第二章:炎の少女と魔導の街
風が砂を巻き上げる。リオは乾いた大地を越え、ようやく一つの都市へとたどり着いた。
その名は《フラムナ》。火の神を信仰するこの街は、古くから魔導技術に優れた「魔術師の都」として知られていた。
「魔法って、本当にあるんだな……」
リオの目の前で、杖を構えた少年が空中に炎の球を浮かせている。それは本でしか見たことのなかった、“世界の理をねじ曲げる力”だった。
リオが彗星の飴を探すためには、この魔法の仕組みを知る必要がある。というのも、祖母の日記にはこう記されていた。
“蒼の結晶は、星の魔力の核。その力を引き出せる者は、星と対話できる魔導士のみ”
「だったら、探さなきゃならないな。星と話せる魔導士ってやつを」
* * *
その夜。
フラムナの広場では、珍しく闘技試合が開かれていた。魔法使いと剣士、異なる流派の戦士たちが実力を競い合う見世物だ。
リオが見物人の輪に入った瞬間、目を奪われた。
「……あの子、火を纏って戦ってる」
ステージに立っていたのは、赤い髪を炎のようになびかせた少女。彼女の名は《エリナ》。炎を操る《焔紋》の魔導士。
「火竜の牙!」
彼女の杖から放たれた炎の槍が、対戦相手の土壁を貫き、一撃で試合を終わらせた。
「次ッ! 次の挑戦者は!?」
声に押されて、気づけばリオはステージに上がっていた。
「俺がやるよ」
「剣士? まさか魔法なしで来たんじゃないでしょうね?」
「残念。こっちは剣だけで勝つ」
* * *
戦いが始まる。
エリナの魔法は、火の魔力を自在に操る高位術。対してリオは剣技のみ――だが、読みと機動でわずかに押し返す。
「この剣……ただの剣士じゃないわね」
「そっちこそ、火を“形”にして使うのがうまい。まるで生き物みたいだ」
剣と炎がぶつかり合い、試合場に火花が散る。だがその時、突如として試合会場の地面が揺れた。
「!?」
地下から何かが飛び出した。それは黒い外殻を持つ異形の魔物。地底を這う大型の魔獣だった。
「どうしてこんなところに魔獣が!?」
観客が逃げ惑うなか、リオとエリナは即座に構える。
「エリナ、援護を頼む!」
「了解!」
リオは魔獣の動きを見極め、足を狙って飛びかかる。そこに、エリナの魔法が加わる。
「《業炎弾》!」
赤く輝く魔弾が魔獣の背中を撃ち抜き、リオの剣がその喉を切り裂いた。
刹那の連携で、魔獣は崩れ落ちる。
「ふぅ……助かったわ。あんた、なかなかやるじゃない」
「君の魔法がなきゃ勝てなかった」
戦いのあと、二人は広場の片隅で向き合った。
「エリナ。君、星の魔力を知ってるか?」
「……その名前、どこで?」
リオの問いに、彼女は目を見開いた。
「星の魔力。古代に封じられた“彗星の飴”を探してるんだ」
沈黙ののち、エリナは頷いた。
「なら、一緒に来て。私の家に“星の魔導書”がある。……父の遺した本よ」
こうして、リオは旅の初めての仲間を得た。
炎を纏う少女と、剣を握る少年。運命は、ふたりを星の道へと導いていく。