BLOODY CHILD
『私』は、自分がいつ創られたかなんて覚えてない。
ただ、気が付いたら『ソコ』にいて、何も知らないまま激動の時代生きる羽目になった。
==Bloody child==
『私』といってもその時は大した自我さえなくて、毎日大勢の『仲間』が死んでいくのを見たって何も感じなかった。
じぶんもいつかああやって、何の意味も無く死んでいくんだろうな、って思ってもそれだけ。悲しくも悔しくもなんともなかった。
『私』には『弟』や『妹』がいた。
何人いたかなんて知らない。
毎日何百人も創られて、毎日何百人も死んでいった。
道具のように大量生産されるから、まず『不良品』と判断された子は生まれて数時間で消された。天軍との戦いの中で殺された子もいた。同じ悪魔に殺された子もいた。
運良く生き延びても、大抵血生臭い日常で気が触れるか、過労死するか、使い物にならなくなって死ぬから、何千何万の『キョウダイ』の顔も名前も一切知らなかったし、知りたいとも思わなかった。
たまに会うこともあったけれど、どうせ間を置かずに死ぬのだからと覚えた事は無かった。
『私』はとんだ規格外で、生まれつき物スゴイ力を秘めていたから、生かされていた。
そうやって、魔軍の戌として生かされていたのは他にも何人かいた。
いたことは知っていたけど、顔も合わせなければ名前も知らなかった。
ただ、『私』は『№5』…奇跡的に生き残った5番目の『道具』だってことだけは知っていた。
ただ、独りで、命じられるままに殺して殺して殺す。
それだけの毎日だった。
そんな生活が3年も経っただろうか。
『弟』が生まれた。
―――――――いや、アイツを『弟』なんて寒気がする。
~。~。~
外から鍵の掛けられた狭い部屋で、することもなく『私』は壁にもたれていた。
淡々と流れていく時間。
溜息を付くことさえ鬱陶しくて、薄汚れた壁を見るとも無く見つめる。
―――何年、何千日と変わらなかった『日常』を突き破る悲鳴が遠くから聞こえた。
怪訝に思う前に、爆音が轟き大地震のように建物が揺れた。
「っ!!?」
その拍子に『私』はおもいきり頭を壁にぶつけてしまう。
ひく……
『忍耐』なんて持って生まれなかった『私』の神経は簡単にブチ切れ、頬が引き攣る。
(大爆発?城内で?)
というか、万魔殿に大勢いる軍の『お偉いさん』は、こういう騒ぎを起こさせないためにいるのではないのか。
何度も起こる爆発に、古い部屋の壁に亀裂が入る。
それと同時に『私』の苛々も急上昇し、無視していられなくなる。
そして、その『不快』を『殺気』にさえ変える出来事が起きた。
突然、外から部屋の鍵を開ける音が聞こえ、密室だった部屋のドアが開け放たれた。
「おお!!我が『妹』よ!!!今まで顔も名前も知らなかったし会った事も無かったから存在なんて忘れ去ってはいたけれど、まだ生きている事は知っていたぞ!!!ここで出会ったのも1つの運命!!!共に禁断の恋に燃えようと思ったが、やめた!!!こんなちんちくりんを抱いたのでは私の名が廃る!!!」
睨んだ。視線と殺気で殺せたらどんなにイイかって、この時ほど思ったことは無い。
黒髪の長いストレートヘア。前髪は長く伸ばして左右に分けてるから、バカ丸出しの顔がよく見える。
『私』よりも大分成長した、少年と青年の中間くらいの背格好。『私』よりもずっとずっと前に作られたのだろうな、と察した。
でも、きっとその可哀想な脳みそは成長しなかったんだろう。
それでも、あと3秒喋っていたら殺しに掛かっていたかもしれないが。
その少年は嘲笑するように、顎で部屋の外…爆音の発信源の方向を指した。
