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多重世界の旅人  作者: りゅう
創造者の世界編
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84 白色世界球の実態

 無限回廊に調査隊本部を移して、俺たちは青色と赤色世界球の減色に成功した。

 このため、定例会で主に議論するのは紫世界球の件だけとなっていた。少し前の喧騒は嘘のようである。

 そんな中、あまり重要とは思われない報告が一件あった。


「白色世界球が分離したのか?」議長、世界ゼロのホワンが怪訝そうな顔で言った。

「はい。ログを見ると確かに分離現象が起こっています。名称も継承されているので間違いありません」支援隊のリジンが淡々と報告した。


 現在、支援隊は白球ごとに監視区域を決めている。しかし、有色世界球は別として白色世界球は外見上は全く区別がつかない。このため、区域内の世界球は全て命名して判別している。それがある日、管理区域内の世界球の数が増えていて、増えた世界球の名称は分離を示唆するものだったと言うのだ。

 名前を付けた世界球が分離すると、その名前に「'」のような記号が付加される。


「その世界球分離には気付かなかったということですか?」レジンが言った。

「はい。白色の場合、警報等は出ませんから。分離現象としてログに残っていたということです。このデータによると輝度が一瞬高くなった後に分離していました。同時に確率風の弱い揺らぎも検出しています。このような確率風の揺らぎは常に発生していますので、白色世界球の分離は日常的な現象ということになります」とリジン。


 最近、有色世界球分離に振り回されて忘れていたが、確かに多重世界の分岐は頻繁に発生する筈だ。

 いや、本来ならもっと多いと思っていた時期もあるくらいだ。ということは、気づかなかっただけで今までも発生していたのだろう。ただ、白色で確率風も穏やかなために目立たなかっただけなのだ。実際、全てに命名した監視区域の中だからこそ見付かったのだ。もちろん、監視区域外へ飛び去ったものについては監視していない。


「なるほど。日常の現象ということなら問題はないな」


 一瞬、緊張したホワンだったが、安堵した表情になって言った。懸案事項が増えたのかと心配したようだ。だが、本当にそうだろうか?


「そういえば、付かず離れず……だったな」俺は、メリスと歴史年表を作った時のことを思い出していた。

「付かず離れず?」ホワンが意味が分からないという顔で言った。

「あぁ、ほら、確率論的多重世界だと言い出した時の話だ。違いが増えるだけじゃないって言ってただろう?」と俺は言った。


「増えるだけじゃない……そんなこと、言ってたか?」

「ああ。そんなに分離現象ばかり発生していたら、もっと世界球が増えるだろう?」

「お、おう。そうだったな。発散してしまうからな」とホワンが応じた。ちょっと動揺しているか?


「ってことは?」

「恐らく、消滅している世界球が分離と同数あると言うことでしょう」とリジンが応じた。そう言うことだ。

「そうなんだが、それは本当か? 数合わせではそうなるが、いつどうやって消滅するんだ?」


「残念ながら、それは観測していません。消滅を確認したのは赤色分離したときくらいです。もっと観測を続けないと分からないでしょう」とリジン。


「あるいは、元に戻るとか?」確か、そんなことを言ってた気がする。

「そんな話、してたわよね。元に戻るって、どうなるか分からないけど」とメリス。


「白色世界球は、知らぬ間に増えて、知らぬ間に消えるのか?」ホワンは、幽霊を見るような顔で言った。


「日常的に増えるなら、日常的に減ってるはずだよな」

「そうですね。謎です。実態の究明が必要でしょう」とリジン。

「ふむ。支援隊員も増員されたし職員も増えている。もっと監視対象を拡大出来るだろう。白色世界球を含めて世界球の数にも注意するようにしよう」とホワンが応じた。


 白色世界球が分離して増えるのはいい。しかし、誰にも気付かれずに世界球が消滅するとなると話は違う。無限回廊調査隊本部は新たな課題に揺れた。白色世界球でも安心出来なくなるからだ。


