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BRAVE GIRL  作者: 星菜 琉衣
5/9

第5話

千影×巳月の絡みが軽くあります。

でも千影喋りません。


今回は圭一出番ないです。



「早瀬千影。」

巳月はクラス名簿で名前をあげる。

目を向けた窓側の一番後ろの席は、今は空席となっていた。

巳月はしんとした教室の反応に、溜め息を一つついた。

今は朝のHRで個名を行っている途中なのだ。

「早瀬はまた休みか?」

「き、今日の朝廊下で見たんですけど…。」

「…そうか。」

生徒の返答に短く答えて、名簿に目を戻した。

千影の名前を見つめて、誰にも気づかれないような小さな溜め息をついた。


朝のHRの終了を告げるチャイムが校内に鳴り響く。

廊下は一気に生徒で賑わい始めた。

「久世先生!おはようございます!」

「ああ、おはよう。」

媚びを売るような高い声音で挨拶する女子生徒達にも、笑顔もなしにクールで返す。

挨拶を返してくれた巳月に、満足そうにキャーキャー騒ぐ女子生徒達。

巳月はそれに目もくれず廊下を進んでいった。

今日も女子生徒達の視線が巳月に集まっている。無理もない。

誰もが憧れる頭脳と美貌を持っている巳月に、魅力を感じない女子は少ないだろう。

だが巳月は熱い生徒達の視線には全く気も配らないようだ。

巳月にとってはどうでもいいことで、それよりも頭には別のことが浮かんでいた。

(あいつまたサボりやがって……。)

心の中で呟いて、呆れるように溜め息をこぼす。

あいつ、とは、千影の事だった。

昨日珍しく学校に来ていたかと思えば、早速また今日サボっている。

一時間目は授業がない巳月は、一度職員室へ戻ってから千影を探しに行こうと思っていた。

なんとか今日もちゃんと授業に出させたいと思っている。

一階の職員室へ向かうため、階段を下りているその時だった。

踊り場から飛び出してきた金髪の女子生徒とぶつかってしまい、転びそうになったその生徒の体を慌てて支えた。

「っと。大丈夫か?校内は走るな。」

声をかけるとその女子生徒は顔を上げた。

巳月は、その人物が誰だかすぐに分かった。

「早瀬千歳…。」

千影の一個下の妹、早瀬千歳だった。千影と顔がよく似ているし、この学校で彼女を知らない者は誰一人としていない。

整った顔には真新しい傷かいくつも目立っていて、心なしかその顔が赤らんでいるようにも見えた。

千歳は支えてくれていた巳月の手を振り払った。

「わ、悪い…っ」

「あ、お、おい。」

そう呟いてまた再び千歳は階段を駆け上っていった。

巳月はそれに首を傾げ再び歩みを進める。

二階の二年の棟につき階段をまた下りようとしたところで、名簿を手にした聖とばったり会った。

「あ、久世先生。おはようございます。」

「お、おう…。」

聖の爽やかな王子スマイルに巳月は顔を引きつらせた。

聖は苦手だ。

聖の腹黒い本性ももちろん知っているし、聖のようななんでもお見通しというような雰囲気が苦手だった。

「あはは、あからさまに嫌な顔しないでくださいよ。」

「べ、別にそんなこと…。って、なんでお前が2Aの名簿持ってんだ?」

「ああ、これですか?柊先生の代わりに、俺がHRやってきたんですよ。」

「柊先生、朝はいたよな?どうかしたのか?」

「まぁ、大人の事情ってやつですかね。」

「はぁ…?」

にやりと笑う聖に首を傾げる。

本当に、柊と須藤はいつになっても理解出来る気がしない。

そう心の中で巳月は聖の笑顔に溜め息をついた。

「あ。そうだ。久世先生、悪いんですが、俺印刷室に用あるんで、名簿柊先生に返しておいてくれませんか?」

「印刷室?」

「今日中に印刷しなければならない書類があるので。それじゃ、失礼します。」

名簿を渡しクリアファイルに入った書類を巳月にちらつかせると、聖は笑顔でその場を去った。

(話すだけで疲れるな…。)

朝から溜め息しかついていないような気がする。巳月は聖から受け取った2-Aの名簿も持って職員室へ向かい、仕事を一通り整理してから千影を探しにいった。

授業をサボれる場所と言ったら屋上も有り得るが、千影はあまり屋上を利用しないのを巳月は知っていた。

他に有り得る場所は、空き教室や保健室。

一通り千影がいそうな教室を探してみたが、見つからない。

最後は聖がいる保健室だ。

聖と千影は仲がいいし、可能性は十分にある。

一階へと向かい、ノックをしてから保健室に入った。

「須藤、いるか?」

声をかけるが返事はない。まだ戻ってきていないようだ。

ドアを閉めて、保健室へと足を踏み入れる。

「早瀬、いるか?久世だ。」

言いながら、ベッド周りを囲っていたカーテンをゆっくり開けた。

「はや…。」

巳月は思わず固まってしまった。

静かに寝息をたて無防備に寝顔をさらしている千影がそこにいた。

その光景に巳月は思わず顔を赤らめた。

(び、びっくりした…て、ていうか、寝顔…っ)

