あなたの色、世界の色
「世界に溢れる色彩。なだらかな丘。切り立った断崖。繰り広げられる人と世界の物語。零れ落ちた色彩は、やがて次の色へと宿るでしょう」
世界には色が溢れている。それは何気ない日常にあるのかもしれないし、冒険の中で見つかることもあるだろう。あなたも日常的に色へと触れている。好きな音楽を聞いて、晴れやかな気持ちになった。人とすれ違って悲しくなった、目的を達成して喜びが胸を満たした。それは全てあなたという器から、世界に零れ落ちた色だ。その感情がどのようなものであっても、色に貴賤はない。その全てが世界にとって意味がある。
では何気ない日常に色は宿らないのだろうか。刺激の少ない、繰り返しの毎日。外を見ればより刺激的な日々を送る人たちが目に入る。自分が過ごすこの世界は、あの人たちと比べて価値あるものだろうかと疑念が胸にうずまく。だが、心配することはない。あなたの日常は、静かな価値ある光を内包している。何気ない日常は世界があなたに与えた、かけがえのない贈り物であるのかもしれない。刺激的な日々にも寂し気な音が鳴る日もある。目まぐるしく変わる世界は、無数の色を相手に託そうとする。膨大な色彩は人を容易く押し潰す。目が眩むような色彩は、そこにあったはずの淡い色を忘れさせてしまう。
あまりに強すぎる色の奔流の中で、人は自分の輪郭を見失う。手のひらにあったはずの、かすかな光さえ忘れてしまう。走って走り続けて、ふと立ち止まった時に愕然とする。見えていたはずの色は遠ざかり、自分の中にあったはずの色が分からなくなる。走ってきた道は途絶え、目の前には断崖が現れる。戸惑うこともあるだろうし、悲しみがあなたを責め立てることもあるかもしれない。人として当然の感情だ。どうかその感情を優しく受け止めてあげて欲しい。否定することも恥じる必要もない。
目の前に現れた断崖は見方を変えれば、あなたという存在を見つめ直す機会に成り得る。強すぎる色彩の中で、見えにくくなってしまったあなたの色をゆっくりと探そう。それは日常の散歩の中で、ふとした光景の中から見つかるかもしれない。人との何気ない会話の中から掘り起こされることもある。世界との対話の中で、あなたの色を思い出そう。たとえ塗り潰されたように思えても、あなたの色は決して消えてはいない。雨に濡れた地面が、光を取り戻すように——その色は、まだ静かに残っている。
この世界の中で懸命に生きるあなたに敬意を。どうか、あなたの旅路が様々な色で満ちあふれますように。あなたの中から零れ落ちた色彩は、モノクロの世界を鮮やかに色づけていく。