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迎え火


 今年も家族で火を焚く。

藁で作った馬と牛。

並べて四人、蚊取り線香に燻されながら、玄関先で火が消えるのを待つ。


 今日、八月の十三日は迎え盆だ。


 私は義父母と一緒に住むようになるまで、この迎え火送り火とは無縁に生きてきていた。

どちらの実家も日常ですぐ帰れる距離だったおかげで帰省はなかったし、私自身は実はクォーターで実家は父方の血筋に合わせてお盆の習慣がなかったのだ。

なので、同居し始めて、初めてお話の中だけでなく、本当に野菜の馬や牛を並べ、藁を燃すのだと知った。


 旦那の実家を建て直し、義理の親と同居し……そして、今の娘を養子に迎え、やっとなんとか互いに遠慮し合ったり、時に喧嘩したりなどのぎくしゃくがなくなった頃、義父が倒れた。

脳内出血。

それまで、自営業で仕事をしつつも元気に笑い、娘のために低いいい声で歌を歌ってくれていたのに、本当にある日突然だった。

出先の方が通報してくれて直に救急車で運ばれての緊急手術。

一命はとりとめたけれど、その後約二年。

向こう岸に逝ってしまうまではずっと付き添った義母にとっても、そして今となっては聞くこともできないけれど、きっと義父自身にとっても、とても辛く長い時間だった。

初期の頃、施設の方が少しでも復帰させようと作ってくれたリハビリのプログラムを、中々しようとしない義父に、私はつい怒ってしまった事がある。

でも、今ならわかる。きっとやりたくても出来なかったのね。

一番悔しかったのは義父自身だっただろうに、私はなんてことをしてしまったのだろう、と、今でもそのことについては後悔している。


 義父は、倒れてから結局一度も家には帰れなかった。



 火が消える頃。

藁から火を移した蝋燭を義母が持ち、娘が馬と牛をもって家の中に戻る。

私は旦那と火が消えるまで見届けてから家に入る。

皆でお線香をあげて、夕食の時間になる。


 毎年、今日の献立はアジフライ。義父の好物だ。

ちなみに明日は昔ながらのカレーライス。

いかにも男性という揚げ物やカレーなどのメニューが大好きだった義父。

翌日のお昼までのつもりで作った大鍋のカレーを、夜食に義父が食べきってしまい、朝びっくりしたなんてこともあった。

あの頃は今の倍の量お米も炊いていた。

小食の義母とは真逆で、本当によく食べる人だった。


 お盆の時期、我が家には義父と、実の娘と、そしてご先祖様たちが帰ってくる。


 娘については、なんとなく普段から近くにいる気がするけれど、変なところで几帳面だった義父は、普段は空にいるような気がする。

そして迎え火に合わせて、「やぁやぁ、久し振り、ただいま」って笑いながら帰ってきてるのが目に浮かぶ。

亡くなって、やっとうちに帰ってきた。

闘病の末の痩せこけた姿じゃなく、あの頃のちょっとお腹が気になる元気な姿で。

食卓の席に、笑顔でついて一緒に食べてくれているのが目に浮かぶ。

だから、あの時のごめんの代わりに、私は盆の間、義父の好きだったものをたくさん並べて「おかえりなさい」って笑うのだ。

何度でもあの時はごめんって言いたくなるけれど、「もう何度も聞いたからいいよ、いいよ」って笑っている姿まで目に浮かぶから。


 明日は、どれぐらいカレーを作ろうか。

普段は作らない、教科書に出ているようなオーソドックスなカレー。

夜中にこっそり食べている姿を思い浮かべながら、たくさん作ろう。

お義父さん、たくさん食べていってね。




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― 新着の感想 ―
小食の義母が残したものを義父が食べ…… そんな、二人の姿を思い浮かべてしまいました。
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