「新しい『弟』がとんだ規格外でね、暴れているらしい。あっちは血の惨状だよ」
「知らない。どうでもいいし」
ふん、と『私』は顔を背ける。
「同感だが、俺達『キョウダイ』も抑制するの手伝えと、上からの命令だ。背けば……どうなるか判るだろ?」
「……」
ぎゅっと胸を掴む素振りをする少年に、心臓が凍りついたように寒気が走る。
この胸の中には心臓は入っていない。
創造者が……『サタン』が持っているから。
いつ反乱を起こすか判らない悪魔を統制するための手段として。
何か意に反すれば、容赦なく握りつぶすだろう。
『私』は不承不承立ち上がった。
「…そいつは…殺してもいいんでしょうね」
『私』の問いに少年はへらへらと笑う。
「そんな危険な存在を何のために生かすのだ?」
『私』と少年は、狭い回路を走った。
騒ぎの元凶を殺すために。
~。~。~
生まれてから、血以外の景色を見たことがない『私』にとっても、十分『酷い』光景だった。
瓦礫と化した一帯は血に染まり、『肉塊』がうごめいていた。
死ねば塵1つ残さず消滅する悪魔の身体が残っているという事は、その『肉塊』がまだ生きているという事になる。戦っている悪魔は一人も居ない。
思わず吐き気を催しかける。
その血に濡れた瓦礫の上に、ちょこんと座っている子どもがいた。
子どもだ。創られたばかりの、本当に幼い外見をした男の子だ。
細い黒髪と、それに相対するかのような白い肌。
それら全てが血に濡れているが、男の子自身は傷1つ負ってないようだ。
男の子は『私』達に気が付き、にっこりと笑った。
「あれ?まだいたの?もう全員殺したかって思ってたのにな」
「…何やってんのよ、アンタ」
震える声を押し殺し、『私』は呟く。
男の子はう~ん?と考え、笑顔のままで言う。
「そこの『お兄さん』達がね、生まれたばっかりのボクから心臓を抜き取ろうって言うんだよ?そんなの嫌だって言ったら、無理やりにでも取ってやるって。こんなのでボクを縛り付けようとするんだ」
男の子は右手を上げてみせる。その手首には、鋼鉄の手枷がはめられていた。繋がるはずの鎖は、途中でねじ切られている。
「しょうがないから、暴れてやった。そうしたら皆あっさり死んじゃった。初めは跡形もなく吹き飛ばしてたんだけど、それじゃあコレ外してもらえないじゃん?だから、最後の方は息の根を止めるのだけはこれでも抑えたんだ。でも、誰も起きてくれないからさぁ、困ってたんだよね。ねぇ、痛いんだ。コレ、外してくれない?」
男の子は瓦礫から飛び降りると、こっちに向かって手を差し出して歩いてくる。
その姿に、思わず戦慄を覚えてしまう。
『私』が怯えているのがわかったのか、男の子はあははと声を立てて笑った。
「大丈夫だよ、何もしないよ。お姉さん達が、ボクに何もしなければね」
男のこの銀色の目が冷たく光っていた。
「…なんで、私がアンタの枷を外してやらなきゃなんないのよ。いい?ここに生まれたからにはねぇ、大人しく心臓差し出して言うこと聞いてりゃいいのよ!!」
『私』は男の子を睨みつける。
それでも笑みを崩さない男の子に恐怖さえ感じる。
「ああ、そうか。お姉さん達も、抜き取られたんだね?それで反抗心も折られちゃったんだよね。そうだよね、怖かったよね。忘れたいくらいに……」
囁くように男の子が言う。その眼が、金色に染まった。
「あ……」
『私』は無意識に一歩後ずさっていた。
『生まれたすぐの記憶』はないはずなのに、身体がその恐怖を覚えこんでしまっている。
「なんの!!!心臓がないことなど!!!世界中の女を手に入れるため乗り越える障害の1つに過ぎん!!!」
