第一章:剣を握る理由
プロローグ:青い兆し
夜空を裂いて一筋の光が落ちた。
それはただの流れ星ではなかった。尾を引くように輝きながら、青く光る何かを地上へと放ったのだ。人々はそれを「彗星の涙」と呼び、やがてそれが世界のどこかにある“奇跡”を生むと信じるようになった。
そして、時は流れ――。
「……青い、丸い結晶……?」
小さな村の片隅で暮らす少年・リオは、祖母の残した古い日記を読みながら目を見開いた。その日記には、かつて空から降った“彗星の欠片”についての記述があった。
“蒼き結晶は、願いを叶える。だが、それに手を伸ばす者は世界を旅する覚悟を持たねばならぬ”
村に伝わる伝説など、これまではただの作り話だと思っていた。しかし、その結晶は確かに存在する――リオはそう確信した。
そして彼は旅立つ。青く、丸い、そして奇跡の力を秘めた結晶「彗星の飴」を探して。
これは、少年が“空からの贈り物”を求めて異世界を巡る物語。星の記憶が眠る場所へと、リオの一歩が刻まれた。
「ここを通りたければ、通行料を払え。命か金か、好きな方を選べ」
歪んだ笑みを浮かべた男が、肩幅ほどの斧を担いで道を塞ぐ。荒くれ者の集団がその背後で笑っていた。辺境の村を出てすぐ、リオはならず者の一団と出くわしてしまった。
「……どいてもらうよ」
リオは腰の剣に手をかける。それは祖父の形見であり、今の彼にとって唯一の武器だった。
「おいおい、坊や。そのヒョロヒョロの腕で俺たちとやり合う気か?」
だが、次の瞬間。
ガキン!
鋭い金属音が響き、火花が弾けた。リオの剣が、斧を弾いたのだ。
「なっ……!?」
「力じゃ勝てない。でも、技ならどうだ」
リオの動きが変わる。まるで重力を無視するような跳躍、敵の死角を突く身のこなし。彼は旅立つ前、村の裏山で鍛え抜いた「星狼流」と呼ばれる古武術を習得していた。
「一閃――星屑斬り!」
剣が蒼く光を帯び、敵の斧を叩き折ると、男は悲鳴を上げて倒れ込む。
残りの山賊たちが目を見開いた。
「……こいつ、ただの旅人じゃねぇぞ!」「ひ、引けっ!」
敵は一目散に逃げていった。
リオは静かに剣を鞘に戻す。息が少しだけ乱れていたが、目には確かな覚悟の光があった。
「これが、異世界ってやつか……。甘くはないな」
彼が目指すのは、空から落ちた“彗星の飴”。それを手にすれば、世界を変えるほどの力が手に入るとも言われている。
だがその道は、伝説を信じる者たちが争いを繰り広げる血の道でもあった。
だからこそ、リオは剣を握る。願いを叶えるために、そして戦いを生き抜くために。