第四章:湖都と獣の誓い
霧に包まれた幻想の湖――《ルナリス湖》。その中心に築かれた浮遊都市には、古より“水の星印”が祀られていると伝えられていた。
リオとエリナは、渡し舟に揺られながら湖の都を目指していた。
「……この霧、ただの自然現象じゃない。魔力が渦巻いてる」
エリナがそう呟いたとき、突然、舟の周囲の水面が爆ぜた。
「敵襲か!?」
水中から飛び出してきたのは、巨大な水蛇型の魔獣。その鱗は鋼のように硬く、簡単には傷つかない。
「まずいな……! この距離じゃまともに剣を振れない……!」
エリナが火球を撃とうとした、その瞬間だった。
「どけ、火の娘!」
獣のような咆哮と共に、白銀の影が空から降ってきた。
その男は、狼の耳と尾を持つ獣人。しなやかな筋肉と戦斧を携えたその姿は、まさに“戦士”だった。
「《裂空爪斧》ッ!」
旋風のような動きで、魔獣の首に斧を叩き込む。咆哮と共に水面が爆ぜ、魔獣はそのまま沈んでいった。
「おい、お前たち。何のつもりでこの霧の中に入った?」
彼の名前は――《ガルド》。“蒼狼族”と呼ばれる獣人の戦士であり、《湖都の守人》を務めていた。
* * *
アークレインの街に着いた三人は、しばしの休息を取る。ガルドは語った。かつてこの湖には、“水の巫女”と呼ばれる存在がいたこと。そして彼女が守っていたのが、「水の星印」だということを――。
「だが、巫女はもういない。七年前、奴らに連れ去られた」
「奴ら……クロノ・ヴェイルか」
「ああ。だが、俺は信じてる。まだ彼女はどこかで生きてる。星印も、まだこの湖のどこかにある」
ガルドは拳を握る。
「俺は、あの巫女に誓ったんだ。“星が乱れたとき、再び戦う”ってな」
リオは頷いた。
「なら、俺たちと一緒に戦ってくれ。星の結晶を、クロノ・ヴェイルの手には渡せない」
ガルドは黙って彼を見つめた後、獣のように笑った。
「いいだろう、剣士。お前の目には“嘘がない”」
こうして、リオとエリナに三人目の仲間――獣人戦士ガルドが加わった。
しかし、その夜。
湖の底から再び魔力の波が立ち昇った。浮上したのは、漆黒の魔導戦艦。その甲板に立つのは、新たな刺客の精鋭、《水鏡の魔女・イリシア》。
「水の星印は、我らのもの。継承者ども――滅びなさい」
次なる戦いが、静かに幕を開けようとしていた――。