第六章:空駆ける者と風の星印
「この先にある“グライス高原”……そこに“風の星印”が眠っていると言われている」
リオたちは、湖都アークレインを後にし、西の空に浮かぶ空中都市を目指していた。風の巫女が守るという星印の行方を追う中、空に響いた警報音――
「警告ッ! 前方より高速物体接近中!」
警備用の飛空艇に搭乗していた三人の前に、影が現れる。それは鳥の翼を持ち、風を操る戦士たち――空賊団だった。
「おっと、よそ者はここから先、通行料がいるぜ!」
先頭に立つのは、空賊の首領。少年のような面影と細身の体に、信じられない速度の風の魔力を纏っている。
「悪いが、“風の星印”は俺たちの獲物だ。先には行かせねぇ」
「空賊相手に引くつもりはない!」
リオが剣を抜き、エリナとガルドも応戦態勢を取る。
しかし――その瞬間。
「速い……!」
一陣の風と共に、ヴェイグがリオの背後を取っていた。空を切る鋭い蹴りがリオの胸に突き刺さり、吹き飛ばされる。
「俺の風に、目で追いつけるか?」
「……やるじゃねえか、空のガキ」
ガルドが前に出る。獣の嗅覚で風の流れを読み、斧でヴェイグの動きを封じる。
「そいつが隊長か……じゃあ俺も、本気出すか」
ヴェイグの背中にある風の紋章が光る。
「《風刃翔舞》――!」
風の刃が旋回し、ガルドとリオをまとめて切り裂こうとする。が、その時、エリナが風に乗せて火球を打ち上げた。
「風は、火を運ぶのよ――ッ!」
爆裂する炎が風を乱し、ヴェイグの視界を奪う。
その隙に、リオの剣が彼の背後をとらえた。
「そこだ――!」
だが、リオの一撃は寸前で止まった。
……いや、止めたのは、ヴェイグ自身だった。
「へぇ……本気で殺す気はないってわけか。なるほど、噂の“継承者”ってのも、意外と甘ぇんだな」
彼は剣先に手を当ててニヤリと笑う。
「気が変わった。お前たち、本気で“星印”を集めてるんだな」
「だったら、お前も知ってるはずだ。星が乱れれば、この世界が崩壊する」
「知ってるさ。でもな、星を集めてどうする? 世界を救う? それとも、“星の力”を手に入れたいだけか?」
リオは迷わず言った。
「どちらでもない。星を“未来へ繋ぐ”ためだ」
その言葉に、ヴェイグはしばらく沈黙し、やがて肩をすくめた。
「気に入った。なら、試してみろよ」
彼は胸元から、小さな風の結晶を取り出した。
「こいつが“風の星印”だ」
「……まさか、お前が?」
「ああ。俺が、風の継承者の一人……だが、選ばれし者じゃなかった。結晶はずっと、何も反応しなかった。だが――お前に見せた瞬間、風が鳴いた」
風の星印は、リオに反応して蒼白く輝いた。
「継承者ってのは、力でなく“意志”に応えるらしいぜ」
ヴェイグは星印を差し出し、ニカッと笑った。
「俺の風は、お前に託す。だがな、次会うときは味方とは限らねぇぜ、剣士」
こうしてリオは、三つ目の星印――《風の星印》を手にした。
しかしその時、彼らの足元の大地が微かに揺れた。
「地震……?」
ガルドが空を睨む。
「いや……違う。“地の鼓動”だ。おそらく次の星印が、目覚めようとしてる」
新たな地平。眠る土の星。そして、そこに待ち構えるは、星を呑む“巨人”の影――。
星の旅路は、止まらない。