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BRAVE GIRL  作者: 星菜 琉衣
8/9

第8話

圭一VS凪沙!!



「男は、素手だろ?」

「ざけんなァァァ!!!」

一人の叫びを合図とするように、周りは一斉に圭一に襲い掛かった。

その状況にも全く動じる様子を見せない圭一は、にやりと口の端を持ち上げる。

「死ねやァ!!」

再び圭一の頭上に振り下ろされた鉄パイプ。

今度は避けずにそれを難なく素手で受け止める。

男に驚いている暇を与えず、掴んだまま腕を振り回し背後で襲い掛かろうとしていた集団に叩き付けた。

男の体に叩きつけられ雪崩のように倒れこんでいく。

今度は一人の男が無茶苦茶に棒を振り回してきた。

圭一はそれを軽々と全て避け次の攻撃の隙をついて鳩尾に拳を入れる。

男が呻きながら倒れたと同時に左右両方から攻撃が来るが、それも避け二人の頭を掴みお互いの額に打ち付ける。

それからも攻撃を受け続けたが、圭一に傷一つ負わせることも出来ずにいた。

襲われてる―――まるで圭一が襲っているように千歳は見えていた。

「どうしたオラァ!!この程度で東雲の名前背負ってんのかァ!?」

呻き声を出している男の胸倉を掴みながら楽しんでいるような声音で圭一は吠えている。

初めて見る圭一の姿に千歳は鳥肌が立っていた。

だけどそれは、恐怖からではないと千歳は分かっていた。

「なっ、凪沙さんっ…あの男もしかして、《銀狼(ぎんろう)》じゃ…!?」

「…誰それ?」

凪沙の脇に立っていた男が青ざめながら震える声で言った言葉に、凪沙は眉根を寄せる。

千歳もその名前は聞いたことがあった。

「知らないんですか!?数年前に湘凜のトップに立っていた男、この辺りの高校や族を何個も一人で壊滅させたという伝説の男ですよ!!銀髪を返り血で紅く染め、血と狂気に吠える姿はまさしく一匹の狼―――。」

「な、なんだよそれっ…あ、あんな恐ろしい男、勝てるはずないっすよ…!!」

その話を聞いた凪沙の周りは暴れる圭一の姿にすっかり青ざめている。

(《銀狼》…あいつが…?)

