第三章:星読みの書と黒き魔導結社
エリナの案内で、リオはフラムナの郊外にある古びた屋敷を訪れた。そこは彼女の父――かつて“星読み”と呼ばれた伝説の魔導士の隠れ家でもあった。
屋敷の書斎には、無数の魔導書が積まれている。その中でひときわ厳重に封印された黒革の書物が、一冊だけ鎮座していた。
「これが……“星読みの書”?」
「そう。父は生前、この書に“彗星の飴”の真実を書き残したって言ってた。だけど、読める者は限られている」
エリナが手を翳すと、封印が解け、書が開いた。
そこには一行の言葉が記されていた。
“彗星の飴は、七つの星印により目覚める”
「星印……?」
「それぞれ、異なる属性の“星の結晶”に宿ってる。火、水、風、土、光、闇、そして――無」
「それらを集めれば、“彗星の飴”が完全な形で蘇る……?」
「でも、それを狙ってる連中がいるの。父は、それを“クロノ・ヴェイル”と呼んでいた」
その名を聞いた瞬間、リオの胸に警鐘が鳴る。
* * *
その夜。
屋敷の外に、異様な気配が満ちていた。空気が凍てつき、闇の中から現れたのは、漆黒のローブを纏う一団。
「ようやく見つけたぞ、“星読みの書”……」
先頭に立つのは仮面の魔導士。彼の名は《ヴァルト》。クロノ・ヴェイルの執行官にして、闇の魔法を操る者。
「君たちの旅はここで終わりだ。“星の結晶”は我々のものになる」
リオはすぐさま剣を抜く。エリナは炎を纏い、背後に立つ。
「来い、黒ローブ!」
戦いが始まった。
ヴァルトの闇魔法は凄まじく、地面から黒い腕を伸ばして攻撃してくる。リオの剣では打ち払っても追いつかない。だが――
「エリナ、時間を稼いでくれ!」
「任せて!」
エリナが《火竜陣》を展開し、敵の動きを封じる。その間にリオは、星読みの書に記された第一の結晶の名を思い出す。
「“火の星印”……それが、この街にあるはず!」
リオの声に呼応するように、エリナの胸元のペンダントが赤く輝いた。
「これは……お父さんの形見……!? まさか、これが……!」
ペンダントの中から、火の魔力を宿した結晶が浮かび上がる。
「それが“火の星印”。君が星の継承者だったんだ!」
ヴァルトが結晶に手を伸ばす。
「その結晶、渡してもらう!」
だがリオの剣が、彼の腕を切り裂いた。
「仲間には、触らせない!」
エリナが叫ぶ。
「《紅蓮焔舞》――!」
炎の渦がヴァルトを飲み込み、闇のローブを焦がす。
「クッ……ここで退く。だが次はないぞ……“継承者”ども……!」
ヴァルトは黒い靄と共に姿を消した。
嵐が去り、静寂が戻る。
リオとエリナは、結晶を手に改めて誓い合った。
「あと六つ……これから、もっと強い敵が来る」
「うん。でも、負けない。私たちが、“星を繋ぐ者”になる」
ふたりの旅は、新たな段階へと突入した。
次なる地は――「水の星印」が眠る、幻の湖の都。