その隣で本当にムカつく事を偉そうに叫ぶ鬱陶しいのが一人。
「ふぅん?お兄さんは面白い人だね。お兄さん、名前は?」
「俺か?俺の名は美女以外には名乗らんと決めている!!」
だから、本当にウザイんだって。このエロオヤジ・・・・・・
男の子は目を細め、ふぅん?と呟く。
「『アスモデウス』、ね。生き残った『悪魔』の中では最年長なんだ。好きな物は女。戦いでは…ああ、意外と強いね。その気になれば国だって潰せちゃうのに、いっつも途中で飽きちゃう。どぉ?当たってる?」
男の子の金色の目がにっこりと細められる。
ウザイおっさん…もとい、アスモデウスとかいう青年は愉しむように頷いた。
「ほぅ、当たってるな。面白い。それは…心を読み取る能力か?」
「それだけじゃないよ。操る事も出来るんだ」
「『催眠』…か」
アスモデウスが呟く。男の子が首を傾げる。
「へぇ、そういう名前なの?あはは、本当に面白いね。お兄さん。別に邪魔にはならなそうだし、お兄さんは見逃してあげる。バイバイ」
男の子がそう言った瞬間、アスモデウスの身体がビクンと跳ねた。
「お……」
アスモデウスはぐるりと方向転換し、眼にも見えぬ速度でもと来た道を帰っていった。
「女の集団が私を呼んでいるうううううううううぅぅぅぅぅ!!!!!」
雄叫びをあげながら。
どこまで『私』の神経を逆撫ですれば気が済むのだろう。あの男は。
「ちょっと、そういう風に思い込ませてやったんだ。面白いでしょ?」
笑いながら男の子が言う。そして、『私』に向き直った。
「ねぇ、お姉さんの名前は?」
「……わざわざ聞く必要ないじゃん」
「うん。でも、せっかくなんだから直接聞きたいじゃん。これでも、『仲間』とは仲良くしたいっておもってるんだよ?」
あのアスモデウスとかいう男とは別の意味でムカつくその男の子を目一杯睨みつけてやり、『私』は生まれてこのかた一度も使った事のない自分の名を口にした。
「ベルゼブブ。ベルゼブブ=サテン」
「へぇ?ボクは『ベリアル』だってさ、あの人たちが言うにはね」
そう言って、ベリアルは血溜まりに横たわるモノを指して笑う。
「で?調子のいい事言って、やっぱり私を殺す気?」
ベルゼブブが睨むと、ベリアルは肩をすくめた。
「ううん、ボク、嘘はつかないよ。アンタが手を出さないならボクも何もしない。でもね、手ぇ出す気でしょ?ボクを始末しないと、アンタが心臓握り潰されちゃうもんね」
ベリアルの言葉の意味を理解し、一気に頭に血が昇る。
「アンタ!!!まさか私の心の中読んで……」
ベリアルは自身の金色の目を指して笑った。
「うん、どうやら、ボクはこの状態だとどうしても相手の心の中のことが伝わってきちゃうみたいなんだ。あ、でも安心して?その時心の表面にあることだけだから。それに、アンタのその震え方を見ればなんとなく判る」
言われて、初めて自分が微かに震えているのが分かった。
いつ襲い掛かるかも知れない苦痛と恐怖。
死にたくなるほどの……
「なら、大人しく捕まりなさい」
ベルゼブブが殺気を向ける。ベリアルはにこにこと瓦礫の山に腰掛けた。
「自分がされて嫌な事はひとにしちゃいけないんだよ?こんな子どもに、一体サタンは何をするの?よーく思い返してごらんよ」
「!!」
考えないようにしても、段々とその記憶が蘇ってくる。
気が狂いそうな恐怖。痛み。
頭が真っ白になる。
血が出るくらいにきつく手を握り締めた。
「……るさい…」
ベルゼブブの黄土色の髪が、ザワリとざわめいた。
「うるさいうるさいうるさい!!!!!!!!!」
血が騒ぐ。ベルゼブブは茶色い目でベリアルを睨みつけた。
