第九話 時の覚醒
今日は祝日、界路はこの日を待ちわびていた。
なぜかと言うと、今日はパパと初めての魔物討伐に出掛けるからだ!
ママ「本当に界路を連れて行って大丈夫なの?あなた。」
ママはとても心配していた。
パパ「心配いらないよ。パパは剣豪だから、村の外の魔物くらいなら平気さ!」
そう、パパは剣豪なのだ。
魔物には、六つの階級がある。
下級魔族→中級魔族→上級魔族→特級魔族→魔王
そして、魔王の中でも、頂点に君臨するのが【大魔王】である。
【剣豪】というのは、
剣術で、上級魔族を1人で討伐した者に与えられる称号である。
ちなみに、特級魔族以上の階級の魔族を1人で剣術を使い討伐すると【剣聖】という剣士の中で最高ランクの称号を与えられる。
特級魔族は、魔王ではないが魔王になれる実力を持った魔族の事を指す。なので剣聖になるには相当な剣術の腕が、必要である。
界路はしっかりと、安土先生の教えを覚えていた。優秀な生徒だ。
パパ「村の外の魔物は、下級魔族ばかりだから心配いらないよ!ママ。そして、界路の成長を見れるいい機会だからな。」
ママ「そうね、心配してばかりだと、いつまで経っても界路は成長しないわね。でも、絶対に無理はさせちゃだめよ?」
パパ「分かってるよ!じゃあ、行くか?界路。」
そう言って、二人は村の外へと出掛けた。
村の外は、たくさんの動物がいて、自然にあふれていた。
パパ「村の外は良くも悪くも、魔物があまりいないからな。まずは魔物を探すところからだな!」
界路は初めての魔物討伐に、少しドキドキしていた。
すると、早くも魔物が姿を現した。
「ガルルッ」
パパ「お、こいつはハイウルフだな。魔力を持ったオオカミが突然変異した姿だ。安心しろ界路。強い魔物じゃない、下級魔族だ。」
界路「う、うん。」
パパ「お前一人でも、十分たおせる相手だ。やれるか?」
そう言われて界路は、パパから受けとった剣を構えた。
「グルルルッガァッ!」
ハイウルフが界路に向かって襲いかかってきた!!
界路「うわぁ!」
なんとか剣で受け止めたが、体勢を崩してしまった。
パパ「界路、しっかりしろ!強い相手じゃないと言っただろ!お前は怖がっているだけだ。」
そうは言っても怖いものは怖い。
しかし、界路はパパの言葉を聞いて、心を落ち着かせて集中した。
「グアッ!」
飛びかかってきたハイウルフに対し、界路は動きを合わせて剣を振った。
スパッ
ハイウルフは首を斬られ、力尽きてその場に倒れ込んだ。
パパ「おぉ、やったな界路!上出来だ。」
界路「へへ。」
界路は初めて魔物を討伐したのだ!
あまり表にはださなかったが、心の中では凄く嬉しかった。
それから、界路は魔物と対面しても落ち着いて剣を構え、振り下ろして討伐することができた。
パパ「やはり、お前は上達が早いな。もうこんなに魔物を討伐したぞ。」
界路はハイウルフ、アルミラージュを含め、ざっと10匹ほど討伐していた。
界路「パパの教えが上手なんだよ!へへへ。」
界路は魔物をたくさん討伐できて上機嫌だった。
パパ「それもそうだな。ははは!」
「ちょっと、よろしいですか」
謎の男がパパに話しかけてきた。フードを深く被り、黒いコートで身を包んだ、見るからに怪しいやつだ。
パパ「どうしましたか?」
少し警戒しながらも、パパは謎の男の問いかけに応えた。
謎の男「いえね、この辺りで妖刀に関する噂を耳にした事はありませんか?」
パパ「うーん、聞いたことはないな。妖刀と言ったら【甘寧一刀陰義】の事だろ?そもそも本当にそれが存在するのか?」
謎の男「いえ、知らないのなら構いませんよ。それより、あなた達は魔物狩りをして遊んでいたようですが、実はね……私も魔族なんですよ。ククク…」
パパ「…!!?」
魔族「その遊び、私も混ぜてもらってもよろしいですか?」
そう言うと、魔族は腰に下げていた刀を抜き、パパに向かってきた。
パパ「界路!いますぐ離れろ!!」
ズバッッ
パパの胸から大量の血が噴き出した。
パパ「くはっ…」
界路「パパ!!」
界路はパパの元に駆け寄った。
斬られた傷は深く、大量の血が噴き出し、パパは意識を失いかけていた。
魔族「ククク…まだ生きていますねぇ。息子と一緒に、あの世へおくって差し上げましょう。」
魔族は再び刀を振り上げた。
界路「やめろ…。」
その瞬間、界路の首飾りが光り、歯車が回り出した。
魔族(な、何をしたんですか…!?)
魔族は完全に動きが止まった。動けなくなった、息すらも、瞬きもする事ができない。ただ、思考だけが許された世界が、界路の周りを覆った。
時の歯車は回り続け、今まで蓄えていた魔力が界路へ大量に還元されていく。
なんとか動けるようになった魔族は、危険を感じて界路から少し距離をとった。
界路「おまえは許さない。」
界路はパパの剣を手に取り、魔族と向かい合った。
魔族「こ、子供が何を言っているのですか。あなたが私に勝てるわけがないでしょう!」
魔族は界路に斬りかかった。
ピタッ
魔族「!!?」
魔族の攻撃は界路には当たらなかった。
ピタッ
ピタッ
何度も、何度も、攻撃しても界路には当たらない。いや、「当てられない」という表現が正しいのではないだろうか。
魔族の攻撃は、界路に当たる寸前で止まる。
時の歯車により、界路へ大量に還元された魔力は【質】へと変換され、一時的に時の覚醒をした界路の体質には、攻撃を当てられなかった。
魔族の攻撃の【質】は、時の覚醒をした界路の【質】に遠く及ばなかった。
魔族「あ、あなたは一体なに者なんですか!?」
界路「うるさい、動くな」
魔族「なっ!」
魔族は再び動けなくなった、だが今回は足だけだ。しかし、魔族は恐怖心により腰を抜かし尻もちをついた。
400年ほど生きているこの魔族は、6年ほど生きた人間の子供を恐れたのだ。
魔族「ま、待ってください!あなたの父はまだ生きている。私はトドメをささないし、すぐにこの場から立ち去る。だから剣を納めなさい!」
界路「もう遅い。おまえは危険だ。パパをこんな目に合わせて…いますぐ死ね。」
怒りを抑えきれない界路は、剣を強く握りしめ、魔族に向かって突き刺しにいった。
「やめなさい。」
急に現れたその男は、剣を指でつまみ、界路の動きを止めた。
その手に力強さは感じられないのに、界路の剣はピクリとも動かせなかった。
魔族「あ、あなたは……」
謎の男「挫益…勝手な行動はするなといったはずだが?」
挫益「い、いえね、【ミナモ】と縁のあるこの地なら、妖刀の情報が手に入ると思いましてね。あなたにとっても悪い話ではないでしょう。」
謎の男「……まぁいい。とっとと帰るぞ。」
挫益「はいはい、分かりましたよ。あなた、命拾いしましたねぇ。ククク…」
謎の男「……命拾いしたのはお前だろ。」
挫益「………」
そう言って、二人は立ち去っていった。
謎の男がつまんだ刃は、触れた場所から黒く腐食して行き、刃は砂のように崩れ落ちた。