冷たさと熱情の狭間から世界をうたう
「真っ白な雪原。凍てつく吐息。燃えたぎる篝火。その全てが花には必要だ」
人類が築き上げてきた人の営み。それを社会という。人と人が出会い、行動を共にし、心を深め合ったり傷つけあったりしながら、人生という長い道を歩いていく。時に道はすれ違い、合流し、分岐しつつも世界を拡張していく。この拡張された世界の上に私たちは立っている。私たちが生きる社会とは、過去に生きた人たちと、未来に進む私たちが交差する雪原であると言えるのかもしれない。
この雪原を私たちは歩いていく。振り返ると、雪原には数え切れないほどの足跡が見える。その足跡は、この世界に生きた人たちの証だ。
力強さを感じさせるものであったり、途中で途切れてしまった足跡もある。孤独に踏みしめられた足跡や、多くの人たちと歩幅を揃えた足跡もあるだろう。そのどれもが私たちの心に深く訴えかけてくる。
ふと自分の足跡に視線が向かう。その足跡は周囲のものと比べると少し寂し気なものであるかもしれない。ジッと自分が歩いてきた足跡を見つめ、頭を振りながら前を見る。果てしなく広がる真っ白な雪原。そのあまりの広さと孤独さに身がすくみ、白い息が視界を遮ることもある。その感情は間違いではない。人としてあまりにも自然な反応だ。
寒さで身が凍えてしまった時は一度立ち止まって、振り返るのもいい。過去に生きた人たちが残した足跡は、あなたの歩んできた足跡とは全く違うものだ。力強く見える足跡も、かつては立ち止まり、震えるような足跡を残していたかもしれない。孤独に踏みしめられた足跡には、かつて共に歩幅を合わせて歩いてくれた誰かがいたかもしれない。多くの人たちと歩幅を揃えた足跡には、かつて孤独に歩いた足跡が続いていたこともあっただろう。過去に生きた人たちが残した足跡は、あなたの寒さをやわらげる篝火と成り得る。
それでも体の震えが止まらないときは、空に輝く星を眺めてもいい。あなたの周りには、色とりどりの輝きを放つ星が無数に存在している。大切なことは、自分が好きな星を見つけること。初めは難しいかもしれないが、あなたを癒してくれる星は必ずある。それは歌かもしれないし、絵かもしれない。小説であるかもしれないし、ふと目にとまった花かもしれない。いずれにせよ、星の数が増えるたびに、あなたを暖める篝火は強く勢いを増していく。
人が紡いだこの社会で、懸命に生きるあなたに敬意を。あなたが感じている孤独や葛藤は尊く、価値あるものだ。あなたが生きた足跡はこの雪原にしっかりと残されている。いつか誰かが道に迷ったとき、あなたの足跡を見て、何かを感じとるだろう。あなたが歩いているその道は唯一無二だ。例え自信がなく、迷っていても、その一歩には意味がある。この果てしなく広がる雪原に足跡を残すあなたに敬意を。その足跡が、まだ見ぬ誰かを照らす篝火となりますように。