その髪が、金色に染まる。
「なっ…」
初めてベリアルの目が驚いたように見開かれた。
一瞬にして、ベルゼブブの姿が掻き消える。
その姿を追う前に、ベリアルの背後に金髪の少女が立った。
「このっっ」
ベリアルが振り返りざまに手を上げる。その驚異的な反射速度についていけずに、ベルゼブブの頬に3本の傷が走る。
しかし、その手をベルゼブブが掴んだ。
「黙れこのクソガキが!!!大人しく私に捕まればいいのよ!!!」
ベルゼブブの身体から金色のオーラが噴き出し、ベリアルの身体をも包む。
雷で撃たれたような衝撃にベリアルの表情がほんの少し歪む。
「なんだコレ…」
しかし、戦闘に差し支える程のダメージではない。
ベリアルはベルゼブブの手を振り払い、正面に向かう。
「これは、アンタの能力?」
痺れる腕を振りながらべリアルが訊く。ベルゼブブはベリアルをこれ以上なく睨みつけ、その目が金色に怪しく光る。
その瞬間、ベリアルの身体が硬直した。
「なっ、これは…」
「どぉ?自分の『力』でやられる気分は」
にんまりと、悪魔の笑みを浮かべてベルゼブブが問う。
「私はね、相手の『力』をコピーして自分の物にする『能力』。光栄に思いなさいよ?コピーするのも、『力』の事を話すのも、アンタが初めてなんだから」
ドッッとベリアルの胸にベルゼブブは腕を突き刺す。
「ガッ…」
ベリアルが血の塊りを吐くのを冷徹に見ながら、ベルゼブブはその熱い塊を掴んだ。
一気に、塊りごと腕を引き抜く。
血管やらの切れる嫌な音がして、ベリアルがまた咳き込んで血を吐く。
胸からもおびただしい血が流れていた。
まだ脈打っているソレが、ベルゼブブの手の中で黒い光に包まれる。
そして、そのまま跡形もなくベルゼブブの手の中から消えた。サタンの元に送られたのだ。
ベリアルが、そのまま気を失って倒れる。
それをベルゼブブは冷たく見下ろしていた。
息の根を止める事も考えなくもなかったけれど。
もっと苦しい現実を思い知らせてやる。
ベルゼブブは血に濡れた手で、目元の…血ではない透明の雫を拭った。
それは、血と混ざり合って赤い涙となって流れ落ちた。
そうして、本当に虚しいだけの世界に、ベリアルとかいう少年も加わった。
『THE END』
グロ!!!なベリアルの誕生です。
ベルゼブブとベリアルの出会いというか。
この時点では戦い慣れしてる分、ベルゼブブの方が強いです。
アスモデウスはこの時からバカで、ベルゼブブのアスモ嫌いはこの瞬間からのとても根深いものです(笑)。
後日談として、ベリアルが周囲を瓦礫と化した影響でベルゼブブ達の部屋は大破もしくは没収され、大嫌いなアスモやベリアル達と同室で暮らす羽目になりました。
アスモデウス以外にも悪魔の生き残りはいたんだけど、出すと収集付かなくなるので出しませんでした。天軍と戦うために戦場に出ていたと思ってください。
この時はまだ冷静でまともだったほうの少女、ベルゼブブは、この後アスモやらベリアルやらに影響されて馬鹿になっていきます。
生まれつき、神に反抗しないように自我を封じられる天使に対し(その自我の封印が解けたのが、ガブリエルやラグエル達)、ベリアル達悪魔は、魔王に文字通り心臓を握られて従うように仕向けられてます。(あのベリアル達がリリムに従う理由がわかるかと…)
その穴をかいくぐって、どう好き勝手するかが今のベリアルの生き甲斐(笑)
見た目は可愛らしい子どもだったベリアルさんは、生まれた時から邪悪でした……
ということで、邪悪な文章にお付き合いいただきまことにありがとうございました。




