち回っている。その姿を見て周りの盗賊にも動揺がはしる。


「ひ、怯むな! 相手は一人だ、お前らやっちまうぞ!!」

 男たちは剣を抜き一斉に彼女に襲い掛かる。しかし彼女の方は全く動じる様子もなく杖を高く掲げる。

 戦闘には十秒とかからなかった。杖の勝利だ。


「何人いようが変わらないさ…」

 彼女のつくりだした魔法の氷は瞬く間に賊たちを地面に縫い付けた。

 それから彼女は、腰を抜かしているぼくのもとに近づいて、手を差し伸べてくれた。


「もう大丈夫さ、怖い思いをさせたね。君、怪我は無いか?立てそうかい?」


「えっと、大丈夫です。あれ、なんだか力が抜けちゃって…」

 マナ不足かそれとも安堵からか、足に力が入らない。

「無理もないさ、ほら、手をとって」

「あのっ、助けてくれてありがとうございました!」

「可愛い後輩を助けるのは先輩として当然さ。しかし驚いた…エステリオンで盗賊騒ぎなんて聞いたことがない。これではせっかくの週末も台無しというものだ」


 かっこいい女の人だ。悪を挫く正義の魔法使い。おとぎ話だと思っていた。しかし彼女は今確かにぼくの目の前にいる。たった今、目指すべき姿がはっきり見えた気がする。ぼくはこの人に憧れた。

「船に乗ったらも安全のはずだからそこまでは送っていこう。私はまだやることがある、そこから先は気をつけて帰るんだ。いけるね?」

「は、はい!」


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