89 白球の管理者
「白球に転移機能があるだと?」
世界ゼロのホワンが思わず大きな声で言った。
もちろん俺たちは白球U1001に転移した。
俺の予想通り無事に無限回廊調査隊本部に帰ることが出来たのだ。そして、事の顛末を本部長のホワンに報告しているところだ。
「ああ、白球の名前が分かれば自由に転移出来るようだ」
「この多重世界銀河の何処へでも行けるのか?」
ホワンは透明な天蓋の外に広がる多重銀河の光を見渡して言った。
「たぶんな。試してみないと分からないが」
「そりゃ、凄いな」
「まぁ、もともと白球の中は亜空間の可能性がある。別の亜空間に飛ばされるだけなんだろう」
「そ、そうか。そうかもしれないな。しかし、それは重要な機能だ」
「そうだな。ただ、今は白球が安定していないから注意が必要だが」
「ううっ。そうだな。それにしても大発見だ」とホワン。
今が撤退する状況でなかったなら大喜びしているところだ。いきなり多重世界銀河を飛び回る方法を手に入れたんだから。
「そうなんだが緊急事態だからな。創造者の世界が赤色発光していた。このままなら白球システムと一緒に消えるだろう。つまり無限回廊は崩壊する」
もちろん、多重世界銀河が消えるわけではない。あくまで、白球システムの機能が失われるだけだ。
「ううっ。崩壊か。そうなったら俺たちはどうなる?」
「わからんな。亜空間から放り出されるんだろうが、どこに放り出されるか見当もつかない」
「創造者の世界に放り出されるのか?」とホワン。
「そうかもしれない」
「そうか。創造者の世界がどこにあるのか知らないが」とホワン。
「まぁ、救助には行けないだろう」
「だろうな。わかった。とにかく緊急撤退命令を発動しよう」
既に無限回廊からの撤退を決めてはいたが、ゆっくり撤退している余裕がなくなった。
創造者の世界と共に白球システムが崩壊しようとしていることが確実になったのだ。可能な限り早く撤退しなければならない。
ただ、多重世界研究者が多くを占めているので簡単ではない。なかなか帰りたがらないのだ。しかし、世界ゼロの地上には本部施設もまだ残っているし調査隊や支援隊の施設もある。世界ゼロの存在確率に悪影響が出ないようにではあるが即刻戻ることになった。
また、研究者は世界Lや世界Nへも分散することにした。対外的には無限回廊の危機と撤退は発表されないからだ。
* * *
一週間後、無限回廊にある調査隊本部は閉鎖した。無限回廊ステーションも無人化して観測のみを続けている。また、研究者は既に出身世界に戻っていた。
「私たち、このままでいいの?」メリスが昼食後の談話室で語気荒く言った。もちろんここは世界ゼロの無限回廊調査隊本部だ。
「うん?」
「このままほっとくと、無限回廊はなくなっちゃうよね」とユリ。
ユリも無限回廊がなくなるのが残念らしい。
「それは困るよな。折角これから色んな世界を見れると思ってたのに」
知らない世界へ行ける無限回廊のようなシステムは貴重だ。
「わらわも、他の世界を見たいのじゃ!」
「まぁ、別世界転移は振り出しに戻ることになるだろうな」
「そう、それよ!」とメリス。
「もう、ちゃんと飛べなくなるわけね!」とユリ。
「そうだな。飛べても世界Fの人たちのように遠くへ飛ばされるだけかもな」
「白球がなかったら、避難できないじゃない!」とメリス。
「こ、怖すぎる」とユリ。
「そうじゃの」とツウ姫。
「としたら、私たちであの『創造者の世界』へ行って白球システムの崩壊を防ぐしかないわよね」とメリス。
「あ? そんな事言って。どうするんだよ」
「そんなことリュウがなんとかするしかないわよ」とメリス。俺かよ。
「何言ってんの、とんでもないシステムなんだぞ。俺になんとか出来るわけないだろ。出来るとしたらルジン、レジン、リジンのお三方くらいだ」と俺は正直に言った。
「そんなこと、私たちでも無理ですよ」と横で聞いていたルジンが応えた。
「いや、お三方で無理なら俺なんか絶対無理だ」
「だから、リュウはそういうのとは違う意味でなんとかするでしょ?」とユリ。
お前、何言ってんの?
「俺って、そういうキャラなのかよ」
「当然よ!」とメリス。お前もか。
「そうそう」とユリ。
「夜這いを掛けるのじゃ!」とツウ姫。
うん、俺やっぱ付き合う相手を間違えてるかも。
「あ~っ、ここは、あれだ。俺じゃなくて白球様にお伺いを立てるしかないな」
もう、面倒なので、ふざけて誤魔化そう。
「何よそれ」とメリス。
「だから、白球に解決方法を聞くんだよ」御代官様~っ。
「どうやって?」
「え~っとっ? あぁ、白球に監視装置を置いて来ただろ? あれの通信機で白球を呼び出せるかもよ?」と、ちょっと苦し紛れに言ってみた。
「ふぅん、やってみて!」とメリス。
そう来たか。仕方ないから、俺は多重世界通信機をオンにして白球の監視装置を呼び出した。
「お~い、白球聞いてるか?」もうダメ元で話し掛けてみた。
ー ピポッ
うん?
「なんだ今の?」
「なに?」メリス。
「今、何か音がした」
「気のせいじゃない?」
「だよな。白球が反応したのかと思ったよ」
「そんな訳ないじゃない!」とメリス。
「あははっ」とユリ。
ー 回答します。こちらは、あなた方が白球と呼んでいる者です。
「なっ! なに、今の!」とメリス。
「ええええ~~っとっ!」とユリ。
「夜這いに来たのじゃ~~~~っ!!!」とツウ姫。意味不明。
「昼さがりの夜這いは間抜けすぎだろ」
「そんな突込み要らないから」とメリス。
「とりあえず、聞いておるようじゃの」とツウ姫。
あ~っ、こんなこと言ってる場合じゃない。
しかし、どう反応すればいいんだ? 談話室の全員が見守っている。てか、横でコーヒーのお代わりを取ろうとしていたホワンが固まってる。いや、時間が止まったわけじゃないからコーヒーこぼすなよ。
いつの間に白球は話すようになったんだ? 発声機能あったのかよ。しかも、ちゃんと日本語学習してやがった!
「今の聞いたか?」
「ほ、ホントに白球なの?」とメリス。
「たぶんな」
「のじゃは覚えなかったようじゃの」とツウ姫。
「ホントだな。残念な奴だ」
「そこ、余計な会話しない!」とメリス。
「もしかして、白球の管理者かもよ?」とユリ。
「あ? そうか? まずは確認しないとな」
「あり得ないんだけど!」ユリは、まだ信じられないようだ。
「あ~、お前は白球か? それとも、白球の管理者か?」
ー 回答します。私は、あなた方が白球と呼ぶシステムの管理プログラムです。
「おお、人工知能来たーーーーーーっ」
「うそ~~~~~っ」とメリス
「管理者いた~~~~っ」とユリ。
「のじゃ~~~~っ」とツウ姫。




