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多重世界の旅人  作者: りゅう
創造者の世界編
86/128

86 紫の夢

 世界球の融合の翌日、俺たちは確率風が落ち着くのを待って世界Sへ向かった。他の世界と融合したのだから別の名前でもいいのだが、命名した名前がそのまま残っていた。何か意味があるのだろうか?


「ツウ姫は、本部に戻っていてもいいぞ」

「わらわが行かないでなんとする」そう言うと思った。いつも通りで安心した。こいつは強いな。

「レジンたちも、帰っていいのに。もう、作戦行動の必要はないからな」

「ここまで来て、見ずに帰れませんよ」とレジン。


 それはそうだよな。いや、そうだけど、帰ってくれたら帰りやすい人もいるんだが。まぁ、いいか。


  *  *  *


 千里眼で分かったことだが、世界Sは殆ど変わっていなかった。融合できたのだから当然か。少なくとも外見上の違いなどは見当たらなかった。

 仙台のノブタダは元気に城主を務めていたし、藤原邸もそのままあった。ただし、俺たちが配ったジャガイモやトウモロコシはなくなっていた。どこにも、その痕跡は無かった。おそらく、俺たちが登場する以前からの過去改変が起こったと思われる。これが、いいことだとは分かるが、全て無かったことになっているのは、ちょっとショックだ。仙台や、大阪、堺、紀州と旅をしたが、誰も覚えていないのだろうか。


 ツウ姫の家族については、藤原忠義も妻のセツも存命で娘のツウもいた。ただし、防護スーツは消えていた。多重世界通信中継器も同様に消えていたが、これについては既に無限回廊に中継器を置くことで解決しているので問題はない。

 つまり藤原邸への通信手段は全て消えていた。恐らく、記憶もないものと思われる。だが、この三人が普通に暮らせているのだから融合に不都合な点はない。


「これでいいのじゃ。わらわが心から願っていたことが起こったのじゃ。文句を言うことなどない」


 ツウ姫はそんなことを言った。確かに、そうかもしれない。


  *  *  *


 昼時、家族三人が揃った藤原家の食卓は明るい会話に満ちていた。


「セツ、中庭を作り変えようかと思うが何か希望はあるか?」タダヨシは楽しそうに言う。

 彼の趣味は庭いじりである。新年早々、新しい庭作りを考えているようだ。


「お庭のことは、お任せします」


 セツには特別な希望はない。何故ならタダヨシが作る庭が大好きだからだ。


「そうか。ツウはどうじゃ?」


 タダヨシは、すくすくと育った愛娘に話を振った。


「わたくしも、母様と同様に……あっ」ツウは、ふと思うことがあった。

「うん? なにかあるのか?」

「枯山水も宜しいかと」


 ツウは忠義の庭が大好きだったが、根を詰めすぎて体調を崩したことを思い出した。


「なんだ、若い娘に似合わぬことを言うじゃないか」


 忠義は、娘の意外な言葉に驚いたが、ちょっと考えてみる。


「そうか、ツウが言うなら一度やってみるか」そう言って藤原忠義は笑った。


 その会話は、ツウ姫が以前にした会話と同じだった。


  *  *  *


「のう、リュウ」ツウ姫は、観測球の椅子に座って言った。

「なんだ?」助手席に座った俺が言った。


「夢が叶った人間は、どうすればいいかのぉ」ツウ姫は、やや間延びした調子で言った。スクリーンには融合した世界Sが映っていた。

「難しい質問だな。俺の夢は叶ってないから分からないが」と俺は言った。


「リュウの夢は何じゃ?」

「俺のか? そうだなぁ? 俺の居場所を見つけることかなぁ?」

「居場所か?」


「この多重世界だったら、俺にぴったりな世界がありそうな気がしてな」

「なるほどのぉ、ここにいても、まだ見付かってないと言うのか?」

「うん?」


「リュウは贅沢じゃな」

「そうなのかな」

「そうであろう? ここにいること自体が羨望の眼差しで見られていると言うのに」

「他人の夢を実現してもな。俺の夢じゃないし」そういうと、ツウ姫は一つ頷いた。


「夢を実現出来ていても、満足できないことはあるのぉ」

「そうだな」

「ならば、その夢。わらわにも見せてくれぬか?」

「うん? 本気か?」

「本気じゃ」

「行先は違うかも」

「そんなことはないのじゃ」

「そうか」


 なぜか夢を実現してしまったような二人が、一緒に彷徨うのも悪くないかもな。


「ねぇそれ、私を忘れてもらっちゃ困るんだけど」と下からユリが言った。

「当然私もね」とメリス。

「お前ら、いい加減、俺に付き合わなくていいんだぞ」


「だめよ」

「だめだめ」

「なんでだよ」

「リュウといるのが一番面白いから」とユリ。

「そうそう」とメリス。

「分かっておるのぉ」


 似たもの同士かよ。


  *  *  *


キーンッ キーンッ キーンッ


 観測球でまったりしていたら、いきなり聞いたことない金属的な音が鳴り響いた。音そのものも聞き覚えがないが、問題は何処で鳴っているのか分からないことだった。


「なんだこれ? 何処で鳴ってる?」

「分からない! 観測コンソールじゃないわね!」

「これ、ステーションの通知音じゃないわね。もしかして白球?」とメリス。


 そんなことを言っていたら、その音は急に止まった。


「なんだったのかしら?」とユリも訝しんだ。


 すると今度はコンソールのアラートが鳴りだした。


「緊急事態です。白球U0002が消えました。繰り返します。緊急事態です。ただ今、白球U0002が消滅しました」これは、ステーションの緊急放送だ。


 俺たちは息を飲んだ。それぞれが、今の放送の意味を探っていた。


「調査隊員および支援隊員は全員中央作戦室に集合してください。繰り返します。調査隊員および支援隊員は全員中央作戦室に集合してください」


「な、なんだって~っ?」反応が遅いと自分でも思う。

「白球が消えた?」とメリス。

「何が起こったの?」とユリ。

「こうしちゃ、いられないのじゃ!」ツウ姫は俺のひざの上から飛び出した。


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