強さ、冷静さ、対応、技―――。

その喧嘩のセンスは、鳥肌が立つほど見惚れる魅力があった。

千歳は時が止まった感覚に陥っていた。


銀髪を返り血で紅く染め、血と狂気に吠える姿はまさしく一匹の狼―――。


《銀狼》。


戦場を駆ける柊の姿は、


まさしくその《狼》そのものだった。


「…ちぃっ…!!」

なにを思ったのか、凪沙の側にいた一人の男が圭一の姿を唖然と見ていた千歳を起こして、ひやりと冷たいものを首に当てた。

千歳はその感覚に我に返り、首筋に当てられたものに青ざめる。

「ぎ、銀狼ォ!!」

「―――…?」

血に濡れた男の胸倉を掴んでいた圭一は、その光景に目を見開いて驚愕した。

「ちとっ…!!」

千歳の首筋に当てられているナイフ。

圭一は血相を変えこちらに走り出す。

「千歳!!」

「近寄るな!!こいつの首にブッ刺していいのかよ!!」

「ッ…!!」

興奮している男の言葉に圭一は慌てて足を止める。

予想外のことに余程パニックになっているらしく、千歳の首に刃先が食い込み血が流れている。

「っつう…!!」

千歳の痛みに歪めた顔に、圭一はサァッと青ざめた。

男は勝ち誇ったような笑みを口元に浮かべた。

「早瀬千影を呼べ…!!」

「っ…。」

「これ以上傷つけられたくなかったら言うことを聞け!!」

「チッ…クソガキが…っ!!」

圭一は睨みを利かせて歯を食い縛る。

―――すると、ずっと黙ってその成り行きを見ていた凪沙が立ち上がる。

ナイフを突きつけている男に近寄り、ぽんと肩に手を乗せる。

「?」

男がそれに振り向くと、頬に強烈な凪沙の拳が入った。

「ッ!?」

その場にいた誰もが驚きに目を見開く。解放された千歳は唖然と口を開けていた。

「ち、ちょっと凪沙さん、なにやってるんですか…?」

「…つまんないことしてんじゃねえよ。」

そう言って気絶した男の頭を踏みつける凪沙の瞳は、恐ろしいほど据わっていた。

その黒いオーラに仲間達はぞくりと背筋が凍る。

凪沙はゆらりと圭一に視線をやると、今までの甘い笑顔とは比べ物にならないくらいに狂気に満ちた笑みを浮かべた。

「銀狼だかなんだか知らないけどさぁ…俺の邪魔しないでくんないかな。」

「……。」

「俺は欲しいモノはどんな手を使ってでも手に入れてきた。この地位も実力で勝ち取ったよ。…だから、お兄さんみたいな人に欲しいモノ盗られたくないんだよ。」

「…千歳はモノじゃねえ。」

凪沙を睨む圭一の言葉に、凪沙はぴくりと眉を上げる。

くすりと笑って、凪沙は足元に転がるナイフを手に取る。

「…マジで殺すよ、お前。」

冗談とは思えない言葉と口元だけの笑顔に、千歳を含めた周りはサァッと青ざめた。

「柊っ…柊逃げろっ…!!」

千歳は声を振り絞って圭一に叫ぶ。

この男ならやりかねない。

千歳はそう体で感じて圭一に必死に叫ぶ。

「早く逃げろよ…っ!!」

「―――…だから、」

圭一はドスの利いた低い声を出すと、凪沙を鋭く睨みつけた。

「男が刃物(オモチャ)使って喧嘩なんかすんじゃねえよ。」

「……。」

圭一の言葉にふっと一瞬だけ笑うと、刃物を一振りして走り出した。

「ッ!!」

「むかつくんだよお前!!」

そう叫びながら凪沙は圭一の腕を斬りつけた。圭一は痛みに顔を歪めてふらつく。

千歳はその光景に青ざめた。

「柊…っ!!」

「っつ…。」

腕の傷口に被せる手が流れる血に濡れてくる。圭一は舌打ちをして凪沙を睨んだ。

「どうしたの?ほら、犬は犬らしく噛み付いてみなよ。」

圭一の血で濡れた刃物を光らせながら凪沙が迫ってくる。

そして、また駆け出したかと思うと再び刃物を振り回した。

なんとか避けたが頬に刃先が掠る。

(柊が殺される…!!)

本当に殺す気だと千歳は本能で感じた。

凪沙の瞳には狂気しか宿ってない。

本気で圭一を殺そうとしている。

「っ…なんで…。」


なんで助けになんか来た。


自分は全然関係ないのに。


どうしてそこまで他人のあたしに構うんだ。


どうして遊びだと言った女にそんなに構う?


