第八話 特別授業
界路が奄美に負けてから数日が経った。
模擬戦で奄美に敗れたことを、界路はあまり気にしていなかった。界路は強い子である。
界路「……」
あの時、僕は吹き飛ばされた。奄美に攻撃を当てようとした時にだ。奄美はなにも反撃はしていなかったのに…
つ、ま、り!奄美は僕に負けそうになり、剣の模擬戦で魔法を使ったのだ!!インチキ野郎だ。
僕が負けたのは、奄美が魔法を使ったからだ。だから、剣だけの実力なら、僕の方が上だ!!
「チラッ」
九羽「……なんだよ。」
視線に気付いた奄美が、界路に反応した。
(べー。卑怯もの。ばーかばーか。)
界路は心の中で、そう呟いた。
「ガラッ」
教室の扉が開き、安土先生が入ってきた。その後ろには見慣れないおじいちゃんと一緒にいる。誰なんだろう?
安土先生「みんな、おはよう!早速だけど紹介するね。光の国にある上級校で魔法を担当している、シモネ・マグナス先生だ。」
マグナス先生「ほっほっほ、可愛い生徒達じゃな。よろしく頼むぞい。」
「よろしくおねがいしまぁす!」と、クラスメイトたちがマグナス先生に元気よく挨拶をした。
凄く貫禄のある先生だ。才能がある者だけが通える上級校で魔法を担当していると言っていたので、実力は相当あるだろう。
安土先生「これからマグナス先生に特別授業をしてもらうよ。内容は、マグナス先生の担当でもある、魔法についてだ。」
マグナス先生「ふむ、それでは早速じゃが、君たちは【一般属性】と【特殊属性】については、知っておるかな?」
マグナス先生の授業が始まった。
一般属性とは【炎】【水】【雷】【風】【地】【光】【闇】の事を指す。
これらは人間なら誰しも得る事ができる属性だ。
僕は魔法に興味があったので、本などで読んで何となくは理解していた。何も扱えてはいないけど。
特殊属性とは、【氷】【毒】【霧】【血】【影】の五つだ。
これらの特殊属性は、特定の一族が受け継いできたものであったり、神の加護などによって得ることができる。
もっとも、神の加護で得る場合は【支配者】としていずれかの属性を支配する素質を持って生まれるみたいだが。
マグナス先生「このクラスにも一人、神の加護を受けている者がおるな。そうじゃろ?奄美くん。」
九羽「……」
僕は驚きのあまり声も出なかった。クラスのみんなも驚き、教室がざわついていた。
マグナス先生「おそらく、キミは【風の支配者】じゃな。」
九羽「……そうだよ。よく分かったな。」
衝撃的な新事実だった。奄美は神の加護を受けた風の支配者だったのだ!