寝ている顔も綺麗というのはずるいものだ。

巳月は保健室に他に人がいないのを確認すると、カーテンを閉めベッドに近づいた。

「…千影、起きろ。おい。」

声をかけながら千影の肩を揺する。だが、少し身じろぎしただけでまた動かなくなった。

「…ハァ。ったく、しょうがないな…。」

腰に手を置いてまた溜め息をついた。

「相変わらずよく寝るなこいつは…。」

―――千影と巳月は、つきあって一年近く経つ恋人同士。

千影が二年の時からつきあっていて、男同士でしかも教師と生徒という関係でも、お互い真剣につきあっているのだ。

世間で許されない関係なのは、承知の上。もちろん周りにはこの関係は絶対に内緒である。

千歳でさえ知らない事実だ。

また肩を揺するが、今度は動きもしない。

「起きろって。千影?」

「……。」

(…そういや…学校で二人きりって…随分久しぶりだな…。)

ふと、そんなことを思った。少し考えたあと、ベッド脇に置いてあったイスを自分の元に引き寄せ、腰を下ろした。

(もう少しだけ見ててもいいよな…。)

自分にそう言い聞かせ、ベッドに頬杖をついて千影の寝顔をじっと見つめた。

いつもは7つも年下の恋人が、自分より大人びてい見えるが、こんな無防備な寝顔を見ているとまだまだ子供だなと実感する。

巳月は別に男が好きなわけではないが、どうしてこんなにも同性の千影が愛おしく思えるのか。

しかも校内、いや、地元で一番の問題児、《伝説の不良》と呼ばれるあの早瀬千影だ。

ときどき自分でも不思議に思う。

だが、自分が千影に対する気持ちは偽りもなく本気だ。

千影もそうであったらいいな、と、巳月は寝顔を見ながらそう思った。

「…んー……。」

(あ…起きたか…?)

「……き…。」

「ん?き?」

千影がなにかを呟いたのを聞いて、巳月は耳を寄せる。

すると、ベッドに置いてあった巳月の手を、大きな骨っぽい千影の手がぎゅっと握ってきた。

「しづき……。」

「………。」

巳月は目を見開いて固まってしまった。

千影は巳月の手を握ったまま、また寝息を立て始めた。

(ね、寝言……?)

顔に熱が集まってくるのが分かる。握られた手が段々と汗ばんできた。

(な、なんだ今の…っ///寝言…だよな…?て、てか、この手、手…っ!!)

なんて心の中で取り乱し、握られた手をどうしようか戸惑ってしまう。

「ん……。」

「……ったく…こういうとこまだガキなんだからこいつ…。」

なんて、寝息をたて安らかに眠る千影に苦笑しながら溜め息をつく巳月。

「仕方ねえからサボらしてやるよ。」

また自分は千影には甘いなと実感し、握られた手をぎゅっと握り返す。

千影が、穏やかな表情をしたのか見て分かった。


「ちっがぁぁぁぁぁぁうっっっ!!!」

大きく息を吸い、掴んだ手すりから体を乗り出し全身全霊で叫んだ。

やはり自分は思考回路がワンパターンなのか、やってきたのはいつもの屋上。

足が勝手にここへと動いていたのだ。

千歳はまだ、顔の火照りを抑えることが出来なかった。

(違う!!違うから!!あいつだからドキドキしたとかそんなんじゃないから!!!)

誰に言い訳してるのか、心の中で必死に言い聞かせている。

胸元を掴んだ手は小さく震えている。


『大事だと思う子は、護ってやりたいって誰だって思うだろ。』


「っ…!!」

胸が締め付けられるように苦しくなって、千歳はきゅっと目を閉じる。

「なんなんだよこれ…っ」

初めて味わう感情に、千歳はわけも分からず混乱する。

男にこんな感情を抱くのは、圭一が初めて。

なにもかも、圭一が初めて。


『俺が、千歳ちゃんの初めての男になってやろうか?』


「チッ……。」

圭一の思い通りに遊ばれていると思うと悔しくなって、千歳は小さく舌打ちをした。

「大っ嫌いだ……。」

説得力のないような赤い顔で憎たらしそうに呟き、千歳はしゃがみこんだ。


「凪沙さん!!人数集めました!!」

「おー、早かったね。」

東雲の溜まり場とする廃墟。

汚れた座椅子に煙草を咥え腰を下ろしていた凪沙は、笑顔でぞろぞろと入ってきた男達を笑顔で迎えた。

「わざわざごめんね、他校のみなさん。」

「…早瀬兄妹を潰すって本当か?」

鉄パイプを手にした男が恨めしそうにそう凪沙に問いかけた。

「うん。みんなが手伝ってくれれば、あの兄妹を潰す権利なんていくらでもくれてやるよ。」

「なら、俺達はあんたについていくぜ。」

「わ、頼もしい。」

凪沙は煙草を足で揉み消してにこりと笑ってみせた。

だが、そのまるで無邪気な笑顔は凪沙から消え去り、代わりに凍りつくような冷たい笑みを浮かべて口を開いた。

「じゃあまず、妹の―――千歳ちゃん、ボコボコにして連れてきて?」

次回、ドSな保健医聖先生VS巳月先生の絡みあります(笑)

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