第六話 甘寧一刀陰義
これは界路が生きている現在よりもずっと昔のお話です。
昔、伝説の鍛治職人である陰義一徹がいました。
ある日、一徹の元に妖魔が現れました。
妖魔「おい、お前が一徹か?」
一徹「……俺に何の用だ?」
一徹は突然訪れた妖魔を警戒しつつ、用件を尋ねました。
妖魔「俺に刀を打て。」
一徹「断わる。お前に打つ刀などない。痛い目を見る前に帰れ。」
妖魔「ククク…後悔するぞ。」
不気味に笑いながら、妖魔はそう言い残して帰っていった。
次の日の夜、一徹の元に妖魔の使いがやって来て一徹にこう伝えました。「挫黒様カラ伝言ダッ
オ前ノ娘ワ預カッタ。返シテ欲シケレバ、俺二刀ヲ打チ、北ノ森エ持ッテコイ。
期限ワ次ノ満月ガ沈ムマデダ。」
一徹の娘である、陰義甘寧は挫黒に攫われてしまった。娘を返してもらうためには、挫黒のために刀を打たなければならない。そして、挫黒の使いは北の森へと帰っていった。
一徹「甘寧…くそっ」
一徹は妖魔への怒りと、娘が攫われてしまった悲しみと不安で心が締め付けられる思いだった。
そして一徹は刀を打った。
カンッ
カンッ
強い想いを込めて。娘を助けるため、そしてその刀で妖魔を討つために。
一徹「待ってろよ挫黒。待っていてくれ甘寧…」
カンッ
カンッ
そして期限の満月の夜。
一徹は、北の森の妖魔の元へやってきた。
挫黒「待っていたぞ、一徹!刀は持ってきたか?」
一徹は、挫黒に渾身の想いを込めて打った刀を見せた。
挫黒「おお!その刀を持ってきてくれ!」
一徹「娘は無事か?話はそれからだ。」
挫黒「もちろん無事だ。奥の部屋にいる、檻の中だがな。娘を返すのはその刀を渡してからだ。」
一徹「そうか。だがこの刀は貴様には渡せん。」
挫黒「なに?なぜだ?娘がどうなっても良いのか?」
一徹「なぜならこの刀は……貴様を討つために打った刀だからだっ!!」
そう言って、一徹は挫黒の喉元へ刀を突き刺しにいった。
「お父さん!!」
ピタッ
一徹の刀は、挫黒の喉元を突き刺す寸前で止まった。
一徹「あ、甘寧…何故ここに?檻の中じゃないのか?」
檻の中にいるはずの甘寧が、挫黒の手下にとりおさえられて目の前にいた。
挫黒「ククク…お前が変な真似をしない様に連れてきておいて正解だったな。」
一徹「くっ…」
挫黒「さあ、悪い事は言わん。その刀をよこしな。」
一徹は刀を渡してしまった。娘の命には変えられなかった。
挫黒「おお!!すごいぞ…これはすごい!!
さすがは伝説の鍛治職人と言われるだけはあるな。」
一徹「……」
一徹は黙り込んでしまった。
挫黒「おい、こいつの娘をつれてこい。」
一徹「!?…どういう事だ?目の前にいるだろ?」
挫黒「クク…お前は自分の娘と妖魔も見極められないのか?」
目の前にいるのは甘寧ではなく、妖魔が変化した姿だった。
一徹「貴様…!」
一徹は怒りで震え上がった。
そして、本物の甘寧が檻から連れてこられた。
一徹「あ、甘寧…!」
甘寧「お父さん!!」
その声は、確かに本物の甘寧のものだった。
挫黒「おい、お前らこいつを押さえとけ。」
一徹は挫黒の手下達にとりおさえられた。
挫黒「試し斬りにはちょうどいいな。ククク…」
挫黒はそう言って甘寧の目の前に立った。
一徹「お、おい…何をしている?」
挫黒「聞こえなかったか?試し斬りをすると言ったんだよ。お前が打ったこの刀でな!クハハハ」
妖魔の不気味な笑い声が北の森に響き渡った。
一徹「やめてくれ…お願いだ。やめてくれ……」
甘寧「お父さん…い…」
スパッ
甘寧の首が飛んだ。
甘寧は何か言いかけていた。その声すら待たずに妖魔は甘寧の首を切り落とした。
一徹は理解したくなかった。そして、脳が理解するのを拒むように、一徹の思考が停止し、抜け殻のようになってしまった。
挫黒「す、すごいぞ。すごいぞ一徹!!この刀はまさしく名刀!凄まじい切れ味だ。」
一徹「……」
一徹はまるで屍のようだった。
挫黒「これは素晴らしい刀を打ってくれた礼だ。お前も娘の元へ送ってやろう。感謝しろよ。ククク…」
一徹「……」
そう言って、挫黒が一徹の前に立ち、その首を切り落とした。
腕の良い鍛冶師が強い想いを込めて打った刀には、魂が宿ると言われている。
一徹が打ったその刀は、妖魔を討つため、そして甘寧を救うため、紛れもなく強い想いが込められた刀だった。
魂が宿ったその刀は、生みの親の血を吸い、その娘の血を吸い
恨み、怒り、憎しみ、悲しみという負の感情で淀んだその血を吸った刀は、何を思うのか?
挫黒「ククク…この刀があれば、魔王の座も夢じゃないぞ!!あの忌々しい酒天頭師の首を切り落とし、魔王の座から引きずり落としてくれるわ!クハハハ」
──そして挫黒は死んだ。原因は分からない。
それから、その刀の所有者は次々と謎の死を遂げると言われ、妖刀として恐れられるようになった。
刀には一徹の娘の名を冠して【甘寧一刀陰義】と呼ばれ、今もどこかで存在しているという。
「界路…」
「界路!」
「界路おきなさい!」安土先生の声だった。
この世界の歴史の話を聞いていて、どうやら寝てしまったようだ。
界路「ごめんなさい…」
杏子「ふふふ。」
杏子ちゃんに笑われてしまった。
安土先生「寝てしまう事は仕方ない事だけど次からは寝ないように頑張ろうね?界路くん。」
界路「はぁい。」
界路は今日も平和に暮らしている……今のところは。