第6話 ゴリ押し鑑定
「ええと、皆さん?記録の関係もありますのでお1人ずつでないと困ります...。」
僕の前に集まってくれた5人に対して王女は眉を八の字にしながらそう言った。
「ミクリヤさん、早く次の方を指名して...」
「んじゃさ!ジャンケンで決めよーぜ!勝っても負けても恨みっこ無し!勝った奴がみっくんの指名を勝ち獲れるってこで。」
王女が僕に指名を促す言葉を投げかけている途中で、佐俣がそんな提案を被せた。
「さんせー!...言っとくけどわたしジャンケン強いよ?」
「根拠ねぇこと言うな。」
「...俺は生まれてこの方ジャンケンで負けたことが無い。」
「わ、私も負けた事ない!」
「先生だって...!」
「レゴ助ってたまに変な嘘付くよな。...そんで有栖川と先生もノるなって。」
背後で不快感を全面に押し出した表情をしている王女を放置して、5人は和気藹々とジャンケンを始めた。
他のクラスメイト達はそんな僕達の方を見てなんとも言えない顔をしている。
「...よし。やはり俺が1番だ。」
「くっそ。ホントにつえーのかよ。」
「わたし2番かー。ま、ギンギンに勝ったからよしとしますか〜。」
「私...弱いね。」
「有栖川さん!せ、先生と代わりますか!?」
ジャンケンの結果鑑定の順番は、礼護、吾武、佐俣、羽根田先生、有栖川、となった。
最下位だった有栖川に先生は気を使って声をかけたが、直前に「最後は嫌」と言っていた先生に対して有栖川も気を使い、その申し出を断っていた。
というか僕の次以降の順番もまとめて決めてしまったようだ。
...その方が良い。
僕みたいな悩みを抱えるくらいならこっちの方が全然気が楽だ。
「それじゃあ理久。俺を選べ。」
「お、おう。...ありがとな。」
礼護の、そして皆の気持ちを有難く受け取り、僕は礼護を指名した。
「...はい。では決まった様なので鑑定石に手を。」
王女の態度も大分あからさまになって来たな。
一応はまだ有能なステータスが出てくる可能性もあるから何とか取り繕っているという感じだ。
特に何も言われなかったので僕達は鑑定石の前に集まったまま礼護を見守っている。
果たして礼護の鑑定結果は...
名前:郷田 礼護
職業:農民
スキル:土いじり
魔法適性:土
武器適性:農具
レベル:1
攻撃:80
防御:80
体力:120
敏捷:80
魔力:50
「やば!農民だっt...」
「礼護って実家が農家なんだっけ?そういうの関係あるのかな?」
クラスメイトの誰かが要らない事を言おうとした所に僕が言葉を被せた。
さっき佐俣が王女の言葉を遮って空気を変えたのを参考にしてみたのだ。
「...ああ。実家の手伝いで畑や田んぼの世話をしていた事があるし、割りとそれが好きだったから...ちょっと嬉しいな。」
「そんじゃアタリだな!早くオレのも見てぇからおっちゃん記録急ぎめでよろー!」
「次はわたしだけどねー。」
僕達はそのまま他のクラスメイト達が割り込めない様に矢継ぎ早に話し続けた。
それでも小声でバカにするような声がちらほらと聞こえて来たが、僕達は僕達で学校で話していた時のような空間を形成し、なんだか今までの日常が帰ってきたかのような感覚で少し楽しかった。
さっき僕がステータスの記録作業を待っていた時は嫌に長く感じていたこの時間が、苦痛に感じなかったのだ。
表情を見るに礼護も同じ気持ちで居られた様だった。
「じゃあ次わたしね!」
礼護の記録が終わり、文官と話していた王女が職業の解説をしようとしていたが、吾武はあえて空気を読まずにすぐさま鑑定石に手を置いた。
名前:吾武 莉那
職業:鍛冶師
スキル:鍛冶 工作
魔法適性:火
武器適性:槌
レベル:1
攻撃:100
防御:130
体力:110
敏捷:80
魔力:50
「広い括りで見れば...文系?」
「括り広すぎね?ってかお前はただの腐女子だろ。」
