想い出の代償
持病のある私の体は、ぽんこつだ。
若い頃から抱えた持病のおかげで、旦那に言わせれば三歳児並みの体力しかない。
健常者のふりをできるのは日にせいぜい五時間あるかどうかで、大抵は午前中少し頑張ると午後は布団に戻らざるをえない。
それでも、頑張らねばと一念発起して挑むことも度々ある。
そう、例えば夏休みの旅行、とか。
今年の旅行は、箱根に一泊。
例年よりも仕事で予定が組めず、今回は小学生の娘を連れての旅にしては渋い選択になった。
初日は大雨で、とりあえず逃げ込んだ美術館で時間を潰し、渋滞にはまりながら宿に移動。
雨の音を聞きながら自慢の風呂に入り、部屋で食事をとった。
翌日も雨降りだったが、やっぱり渋滞にはまりつつも大涌谷へ。見せたかったのとは違う真っ白で何も見えない世界もまた楽しくて、下山してからは箱根神社に参拝にも行った。
途中で代わるつもりだったのに、旦那が最初から最後まで運転してくれたので、私の負担は本当に最小限だったと思う。
それでも帰宅した頃にはボロボロだった。
まず、普通に歩けない。体中が軋んでいて、呼吸もいつもより浅くしかできない。
貧血の代表的な症状を全部思い浮かべて貰えば大体あっていると思う。
なると分かっていたから鎮痛剤も早めに飲み、出来るだけ体を休める。
翌日は、当然のように熱が出た。
予想通りなので、丸一日可能な限り眠って過ごした。
椅子に座っていられるぐらいまで回復したのは夜近く。本当に我ながらぽんこつな体だと思う。
でも、それが私の体なのだから仕方がない。
そんなになるのに、何故行くの?と訊かれるかもしれない。
それは、やっぱり母親だからなのだろうね。
体がきつくても、もしかしたらそれでタダでさえ少ない寿命を削っているのだとしても。
笑って過ごした時間は、娘に何かを残してくれるだろう。
家族と過ごした記憶は、将来、あの子を支えてくれるだろう。
そう思うと、行かないという選択肢は出てこないのだ。
寝室の天井を見上げながら、心の中で拳をあげる。
また一個、家族に想い出を残せた。やり遂げたぞ!って。
あといくつ残して逝けるのか。
出来れば一つでも多く積み上げられますように。
そう祈りながら、私は布団に沈むのだ。