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手紙シリーズ

御礼状

作者: きか

 この度は、わたくしどもの愚息のために、このような催しにご参加いただき、心より御礼申し上げます。


 楽しんでいただけておりますでしょうか。

 拙い催しではございますが、すこしでも、わたくしどものお気持ちをお伝えすることができれば幸いです。


 失礼ですが、催しの趣旨と合わせ、少しばかり愚息のお話をさせていただきますね。


 愚息は、生まれた頃より賢い子でした。

 まだほんの小さい頃から道理をわきまえ、欲しいものがあってもまだ幼い弟妹のために、ぐっと我慢して、笑って譲ってやるような子でした。

 そのような姿を見るたびに、わたくしどもにもっと潤沢な資金や能力があったならば、と自らの不明を恥じたものです。


 そのため、愚息がご息女のお相手に選ばれたと伝えられた際、わたくしどもがどんな気持ちを抱いたか、きっと、貴方様にはおわかりにならないでしょう。


 はじめは目を疑い、次になにかの間違いではないかと文を疑い、最後にこれが王命でのことと知ってからは、家族皆で涙しました。

 ああ、これが、長年王家に忠誠を尽くしてきた、我が家に対する報奨なのだと、そうしみじみと実感させられたのです。


 ご息女のお相手を探しておられるのは、承知しておりました。

 貴方様の奥方でもあられる、先の王女殿下にそっくりの、とても美麗な姿形をしていらっしゃるとお伺いしております。

 きっと、性格も王女殿下に似ていらっしゃるのでしょうね。

 ですが、そのようなお方であるからこそ、わたくしどもは愚息が選ばれることはない、そう固く信じていたのです。


 しかし、わたくしどもの期待は裏切られ、愚息は先日、ご息女と旅に出ることになりました。


 我が国の法律では、罪を犯した夫婦は、その罪を分け合うとされております。

 一人で背負うのであれば重すぎる罪も、夫婦二人で分け合うのならば、神の御前で暴かれるその魂の刑期も短いもので済む。

 永遠の誓いを唱えた二人に対する温情であることは理解しております。


 ただ、しかし、ご息女の罪の刑期を短くするためだけに、愚息を急遽、配偶者に選ぶとは、あんまりではありませんか。


 きっと貴方様はご存知だったに違いありません。

 ご息女への愛ゆえだとおっしゃられるかとは思います。

 しかし、なぜ気づいてくださらなかった。

 わたくしどもも同じくらい、愚息を愛しておりましたのに。


 もうすぐ私の屋敷は火に包まれることでしょう。

 火の海の中、貴方様は目を覚ますでしょうか。

 生きていても死んでしまっても、私としてはどちらでも、別に構いはしないのですが。


 貴方が火を放った証拠となるものは、しかと残させていただいています。

 協力者もおりますし、貴方様が裁かれるのは間違いないでしょう。

 このまま炎にのまれれば、これまで貴方様が犯してきた罪を一人て背負わねばならぬことになりますし、生き残ったとしても、貴方の愛する家族を道連れにすることができます。


 私や妻、子どもたちは、このまま屋敷と命をともにする予定です。

 はじめは自分ひとりで行う予定だったのですが、私の罪も、家族全員で背負うのならば短くて済むのではないか、と家族が許してくれなかったのです。


 私がこのような形で文に残しましたのは、万一の場合に備えてです。

 もしも、貴方様がご息女の罪を知らず、愚息との縁を勧めたのであれば、きっと神は私の罪を許さず、この書状を焼け残すことでしょう。


 とても燃えやすい紙に書いておりますし、きっとこの書状が残ることはないとは思いますが、私のせめてもの贖罪です。


 貴方様に神の導きがあらんことを。

昔書いた話の再投稿です。

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