俺を巻き込まないでくれ
初投稿です。
今、俺は目の前で繰り広げられるソレを死んだ目で見ていた。
(どこか他所でやってくれねぇかなぁ)
「マーガレット、お前のような田舎の村娘は勇者の俺様にはふさわしくないんだよ!」
「マーク!冗談……だよね……」
「ふふっ。マーク様はわたくしのような高貴な淑女の方がお好みのなのよ。あなたのような村娘と婚約者で会ったことはマーク様の汚点になってしまいますわ」
金髪に碧眼でいかにも貴族ですといった見た目の女が、嘲るようにマーガレットに言った。
いや、マークの腕を胸で挟んで淑女を名乗るなよ。結構胸元開いてるし、まだ酒場のおかみさんの方が淑女に近いぜ。<">を取れば<しゅくじょ>になるからな。
マーガレットもかわいいと思うがな。少し垂れた目と、ふわふわした茶色い髪を伸ばしているので全体的に穏やかな見た目の少女だ。見た目だけだがな。たしか、今年16歳だったかな?
「マーク。2年前にマークが村を出て、王都に行くときに帰ってきたら結婚しようって言ってくれたじゃない」
「あーあーあー。あんな約束をまだ信じていたのか?あれ、なしな。そんな約束はなかったってことでヨロ。ぎゃはは」
「そんな……」
「未練がましいです!。平民ごときでは勇者のマーク様には釣り合わないとまだわかりませんの!」
金髪女が光魔法をマーガレットの足元に撃ち、マーガレットが倒れそうになる。
「おっと」
さすがに、見過ごせないので、マーガレットを受け止めて立たせる。
「ありがとう。ヴォル兄さん」
「おお。まあ、いいってことよ」
騒ぎに興味を惹かれて、村人が集まってきた。
あ。村長がいる。
村長代わってくれと目で合図を送るが、そらされてしまった。そんちょー!
ちくしょー逃げられねぇ。逃げられないのは、魔王だけにしてくれ。
っつーか、マークの奴たった2年でずいぶんと変わったなぁ。
2年前はーーー。
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神託で、この村の14歳の男児が勇者だと告げられたとかで兵士が来て、マークが勇者ってことになったんだ。
14歳の子供がマークとマーガレットしかいなかったからな。人口100人程度の小さな村だし。
「マーガレット、僕は必ずマーガレットのもとに帰ってくる。帰ってきたら結婚しよう」
「うれしい。待っているわ、マーク。無事に帰ってきてね」
こいつら、きっちり死亡フラグ立ててやがる。
そういえば、この時も俺の畑の前だったなぁ。
他所でやれよ、他所で。いや、マジで。
ちなみにマークは狩人のところの息子で、マーガレットは雑貨屋の娘だ。
マーガレットは前述した通りで、2年前は少し小さいくらいだな。
マークは栗色の髪をマッシュにした、純情そうな少年だった。
ほかに行くところがないのか、よく畑の前の木陰でイチャコラしてやがった。
なぜか、喧嘩をした時だけ巻き込まれた。
ある時は
「マークのばかー。もう嫌い!」
といって投げた石が、キラービーの巣に当たり、蜂どもが怒って襲ってきた。
マーガレットは石を投げて、走り去っていたので、俺に……。
その日からしばらく、村でははちみつのお菓子が振舞われたとか。
ああ、あいつらは次の日には仲直りしていたよ。
また、ある時は
「マークのばかー。もう嫌い!」
といって投げた鉄球が、ブラッディーベアに当たり、クマが襲ってきた。
マーガレットは鉄球を投げて、走り去っていたので、俺に……。
その日からしばらく、村ではクマ鍋祭りが行われた。
ああ、あいつらは次の日には仲直りしていたよ。
またまた、ある時は
「マークのばかー。もう嫌い!」
といって投げたトマホークが、ワイバーンに当たり、トカゲが襲ってきた。
マーガレットはトマホークを投げて、走り去っていたので、俺に……。
その日からしばらく、村では行商人も来て焼肉祭りが開かれた。
もはや武器になっていやがる。つーか、強肩だな!
ああ、あいつらは次の日には仲直りしていたよ。
なんか、俺、前世で悪いことでもしたか?
そんな感じだったんで、2年前にマークが旅立った時は、マーガレットが寂しそうにしていたので少し同情したんだが、これで静かになるとほっともしていた。
それが、なぜ、また………俺の畑の前でやるんだよ?
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おっと、回想に浸ってた。
なんか、ほとんどマーガレットの記憶のような気がするが……
今のマークは、金髪(染めたんか?)逆立てて、耳や鼻や唇がピアスだらけになっていて、勇者というよりソレ系のお仕事の人なんじゃね?と、言いたくなる風体だ。
なんか鎧も金ぴかだし。空中から武器乱射しないよね?
