90 ガニメデストーン
ふざけて白球に呼びかけたら、応答が返って来た。
「なんで、みんな俺の冗談を本気にするかな。しかも、今度は白球だよ。管理プログラムだよ」と愚痴ってみる。
「そう言えば発声機能がどうのとか言ってたよねリュウ。それで、白球システムがリュウのために努力したんじゃないの?」とメリス。
そうか。確かに、そんな話もしたかもしれない。いや、いくらなんでも、そんな訳あるか! 絶対関係無いだろ。
「そもそも、音声に反応していたのですから、こうなるのは時間の問題だったかも知れません」とルジン。おっしゃる通り。
それはともかく、談話室は今や全員が俺の通信に注目していた。これは、呼びかけた俺が何か言うしかないだろう。見るとメリスも不安そうな顔だが頷いた。
「あ~っ、白球に質問だ。最近白球が消えているが何か問題があるのか? 俺が解決してやるから教えろ!」
まぁ、ダメ元で言ってみた。
ー 回答します。現時点の問題は、エネルギーモジュールの触媒枯渇です。
「マジか」横で、コーヒーカップを持ったまま、ホワンがつぶやいた。
「凄いっ」とメリス。
「やった~っ!」とユリ。
「のじゃ」とツウ姫。
「ホントに、私たちでは出来ないことをやりますねリュウさん」とルジン。いや、今そんな突っ込みは要らないから。
「ホントかよ。白球よ。異常は無いって言ってなかったか?」
ー 回答します。このシステムに異常はありません。触媒が枯渇しているだけです。
「なるほど。システムとしては正常だが、エネルギー切れでシャットダウンしようとしていたってことか」
「聞き方が悪かったのね」とメリス。
「バッテリー切れだもんね」とユリ。
「おやつの時間かえ?」とツウ姫。そうかも。
「まぁ、そうなるとセーフモードみたいな特殊なモードにいるのかもな」
「そうね」
「確かに」
「使い過ぎたのじゃ」とツウ姫。
「「「あっ」」」
いや、知らないし。
「まぁ、いい。じゃ、続けて白球に聞く。その触媒とはなんだ?」
ー 回答します。触媒はガニメデストーンと呼ばれる特殊な鉱石です。
「なんだそれ?」
「私も知らない」とメリス。
「なんでしょうね」とルジン。
「ガニメデって、あのガニメデだよな?」
「他に無いわよ」とメリス。
「ガニメデストーンなんて聞いたことないぞ」
「私も、衛星ガニメデの開発は聞いていますが、そういう鉱石のことは聞いてませんね」とルジン。ルジンが知らないなら誰も知らないよな?
「で、そのガニメデストーンがあったとして、いつまでなら白球システムを復活させられるんだ?」続けて俺は白球に話し掛けた。
ー 回答します。既に枯渇状態です。予測不能領域のため早急に補給願います。
「そりゃ、障害出てるくらいだもんね」とメリス。恐らく、システムとしては残量ゼロなんだろう。
「了解だ。なるべく早く用意しよう。あったら、白球に持って行けばいいか?」
ー 回答します。『創造者の世界』の指定の場所に置いてください。
「分かった。待ってろ」そう言って俺は白球との通信を切った。俺は、思いっきり変な汗をかいていた。
「とにかく、ガニメデストーンを探そう」俺は絞り出すように言った。
* * *
それから、俺たちは世界ゼロ、世界L、世界N、世界Gと、木星の衛星ガニメデを開発している世界全てに問い合わせた。白球には、ガニメデストーンの成分などの詳細を問い直して、間違いのないようにした。
「要するに、ガニメデ特有の構造と組成を持つ鉱物のようですね」ルジンが言った。
「ああ、単に元素や化合物があればいいって訳じゃないんだな。だが、物理生成機能で作れないのはなぜだろう?」俺は不思議に思った。
「わかりません。ただ、ガニメデでも普通に掘削しただけでは見付からないようです。触媒という話ですがキーを兼ねてるのかも知れません」
「うん? キーって何のキーだ?」
「白球システムを維持させるためのキーです」
「ああ、誰にでも使わせる訳ではないってことか?」
「はい。もしかすると試されているのかも知れません」
「それは、俺たちに彼らの遺産を継承する資格があるかとかいうことか?」
「そうですね」
「面倒な話だな。まぁ、そういうものを残す気持ちは分かるが」
実際自分でも、同じことをするかも知れないと思った。管理できない者に大きな力を譲ることはしたくないだろう。無限回廊を使えば多重世界銀河を自由に出来る訳だからな。
「しかし、いったいガニメデの何処にあるんだよ!」
時間ばかりが過ぎて、俺は焦り始めていた。こういうことは、もっと早く言って欲しいものだ。
* * *
しかし、俺の叫びは間違っていた。問題は「ガニメデの何処にあるか」ではなく、「何処のガニメデにあるか」だったのだ。
焦る俺たちに思わぬ朗報が届いた。それは世界Gのガニメデからだった。
ー こちらマクガイ。リュウ、聞こえるか? 久しぶりだな!
いきなりガニメデからの通信が入った。そういえば、世界Gは評議会の参加世界ではないが、多少は情報交換をしている。
「こちらリュウ! マクガイか。なんだ、どうした?」
ー いや、俺たちが発見したガニメデストーンが必要だと聞いてな!
なんだって~っ?
「ほ、本当か? それは有り難い! マクガイたちが発見したのか! 凄いじゃないか!」
ー そうだろう? 俺たちも頑張ったのさ。わははははっ。
「ああ、そうだな! 俺も必死に探したんだが見つからなくて焦ってたんだ。良く見つけたな!」
ー そうか? 確かに普通なら見付からないかもな。なにしろ『ガニメデの盃』の敷石だったからな!
「なんだって~っ? 『ガニメデの盃』の敷石だと~?」
ー いや、めずらしい石だなぁって思って調べただけだけどな! 例のバクテリアの一種があの石を作るらしい。
そういえば、珍しいバクテリアを見つけたっけ。あれがガニメデストーンを作るのか。
「まぁ、いい。分かった。じゃ、取りに行けば貰えるか?」
ー ああ、用意して待ってるよ
「そうか、よろしく頼む」俺は、そう言ってマクガイとの通信を切った。
「ガニメデストーン、あったんだな!」ホワンが勢い込んで言った。
「ああ。たぶんな」
「『ガニメデの盃』の敷石ってなんだ?」とホワン。
いや、それ聞かれても、ちょっと困るんだが。
「あ~、露天風呂の敷石にした石だ」
「ガニメデで露天風呂? 意味が分からんっ」とホワン。
面倒くさいから、その話は端折ることにした。
「とにかく行ってくる」
「リュウ、お前だけが動く必要ないぞ」とホワン。
いや、説明するのが、凄く面倒なんだよ。
「そうだが、白球に俺が行くと言ったしな。訂正するのは面倒だ」
「それもそうだな。じゃ、すまんが頼む」
「分かった、任せろ」
俺は、早速世界Gへと飛んだ。