「莉那はこう見えてお裁縫とか得意な【The女の子】なんだよー。だから鍛冶師はピッタリだと思うな!」
「くるむんってばー、こう見えては余計だぞ♡お裁縫と鍛冶をものづくりで一緒くたにしちゃうくるむんも可愛いねー!...でも実際【刀乱】見てから興味あったからちょっと嬉しいんだよね!」
刀乱というのは【刀剣淫乱】の略で、主に女子達に人気があるアニメ作品だ。
擬人化した刀剣達がくんずほぐれつする物語りらしい。
「.....。」
何やら王女の顔がもの凄いことになっている。
クラスメイト達ももはや大きな声で野次を飛ばす事は無くなっていた。
礼護の時と同じくちらほらと悪口は聞こえて来たが、僕達は構わずいつも通りの会話をしている。
「よっしゃ!やっとオレの番か!」
王女は解説するつもりも無くなったらしく、情報を伝えに来た文官を手で制していた。
それをいい事に、吾武の記録が終わるや否や佐俣が鑑定を始める。
名前:佐俣 銀河
職業:海賊
スキル:波読み 略奪
魔法適性:水
武器適性:銛 銃
レベル:1
攻撃:150
防御:100
体力:150
敏捷:130
魔力:120
「お!?おお!?海賊とかかっけぇー!海賊の王様と目指しちゃう??」
「...王様の前でそういう事言うな。」
「レゴ助は空気読み過ぎな。」
「佐俣は空気読まな過ぎだよ。」
「さ、佐俣君!略奪はダメですよ?」
「あ、大丈夫っす!オレ良い海賊になるんで。」
「良い...海賊??」
有栖川は少年漫画に疎いためポカンとしていた。
まぁでもよく考えたら主人公達が海賊って凄い話だよな。
なんて某有名海賊漫画に対して要らない考えが浮かんでしまった。
「先生も見てみます!」
佐俣の鑑定と記録が終わると、今度は羽根田先生が気合い充分といった様子で鑑定石に触れる。
名前:羽根田 陽世子
職業:気象予報士
スキル:天気予報
魔法適性:風
武器適性:無し
レベル:1
攻撃:50
防御:80
体力:80
敏捷:80
魔力:200
「ちびっ子お天気お姉さんッ!?」
「誰がちびっ子ですか!!??」
「ピヨコせんせーはちびっこで可愛いよー?」
「ほんとね!...あ、でも先生の事は尊敬してますよ!可愛いのは間違いないですが!」
「先生、有栖川の言う可愛いは小さいという意味ですよ。」
「ちょ、ちょっと御厨くん!」
「うぅ...。いつから先生はこんな扱いになってしまったのでしょう...。」
「...俺もギャップ、いいと思います。」
「郷田君まで!?」
いや、マジで良いな。
ちびっ子お天気お姉さん。
佐俣ナイスネーミングセンスだ。
なんだ。
鑑定ってこんなに楽しいんじゃないか。
いつもの空気を取り戻した僕達はすっかりこの時間を楽しんでしまっていた。
「皆様!楽しそうにしていらっしゃいますが、貴方達の職業ランクはDとC判定ですよ!」
しかしそんな空気に水を差す王女のこの言葉に、僕を嘲笑っていたクラスメイト達が再び息を吹き返し始める。
「や、やっぱりそうだよな!」
「農民とか鍛冶師とかどう見ても勇者じゃねぇもんなw」
「佐俣くんとピヨちゃんがCなのかな?」
「でもその2人も全然ファンタジーって感じじゃなくね?」
「わかるーw」
だが今更何を言われようと僕達は変わらない。
僕達は僕達でこのまま進めるだけだ。
「有栖川。」
僕は有栖川を見る。
「うん。...ふう。なんだか緊張するね。」
彼女も大丈夫そうだ。
緊張はしている様だが、その顔には微笑みがある。
そしていよいよ最後の鑑定。
有栖川が意を決して鑑定石に触れた。
名前:有栖川 来夢
職業:聖女
スキル:奇跡 祈祷 アイテムボックス
魔法適性:聖
武器適性:杖 棍
レベル:1
攻撃:150
防御:150
体力:150
敏捷:150
魔力:1000
「え、Sランク...。」
文官の情報を待たずしてそう呟いた王女の言葉に、大広間は静まり返ったのだった。