85 消える紫
白色分離現象が思ったより発生していることが判明した。また、分離した世界が再び融合するという現象も確認された。分離については当事者は気づかないと思われるので問題はない。しかし、融合は別々の人生を歩んでいた者が一緒になるのだから問題だ。
ふと、別の過去があったような気がすることがあるが、これって世界が融合したんだろうか? デジャヴ? あんな感じになるんだろうか?
あるいは、融合で相似体や等価体から一人だけが選ばれるのだろうか? それでは融合ではなく選択になってしまうが。つまり、片側世界の消滅だ。それ以外の融合なんてことが可能なんだろうか? また、融合したとき俺たちのように無限回廊にいる者は影響を受けるんだろうか?
分からないことだらけだ。
「どうやったら、世界は融合しないと思う?」俺は会議室で皆に問いかけた。紫三世界対策会議である。この件については俺たち調査隊は自由に動けることになっている。
「そうねぇ、融合するってことはほとんど同じだから出来る話よね?」とメリス。
「そうだろうな」
「だったら、それぞれの世界に独自性を作ればいいんじゃない?」とメリス。
「独自性か」
「何、悩んでるの? リュウが飛び込めばいいじゃない!」とユリ。え?
「そう。そうよね!」とメリス。
「そんなわけないだろ」
「そんな事、あるじゃろ。すでにノブタダの件で違いが生じている」とツウ姫。
「そうね。むしろ、リュウさんが夜這いに来たから、まだ融合せずにいる気がします」とマリ王女。ええ~っ?
「いや、夜這いじゃないし。てか、俺だけじゃないし」
「夜這いが、世界を救うのですか!」なぜか、リリ王女が感激している。どの辺に感激してるんだろうか、後で聞いてみたい。
「よくわかりませんが、凄いですお嬢様!」とユイ。
「とりあえず、リュウをぶっ込めば何とかなる気がする」とユリ。なんだそれ。俺、爆弾かよ。
「いや、俺だけじゃないだろ? お前たちもだ。レジンたちも貢献してただろ?」
「そうですね。確かに、あの頃は多重世界に影響を与えて弾き出されようと必死でしたからね!」とレジンが懐かしんで言った。ん? なんで気が緩んだ顔してるのかな?
「なんで、そんなに暢気に思い出話してるかなぁ? もう、当事者になってると思うが?」
「えっ? なんのことでしょう?」とレジン。
「いやだって、あの世界で活動するとしたら、レジンも一緒だろ」
「そうよね。今更別のメンバー連れて行けないわよ」とメリス。
「そうそう」とユリ。
「そうじゃのぉ。父上にも顔見知りじゃしのぉ」
「そうね! 私も行きたい!」と久しぶりにシナノが張り切っている。
「しょうがないなぁ。じゃ、私もいく!」とセリー。てか、思いっきり楽しそう。
「決まりだな!」
さすがにレジンも諦めたようだ。ただ、彼もまたどこか嬉しそう。
「確かに、リュウさんたちのせいで進行が停止していると言えるかも知れませんね」とレジンが真面目に言った。いや、それ自分の評価低すぎだろ? 一番やってたよな?
まぁいい。ただ、これから行くとしたら、何をすればいいんだ? やれることは既にやってしまった気もする。
「しかし、そんなに影響あったのかなぁ? ちょっと自信無いな」
「そうかなぁ? とりあえず行ってみたら?」とユリ。ちょっと無責任じゃないか?
「いや、何をしたらいいか分からん。多重世界相談室みたいな活動すればいいのか? あるいは多重世界救助隊?」
「それよ!」とメリスが食いついた。なんで、俺の冗談に食いつくんだこの人たち。普通、冗談だろ?
