第一話 時の子界路
「おんぎゃぁ、おんぎゃぁ!」
この日、僕が生まれた。
パパとママは、笑顔を浮かべながら幸せに満ち溢れていた。
「ガチャ」
「生まれたかい?」
おばあちゃんが部屋に入ってきた。
「生まれたよ、お母さん。元気な男の子よ。」
ママはそう言って、僕をおばあちゃんの腕にそっと預けた。
「かわいいねぇ、よしよし。」おばあちゃんは優しく僕をあやしてから、そっとベットに寝かせた。
そして、僕に水晶を渡してきた。初めてのおもちゃだ。
ママ「ちょっとお母さん、まだ生まれたばかりなのにおもちゃは早いわよ。ふふふ」
婆「それもそうじゃな。でも水晶を持って、気持ちよさそうに寝とるわい。ほっほっほ」
ママ「あら、本当ね。気に入ったのかしら。」
婆「そうじゃ、おまえに出産祝いをやろう。」
そう言っておばあちゃんは、ママに首飾りを渡した。
ママ「え、ありがとうお母さん。綺麗な首飾りね。」
婆「それは、あたしが作った「時の歯車」という首飾りじゃ。お守りとして持っておれ。」
ママはそう言われ首飾りを受け取った。
婆「この子がもう少し大きくなったらお守りとして渡しなはれ。きっとこの子を守ってくれるじゃろう。ほっほっほ」
ママ「分かったわ、お母さん。ありがとう!」
ママは、おばあちゃんが考えてくれた【界路】という名前を僕に名付けた。
それから、3年が経った──────
界路は3歳になった。
机の上に置いてあるコップに手を伸ばした。
コツンッ。「あ…」
飲み物が入ったコップが机から落ち、今にも床に落ちそうになった。
(こぼしたらママに怒られる!) 僕はそう強く思い、床に落ちるコップを見つめた。
すると…
ピタッ。コップは床に落ちる前に止まった。
「…え?」
ばしゃんっ!
「あ!コップ落としちゃったの?気をつけないとだめよ、界路。」キッチンから顔を出したママがそう言った。
界路「ごめんなさい…。」
ママ「いいのよ、ちゃんと謝ることができて界路は良い子だね。さすがママの子だよ。」
いつもの優しいママだ!よかったぁ。
でも今のは一体なんだったんだろう?床に落ちる前に一瞬止まったような…気のせいだったのかな?
それが界路の能力が初めて発動した瞬間だった⋯
────それから2年が経ち、界路は現在5歳。
ママの教育のおかげで、簡単な読み書きができるようになり、本に興味を持ちはじめた。
界路が手に取った本、それは【魔法】について書かれていた本だった。
この世界には魔法が存在し、極めることで誰しもがその属性の【使い手】になれる可能性があるらしい。
さらに、生まれ持った素質の中に【支配者】というものがある。
これは、特定の属性を支配することのできる素質を指す。
【属性の支配者】とは、使い手を超える上位の存在であり、誰もが到達できるものではない。
生まれた瞬間に決まる素質だ。
いずれかの属性の支配者を持って生まれると、その属性に対する魔法を扱う力が向上し、魔力の消費量も抑えられる。
そして、体質も変わると言われている。
どのように体質が変わるかは属性によって異なるが、一貫して言えることは
属性の支配者に、その属性の攻撃を与えても無効化されるということである。
(炎の支配者なんてかっこいいなぁ)と僕は少し憧れを抱いた。
「おっ、勉強しているのか?界路は偉いな。」
パパが僕に話しかけてきた。
界路「パパ、ぼく炎の支配者になりたい!」
パパ「そうか、界路は炎の支配者になりたいのか。でも、パパもママもそんな才能はなかったから、それは無理かもな!ははは。」
パパは陽気にそう答えたが、僕は結構ショックを受けた。
パパ「そんなことより界路!魔法もいいけど、剣はどうだ?パパはこう見えても、剣なら結構一流なんだぞ?」
パパは自信満々にそう言って、得意げな笑顔を見せた。
パパ「そうだ界路、お前はもう6歳になるだろ?そろそろ剣の稽古を付けても良い頃だと思っていたんだ。よし、着いてこい!」
そう言いながら、パパは僕の腕を掴んで少し強引に外へと連れ出そうとしていた。
界路「えー、痛いのはいやだよパパ。」
パパ「大丈夫だ!心配いらない。男ならそれぐらい耐えないと、炎の支配者みたいにかっこよくなれないぞ?」
そう言われて、僕はそのまま外へと連行されてしまった。
───── 「その木刀を持って構えてみろ」
パパにそう言われ僕は木刀を構えた。
界路「こんな感じ…?」
パパ「ははは!良いぞ界路。やっぱりお前は剣の才能があるな。」
絶対に適当だ。
パパ「いくぞ、界路!」
パパが木刀を構え僕に向かってきた!