マグナス先生の説明によると
風の支配者の特徴として、風の体質によって身体速度が強化され、【質】の弱い攻撃は風で弾き飛ばしてしまうらしい。
僕は納得した。全てが奄美に当てはまっている。模擬戦で攻撃を当てようとして吹き飛ばされたのは、奄美の風の体質によるものだった。
「質の弱い攻撃ってなに?」僕は珍しく先生に質問をした。
マグナス先生「それはじゃな、十分に【質】が込められていない攻撃のことじゃ。」
【質】とは攻撃や守りに直結する重要なものだ。
身体に流れる魔力の【質】が高ければ、相手の攻撃を弱めることができる。
攻撃の【質】が高ければ、その攻撃の威力を上げることができる。
そして、風の支配者の体質に攻撃する場合、【質】をしっかりと込めた攻撃じゃないと、風で弾き飛ばされてしまうらしい。
どのくらい【質】を込めなければいけないのかは、相手の身体に流れる魔力の【質】によって決まる。
界路の頭は、あまりの情報量の多さにパンクしそうになっていた。
「キーンコーンカーンコーン」
そんな時、ちょうど良くチャイムの音がなり、マグナス先生の授業が終わりを告げた。
僕たちはお礼と終わりの挨拶をして、マグナス先生は、にこやかに手を振りながら教室を後にした。
授業はとても難しかった。だけど、奄美の謎が知れて良かった反面、彼の生まれ持った素質に恐縮していた。奄美は本当に凄かったのだ。
そして、界路はお昼を食べた後、教室に戻っていた。
「ちょっと、いいかの。」
振り向くとそこには、マグナス先生がいたのだ。
界路「あ、マグナス先生。帰ったんじゃなかったの?僕に何か用?」
マグナス先生「おぬし、魔法が全く扱えぬようじゃな。どれ、わしがみてやろう。」
そう言ってマグナス先生は、界路の頭に手を置き、目をつぶった。
マグナス先生「ふむ、魔力は十分にあるようじゃが、不安定じゃな。ん?おぬし、珍しい首飾りをしておるのう、ちと見せてくれぬか。」
そう言われて、界路は首飾りを首にかけたまま、マグナス先生に見せた。
界路「これはママから誕生日プレゼントで貰ったんだ!綺麗でしょ。」
マグナス先生「ふむ。」
(これは魔力を貯める事のできる首飾りのようじゃな。とても珍しい。じゃが、貯めた魔力を還元できるようにはできていないようじゃが。)
界路「それを付けてから、身体が軽くなったように動けてるんだ!凄い首飾りだよ。」
マグナス先生「ほう。それは興味深いのう。」
マグナス先生は考え込んでいた。
(はて、この子には魔力が還元されておるのじゃろうか?じゃが、還元されたとしても、身体能力の強化はこの子にはできぬはずじゃ。そもそも還元できない作りになっておる。わからぬのう…。)
そんな時に界路の後ろから秋くんが走ってきてぶつかった。
「ドンッ」
界路「いてて…」
秋「ごめん、界路くん!急いでたんだ。大丈夫?」
界路「うん、大丈夫だよ!」
それを聞いて、秋くんは再び走り出した。
マグナス先生「おぬし、本当に大丈夫か?膝が傷ついておるぞ。」
界路「うん!大丈夫だよ。僕、昔から傷の治りが早いんだ。」
「!!?」
そう言われて、マグナス先生は驚いた。もう傷が完全に治っていたからだ。
マグナス先生「な、なにをしたんじゃ、おぬしは。」
界路「?何もしてないよ。パパも驚いてたけど、そういう体質なんだよ。」
マグナス先生は再び考え込んだ。
(こ、これは回復とかの次元ではない。この子は水の体質ではないし、水の魔法で清めたとしても、傷が塞がるだけで完全に治るには、ちと時間がかかるはずじゃ。
じゃが、界路くんの傷は完全に治っておる。まるで、傷ができる前の状態に、戻ったかのようじゃ。)
マグナス先生「……」
界路「どうしたの?」
マグナス先生「おぬし、そういう体質と言っておったな?もしかしたら、本当におぬしには何か特別な力があるのやもしれぬな。」
杏子「あ、界路!こんなところにいたんだ。探したんだよー。」
杏子ちゃんは休み時間に、界路と遊ぶために探していたようだ。
界路「ごめん、マグナス先生。もう行くね!今日はありがと!ばいばい。」
そう告げると、界路と杏子ちゃんは、約束していた炎の自主練習へと向かった。
マグナス先生「…ふむ。長生きはしてみるもんじゃな。ほっほっほ」
マグナス先生は、界路が異質であることに薄々気付いていた。しかし、異なる国の者同士、今はその真相を探ることは控えようと考えていた。
もし界路が本当に、何か特別な力があるのなら、いずれその噂を耳にすることになるだろう。
魔法の知識を知り尽くしたマグナス先生にとって、それは残り少ない人生における楽しみが増えた、とても有意義な一日となった。