「ほら、殺されたくなかったらさっさと消えなよ。今消えたら許してあげるから。」

「…ハッ、やだね。」

「…!!」

「千歳は絶対俺が護る。」

「-――…!!」


―――…分からない。


《柊圭一》という男が。


「はぁ?犬がなに大層なことほざいてんの?」

凪沙は声を出して笑いながら圭一を見据える。

「俺はねぇ、モノ達が泣いて叫んで俺に助けを請う姿が大好きなんだよ。千影くんと千歳ちゃんの、恐怖に震える姿が見たいんだよ。」

恐ろしいことをさらっと言う凪沙に、仲間達は改めて凪沙への恐怖を感じる。

千歳は地面を見つめたまま歯を食い縛る。

そして、声を出して笑っている凪沙の背中に吐き捨てた。

「-――誰が、てめえみたいなクズに助けなんか請うかよ…。」

「……。」

背から聞こえた千歳の言葉にぴくりと眉を上げて、ゆっくり振り返る。

「…今なんて言った?」

「はっ、聞こえなかったのか?クズだって言ったんだよ。」

「……。」

嘲笑するような笑みを浮かべる千歳の言葉に、凪沙は黙ったあとふっと笑った。

「―――…どうやら、先にぐちゃぐちゃにされたいみたいだね。」

そう言って凪沙がナイフを光らせこちらに近づいてくる。

その隙をついた圭一は走り出し、凪沙の手首を掴む。

「ッ!?」

圭一の手を振り払おうと力を籠めるが、全くビクともしない。

更に力は増して骨が軋む音がする。

「うあっ…!?」

とうとう痛みに耐えられなくなり、ナイフを地面に落とす。

「お前っ…!!」

凪沙は自由な方の手で拳を作り圭一の頬へ振る。

だがそれは簡単に避けられてしまった。

圭一はにやりと笑う。

「誰が犬だって?」

「――――」

圭一はそのまま凪沙の腕を掴み、背負い投げをして地面に思い切り叩き付けた。

「凪沙さんっ!!」

仲間達は唖然と口を開ける。千歳も同じだ。

「す…すっげ…。」

思わずそう感嘆の言葉が口から零れていた。

圭一は頬から流れた血を指で拭うと、呆然とする仲間達を睨みつける。

睨まれた仲間達はびくりと肩を竦ませる。

「失せろ。」

短くも殺意の籠もったその言葉に青ざめ、気絶した仲間と凪沙を担ぎ上げ、一目散に逃げていった。

「千歳!!」

圭一はナイフを拾うと、ぐったりと横たわる千歳の元へと駆け寄る。

ナイフで縄を切り、千歳の体を抱き起こす。

「千歳!!」

「っ…。」

「頭殴られたのか!?意識は!?」

「っ…ぅ…るせえ…。」

「待ってろ、今救急車呼ぶから…!!」

そう言って携帯を取り出そうとした圭一の体を、千歳は残っている力で突き放す。

「千歳…?」

「っ…あた、しに…触るな…!!」

掠れた強い口調で言われた言葉に、圭一は驚きを隠せない。

「千歳…?」

「―――…なんで、来たんだよ…。」

俯いた千歳の口から静かに言葉が紡がれる。

「どうして、生徒のためなんかにここまですんだよ…あんた、他の生徒がこうなるたびにこんなことやってんのかよ…。」

「千歳?なに言ってんだよ。」

「あたしをからかうのもいい加減にしろ!!」

怒鳴った千歳の声は震えていた。俯いていて分からないが、泣いているような気がした。

「あんたは遊んでるだけのつもりでもなぁ、こっちはいつも精一杯なんだよ!!どうしていいか分からねえんだよ!!あんたの思い通りに遊ばれてるって思うと、どうしてか苦しいんだよ!!」

「ッ…!!」

「いい加減にしろよっ…遊びなら他にいくらでもいるだろ…!?もうあたしに必要以上に関わるな!!」


どうして、こんなに苦しい?


どうして、こんなに胸が痛い?


こいつの優しさが苦しい。


こいつの嘘が痛い。


こんな感情あたしは知らない―――。


「…ッ…。」


どうして涙なんか流れるの?


泣き叫ぶように全て吐き出した後、閉じた瞳から静かに一筋の涙が流れた。

どうしようもない苦しさに、千歳は居たたまれなくなる。


今までの《柊》が嘘だったなんて信じたくない。


「ッ…帰る…。」

これ以上この場にいてはいけないと、千歳は俯いたまま短く告げて痛みに耐えながらゆっくり立ち上がる。

もう、これで終わりにしよう。

明日からは、お互い他人。

もう、関わらない。


「―――…待てよ。」


背からそう小さな声が聞こえたと思うと、腕を大きな手に掴まれた。

涙を流していることも忘れて驚きに振り返ってしまう。

「行くな。」

真っ直ぐな瞳で見つめている圭一に動揺を隠せない。

「行くな、千歳。」

「ッ…やっ…離せ…っ!!」

「俺はっ…お前を、《ただの生徒》と思ったことなんか一度もない。」

「っ…!!」

逸らそうとしない真っ直ぐな瞳で千歳の目を見つめ、圭一はそう強く言った。

「お前を生徒として見たことなんか一度もない。」

「な…なに、言って…。」















「好きだ。」















「――――」

強い力に引き寄せられたと思ったら、視界は急に真っ暗になった。

首に回された逞しい腕と、殴られて熱を持った頬に当たる暖かい胸板。

髪に触れる指先の感触。


―――抱き締め、られてる。


そう認識した途端、頭の中が真っ白になった。

引き寄せられる瞬間に、圭一の唇がはっきり動いた。

それは、有り得ない言葉を紡いでいて。

「…いま…なんて…。」

「…っ…。」

圭一は千歳のうなじに顔を埋め、更に強く抱き締める。

頭の中で千影のおどけた言葉が蘇る。

熱い吐息を感じると、切羽詰ったような震えた声が耳元で響く。


『あいつ、お前のこと好きなんだってよ。』


「―――お前が好きだ、千歳。」



喧嘩シーンの描写が難しすぎる…!!



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