第五章:水鏡に映る真実
――夜明け前のルナリス湖は、静寂に包まれていた。だがその静けさを引き裂くように、空に浮かぶ黒艦が不気味な光を放つ。
「この湖は、もはや我ら《クロノ・ヴェイル》の領域」
艦上に立つのは、水の魔術に特化した暗黒魔女、《イリシア・クレイン》。銀髪に仮面、氷のように冷たい瞳――その力は、湖を“自分の体”のように操る異能。
「お前たちが星の継承者か。愚かな希望を抱く者たちよ……」
リオは剣を抜き、エリナは杖を構え、ガルドは斧を肩に担いだ。
「お前に星は渡さない!」
「返してもらうぞ……“水の星印”と、巫女をな!」
その瞬間、水面から魔獣の軍勢が現れた。イリシアの魔力によって具現化された“水精の戦獣”たち。
「来い。濁流に沈め」
戦端は、一気に開かれた。
* * *
◆リオ剣閃が魔獣の腕を切り裂くも、すぐに水の再生能力で修復される。
「何度でも再生する……なら、一撃で核心を突くしかない!」
リオは星狼流の奥義に挑む。《彗閃牙》――星の力を剣に流し、魔獣の中核を断ち切る一撃。
「斬ッ!」
青く輝く刃が魔獣を一刀両断にした。
◆エリナ炎は水に弱い。しかし、温度を極限まで高めれば、蒸気爆発を起こせる。
「《紅蓮極爆・陽陽》!」
湖水を瞬間蒸発させ、敵の視界と攻撃を封じる。
◆ガルド戦場の最前線で戦獣と組み合い、肉弾戦でねじ伏せる。
「来いよ、水の化け物ども……! 俺の爪が、お前たちを引き裂く!」
彼の斧が描く旋風が、敵の群れを粉砕する。
* * *
だが、イリシアの力はそれだけではなかった。
「見せてあげる、真の《水の魔導》を」
彼女の呪文と共に、水面が鏡のように硬化し、三人の姿を反射する。
「これは……俺たち自身!?」
鏡の中から現れたのは、“偽りの分身”――リオ、エリナ、ガルドの《水鏡の影》。全く同じ技、同じ速度、同じ力で襲いかかってくる。
「くっ……俺たちの動きを完璧に……!」
「自分自身を超えなきゃ、前に進めないってことか!」
三人は、互いの“本質”に向き合いながら、己の弱さとぶつかる。
リオは“ためらい”を。エリナは“怒り”を。ガルドは“孤独”を――打ち破る。
「俺たちは、“一人”じゃない!」
三人が力を合わせ、三つの影を撃破した瞬間、湖が蒼く光り出す。
イリシアの動きが止まる。
「……まさか」
湖の中心から、蒼く光る水晶が浮かび上がった。それこそが――第二の結晶、《水の星印》だった。
「……“応えた”のか、星が」
リオは手を伸ばし、星印をその手に収める。その瞬間、蒼い力が体内を駆け巡る。剣に宿る星の魔力が、水の力と共鳴する。
「これは……新たな力……!」
「っ……ふふ、なるほど。だから《継承者》と呼ばれるのね」
イリシアは笑う。そして霧と共に退却した。
「私たちはまた会うわ。すべての星印が揃う時、楽しい“終焉”が始まる」
敵は去り、湖に再び静寂が戻る。
リオたちは、星印を手に次なる旅路を見据えた。
「残るは五つ……次は、風か、土か、それとも――」
「進もう。今度は俺も一緒に行く。巫女の行方を追うためにもな」
仲間は三人。結晶は二つ。星の運命は、ゆっくりと動き始めていた。