マーガレットは、よくアレに普通に話しかけられたな。愛のなせる業か?まあ、その愛もなくなりそうだが。
「ヴォル兄さん、いや、ヴォルフガング!2年前まではあんたに憧れていたよ。銀髪で目つきは鋭くてギザッ歯だけど、顔つきが整っていて村のお姉さんたちにもてていた」
なんか、俺に矛先が来たぞ。
「お褒めにあずかり光栄だ」
「だけど!」
褒めてるようなので、礼を言ったら無視された。
「俺様は王都で知ったんだ!夜のお姉さんたちとの、夜の大武闘会を!そうして、修行の果てにこうして公爵令嬢と婚約をすることができたんだ!」
公爵令嬢だったんだ。あの金髪女。
ってか、おいー。王都の偉い人ー。お宅の勇者、なんの修行をしてるんですかーっ!
聖剣抜かずに、性剣抜かれちゃってるじゃないですかー。やだー。
あんなこと大声で言うから、マーク達についてきた兵士の皆さんいたたまれなさそうじゃん。
「俺様と勝負しろ!ヴォルフガング!」
「えっ?淫夢的な勝負ですか?」
思わず敬語になってしまったぜ。
「ちげぇよ!普通に!闘って!勝負だ!」
「別に負けでいいんで、遠慮します」
そんな面倒くさいことはやってられるか、今日は害虫駆除の途中なんだ。
「いいのか?ここで断ったら、この村がなくなるぜ」
「あ?」
なんかにやにや笑いながら、不穏なこと言ってきやがたな。
「俺様はこんなしみったれた村で生まれたことは、消し去りたい過去だからな。断るっていうなら、公爵様にお願いしてこんな村は滅ぼしてやる」
「そうですわ。我が家にかかれば容易いことですわ」
どうやら、人が腐るには時間はいらないみたいだな。残念だ。
村長を見たら、うなずいてサムズアップしてる。しゃべれよ。
「分かった。分かった。別に、攻めてくるのは構わんが村が荒らされても困るからな。相手をしてやるよ」
「余裕ぶっていられるのもこれまでだ!あんたを地べたに這いずらせて無様な格好をマーガレットたちに見せつけてやるよ」
ん?こいつもしかして、食堂で飯食べてるときにマーガレットと話していたことで妬いてるのか?
つっても、言ってることは物騒だし、マーガレットを裏切っているしお仕置きだな。
「いいぜ。こいよ」
「おまえっっっっ!」
左手の指をクイクイ曲げて挑発したら、アッサリ掛かって斬りかかってくる。
振り下ろされる剣を、横に逸れて躱すとマークの腹に軽く蹴りをいれる。
「ぐはっ」
マークが後ろに跳んで、剣を構え睨んでくる。
「どうした。たしか、勇者は南の領域の魔王を倒しに行くんだろ?この程度か?」
「うるさいっ!」
頭に血が上って、さらに大振りになっているので剣の柄を蹴って飛ばすと、ついでとばかりにマークのあごも蹴り上げる。
某聖闘士のごとく吹き飛んで、落ちた。
「ちくしょう。お前らもかかれ!村人どもを人質にs………」
「おい。それ以上さえずるな」
これはだめだな。最悪この村を国から切り離すか……
そうして、俺は本性を現す。
体長30m程の体躯を持つオオカミの姿を。
「ひっひっ……」
「ひぃぃぃぃぃ」
マークも金髪女も怯えて、水たまりを作っている。
「俺は東の幻獣王、マーナガルムのヴォルフガング。貴様らがこの村に害をなすなら、貴様らの住処はこの世に一切残らぬと知れ」
「ひぃぃぃぃぃぃ」
「ひぇぇぇぇぇぇ」
「あばばばばばば」
「うりぃぃぃぃぃ」
「ひゃあああああ」
兵士たちが、マークと金髪女を抱えて一目散に逃げていく。
なんか、時を止めそうなやつがいなかったか?
兵士たちが見えなくなったところで、いつもの姿に戻る。
もとに戻ったところで、マーガレットがおずおずと話しかけてきた。確実に怖がらせたよな。
「えーっと。あたしが昔から知ってるヴォル兄ちゃんだよね?さっきのはなに?幻獣王って?」
まあ、疑問に思うのも当然か。実のところ、俺がここにいるのは大した理由はないんだが……。
どう言おうか迷っていると、村長がやってきた。
「ヴォル君はな、野菜を食べたくて、たまたまこの村に来たんだ」
そうなのだ、生肉ばかりに飽きて野菜を食べに来て、野菜を作ることにも興味を持った。
それで、たまに息抜きで領域から出て、何十年単位で居つき、農業をしているのだ。
「そうなんだ。ヴォル兄は玉ねぎ食べられるの?」
「犬じゃねえんだから、問題ねえよ」
「そっかー。分かった」
なんか含みがある様子で、駆けていった。
「ほっほー。青春じゃのう」
「村長、さっきはよくm……っていねぇ!」
村長に向き直ったら、影も形もなかった。俺でもとらえられないのかよ。
詳しくは知らないが、その昔は伝説の斥候と呼ばれていたらしいが。
ぶっちゃけ、ここの村民は皆、兵士が束になっても敵わないくらい強いから、俺が守る必要なんかないんだが、ここが好きだから……な。
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その日以降、マーガレットが食事を差し入れてくれたりしてくれるが、肉食獣のような眼差しで見てきて背筋が凍る感覚がある。
どちらかといえば、肉食獣は俺の方なんだが、そのうち食われてしまうかもしれない。