界路「わぁ!」カンッ
僕の木刀は弾き飛ばされた。
パパ「しっかり持たないとダメだぞ界路。
戦いの中で剣士が剣を落とすのは敗北を意味するからな。」
界路「僕はまだ剣士じゃないよ。それに魔法を使えたら、剣を落としても戦えるでしょ?やっぱり僕は魔法の方がいいな。」
パパ「言うようになったな!でも諦めるのはまだ早いぞ。もう一度構えてみろ。」
何度も弾かれ、時間が過ぎていった。
そして────
パパ「これが最後だ。次はお前が剣を落としても、パパはやめないぞ?だから覚悟を持って剣を持て。いいな?界路。」
いつもと違う真剣な口調で、パパがそう言った。
その言葉を聞いて、僕は剣を強く握りしめた…
パパ「いくぞ!!」
カンッ!!
やっぱりダメだ。強く握ってもパパの剣は防げない。
界路「やっぱり僕に剣の才能はないんだよ。もういいよパ…」
今まで通り、剣を弾いたら辞めると思っていたパパが、攻撃をやめずに僕に剣を振り下ろしてきた。
界路「うわぁ!!」
僕は目をつぶり、痛いのはいやだ!!と強く思った。
すると…
ピタッ。
パパ「…え?」
パパの動きが止まった。
コツンッ。
そして、パパの剣が僕の頭に当たった。
恐らくパパは勢いを止めて、僕に剣を当てたのだろう。
界路「いてて…もう家に帰ろ!」
パパ「……界路。今、何をした?」
言っている意味が分からない。
界路「?何もしてないよ。早く帰ろ!お腹すいたよー。」
パパ「⋯⋯」
(確かに界路は何もしていなかった。でも俺は剣を止めるつもりはなかったし、界路を甘やかすつもりもなかった。界路に剣を当てることを無意識に躊躇したのか?)
パパ「…そうだな。帰るか界路!ママが美味しい料理を作ってるだろうから、たくさん食べて早く大きくなるんだぞ!」
そして、パパと一緒に家へ帰った。
ママ「おかえりー!あら、二人とも汚れてるじゃない。ご飯を食べる前にシャワーを浴びておいで。」
界路「分かった!」
ママにそう言われて、僕はシャワーを浴びに行った。
パパ「なあ、母さん?」
ママ「あら?界路とシャワーを浴びに行ったんじゃなかったの?」
パパ「お前、魔法に詳しいよな?
相手の動きを止める魔法とか存在するか?」
ママ「急にどうしたの?あなたが魔法に興味を持つなんて、珍しいわね。
うーん。氷の魔法だと相手を固めて動きを止めたり、地の魔法で足を地面に埋めたり、いろいろあるわね。」
パパ「そうじゃないんだ!何も魔法を使わずに、身体の動きを完全に止める事はできるか?」
ママ「何言ってるの、ふふふ。動きを止める魔法を聞いてきたのに、魔法を使わないでって…たぶん疲れてるのよ。いいから、あなたも早くシャワーを浴びてきなさい!」
パパ「………」
パパ(確かに、疲れていただけかもな。)
パパ「分かった、分かった。行ってくるよ」
その後、僕はご飯を食べて深い眠りについた。
界路が自分の能力に気づくのはまだ先の話である。