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優しさは春風のように雪をとかす

「花一つない雪原 春風が吹く 融ける粉雪 穏やかに揺れる小さな花 どれだけ微かなきざしでも 世界の冬をとかすでしょう」


 私たちが生きるこの広大な世界には、様々な景色が広がっている。色とりどりの花が揺れる花園。絶え間なく流れ星が過ぎ去っていく美しい夜空。広大な海が広がり、眩しい日差しと焼けるような熱が照りつける砂浜。その全てがこの世界の美しさをあらわしている。だが同時に、あなたはこのような光景に出会うかもしれない。一切の温度を感じさせず、吐いた息は凍りつき、肌に吹き付ける風は鋭く冷たい。見るもの全てが雪と氷に覆われた世界。


恐怖を与えたいわけではない。ここで覚えておいて欲しいことは、この世界には美しいものがいっぱいあるということ。雪原だけがこの世界の全てではない。色とりどりの花園も、星が降る夜も、眩しく熱気を感じる砂浜も、全てが凍りつく雪原も、その全てがこの世界の一部として存在している。


 では、雪と氷に覆われてしまった雪原には何も残っていないのだろうか。もちろん、そうではない。あなたは春に吹く、柔らかくあたたかい風を感じたことはあるだろうか。寒さに震えた身体に広がるじんわりとした熱。それは、降り積もった雪が静かに溶け出す感覚と似ている。暖かい言葉、ちょっとした気遣い、美しい在り方、誰かの笑顔。その全てがこの世界の氷雪を少しずつ溶かしていく。


その変化は、最初は目に見えないかもしれない。降り積もった雪が、春の熱にあてられて、少しずつとけるように。その変化はゆっくりと進行し、着実に積み重なっていく。とけた雪は水となって、受け取った熱を周囲の雪に伝える。それが繰り返されることで、広大な雪原は少しずつ溶けていく。やがて、雪の下から青々とした草木や小さな花が顔を出す。


 人は誰しも心の中に熱を持っている。もちろんあなたの中にもある。厳しい寒さのなかで、消えてしまったかのように感じることがあるかもしれない。そんな時は、目を閉じ、胸に手を当て、ゆっくりと深呼吸をしよう。手のひらに感じる鼓動、体が発する熱、呼吸の音、その全てが、あなたがこの世界に熱を生み出している証だ。『ない』と『ある』の間に天と地ほどの差があるように、あなたがこの世界に生きている。それだけで、この世界は少し暖かくなる。


 様々な風景が入り乱れるこの世界で、懸命に生きるあなたに敬意を。深い雪の下には青々とした草木や美しい花の種が埋まっている。いつか、あなたという熱がその雪をとかすだろう。今日も世界に、あなたという熱が確かに灯っている。

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