「まぁ、じゃぁ行ってから考えるか。早速、紫三世界に行くぞ!」
「「「「「「了解!」」」」」」
レジンたちは支援隊だが、最大の課題のためだから抜けても大丈夫だろう。とりあえず、リジンたちが支援隊のバックアップを引き受けてくれた。
* * *
翌日、俺たち紫世界球救助隊は世界Sの世界球に集まっていた。もちろん、融合現象を止めるためである。世界Sの世界球の周りに、ぐるっと取りついて浮いている。
「よし、じゃぁ、行くぞ。ダイブ!」俺は世界Sの世界球を覗いて転移しようとした。しかし、何も起こらなかった。世界球への転移は転移トリガーを使わないので防護スーツの問題ではない。
「どうしたの?」とメリス。
「おかしい。藤原邸の庭にダイブしようとしたんだが、出来ない」
「どういうことよ!」とメリス。
「私もやってみましょう。ダイブ!」とレジンも試してみたが、何も起こらない。
「わらわも、やってみるのじゃ!」とツウ姫。
「じゃ、私も」とメリス。
「うそでしょ!」とユリ。
シナノ、セリーもやってみたがダメだった。
「これは、どういうことだ?」俺は、ちょっと焦りだした。
「千里眼はちゃんと動作していますね」とレジン。
「拒否されているのか?」
「そうですね。もう、融合が始まってしまったのかも知れません」
「そ、そんな!」ツウ姫が慌てる。
「他の世界へ行ってみよう。世界Hへ行くぞ」俺はみんなを連れて移動を開始した。世界Sだけが俺たちを拒絶する理由があるかも知れないからだ。他の世界で活動できれば問題無い。
だが世界Hで転移しようとしても出来なかった。もちろん、世界Mについても試してみた。だがやはり転移出来なかった。いや、それどころではない。確率風が吹き始めたのだ。それも分離とは逆方向に。
「す、吸い寄せられるのじゃ!」
本部ステーションに戻ろうとする俺たちを、世界Mに向かって吸い込み始めたのだ。
「ヤバイ! 白球D1001に逃げ込むぞ!」
「「「「「「了解!」」」」」」
俺たちはなんとか白球に飛び込んだ。そういえば、分離現象で飛ばされる時、常に白球に飛び込めるという保証はなかったな。確率風が最大の時に飛び込めるのかどうかは未だに不明なのだ。
「今のは、ヤバかったのじゃ」とツウ姫も危険を感じたようだ。
「ホントね、引き込まれるかと思った」とメリス。
「拒否る癖に引き込むってどういうことだ?」
「あれは安全な転移じゃないよきっと。白球システムがやってる訳じゃないよ」とユリ。
「そうですね。分離の時は確率風を放出するとして、その逆の融合では吸入でしょうか?」とレジン。なんか、怖そうなことをさらっと言うな。
「融合に必要な燃料にでもするんでしょうか?」とシナノ。その発想も怖い。
「きっと、消化するんだよ!」とセリー。一番ヤバそうなこと言ってる。まぁ、確かにアリ地獄を連想した。
「あんなのがあるから、無限回廊にゴミがないんだな」
「なるほど」とレジンが妙に納得している。
まぁ、あっても点だから見えないか? 白球システムが補足したものだけが見える筈だよな。
そういえば、赤色分離で確率風を噴き上げていた時、何かが飛び出したことあったっけ? それが無限回廊に浮いていないのは、これが一因かもしれない。分離で飛ばされた世界を吸収してたら怖いな。
「ゆ、融合する」透明化した白球から紫三世界を見ていたメリスが指差して言った。
俺が見た時には、既に間近なところまで接近していた。位置的には世界Hに両側から接近したようだ。
「ああ、融合してしまうのじゃ」とツウ姫。俺はツウ姫のほうが気になる。
「ツウ姫、気をしっかり持てよ」
「分かっているのじゃ。わらわは食われたりせん」
白球の中にいるからと言って安全とは限らないからな。ツウ姫が手を伸ばしてきたので、引き寄せて肩を抱いてやった。それを見たユリが反対からツウ姫に抱き付いた。
「私も」と言ってメリスは後ろから抱き付いた。どこか、かぐや姫を守っているような気持ちになっていた。
世界球の融合は、始まってしまえば世界球分離と同様に推移した。一つになった世界球は一瞬輝いたと思ったら、紫の融合色が消え通常の白色世界球になった。そして、多重銀河の上流に移動した。元世界Sがあったところより上流だ。ただ、まだ確率風は吹き荒れている。恐らくこれも一日程度は続くだろう。
ツウ姫は、強く手を握って離そうとしなかった。