  *  *  *


 その後、話題にはなったが特別な現象もなく、白色世界球消滅の謎は忘れ去られようとしていた。だが、この謎は意外な展開を見せた。


「融合したって?」俺は、ちょっと変な声を出してしまった。いや、コーヒーは吹いていない。


 俺たち調査隊は、最近は本部ステーションで待機していることが多い。支援隊からの報告を真っ先に聞けるからだ。談話室で知らせを聞いた俺は急ぎ中央作戦室へと走った。


「融合現象が発見されたって?」ドアを開けると、俺は思わず大きな声を出していた。

「ああ、リュウさん。そうなんです。白球U2001が捉えました」とリジン。

「映像はあるのか?」

「はい。お見せしましょう」そう言って、リジンは担当者に再生を指示した。


 見ると、二つの白色世界球が紫世界球に変化した後、接近して一つになっていた。


「こ、これは!」俺は思わず叫んでいた。

「そうです。紫色は分離色ではなく、融合色だったのです」リジンがはっきりと言った。


  *  *  *


 謎だった紫世界球の意味が判明した。しかし、その世界で何が起こるのかは全く分からない。


「どういうことじゃ?」本部の談話室で心配そうにツウ姫が言う。

「本当に、どうなるのでしょう?」マリ王女も当事者だ。

「お嬢様、どうしましょう」とメイ。


 ここにはいないが、ツウ姫2にも連絡を入れた。彼女たちも当事者だ。ただし、世界Bは関係無いと思われる。世界Bの発光色は白色になったままだ。それでも、リリ王女とユイは他人事とは思えない様子で聞いていた。これから紫化する可能性もあるかも知れない。


 融合で存在確率が上昇するのであれば、それは世界の安定を意味する。つまり本来、いい事の筈だ。だが、単純にはそうとも言えない。それぞれの世界にいる等価体は、どうなるのだろうか? 相似体はそのまま統合されるのだろうか? この辺りが判明していない。俺たちは参考になる事例を全く知らないからだ。


「逆に、どうして三世界は融合しないままでいられたのかしら?」とメリスが言った。

「確かにな。今回発見した融合は、あっという間なのにな」


「分離の場合でも時間が違うことはあるじゃない」とユリ。


 そう言えば、外的要因の分離と内的要因の分離では発色してからの時間が違う。内的要因の場合は長かった。


「つまり、三世界の場合は内的要因ってことだな?」

「そうなるわね」とメリス。

「なんとか止められないんでしょうか?」とマリ王女が言った。

「なんとか止めたいですね」とメイ。

「止めていいのかな?」

「どういうこと?」とメリス。

「あぁ。分離は周辺に飛んで消える可能性もあったけど、融合は消える訳ではないからな」

「でも、片方が消えるでしょ? 等価体たちはどうなるの?」とユリ。

「そこだよな」

「消えちゃうの?」とマリ王女。

「そ、そんな!」とメイ。

「いや、どう融合するのかは分からない。けど、ここにいれば大丈夫じゃないかな?」

「でも、整合性は取れなくなるんじゃない? もしかすると故郷に帰れないかも?」とメリス。

「その可能性はあるか」

「じゃ、阻止しなくちゃね!」とメリス。

「そうだな!」


 もちろん、世界球分離や世界球融合は自然現象だ。しかし、自然現象を全て受け入れるわけにはいかない。それが人間である。むしろ、人間自身がそういう自然現象であり生命活動なのだから。


 俺は、即座に多重世界研究協議会に諮った。いや、要請した。現在行っている監視と調査ではダメだと。「三世界の世界球色を消して欲しい」と。


  *  *  *


「我々は、予期せぬ変化を歓迎しない」多重世界研究協議会で世界ゼロのホワンは宣言した。

「何人も、その意思を尊重されるべきである」


 そういえば、等価体どころかホワンは相似体がいるんだよな。他人事じゃないよな。融合現象で、自分たちが融合されたらと思うと恐ろしいに違いない。


「俺は融合を恐れて無いけどな」と、ホワンは言った。


 可能な限り三世界の融合現象を阻止すると決定した後の話だ。


「俺は俺の相似体と話してみて分かった。俺は俺だ。多少の経験の違いはあるが、俺だった。融合しても何も変わらんだろう。はっはっは」とホワンは剛の者のようなことを言った。


 確かに、相似体なら違いは少ないだろう。多少、記憶に齟齬が出る程度の影響だろうか?

 だが、等価体や等価体を知る周囲の人間はそうはいかないのでは?

 いや、そうでもないか。世界が融合しようとしているのだ。既にほとんどの人間は相似体ということか。まれに等価体がいるくらいだろう。とすると、融合で大きな影響を受けるのは等価体くらいということになる。つまり、相似体のホワンは、ほとんど問題無いが、等価体のルジン、レジン、リジンはかなり混乱するのではないか。もしかすると融合の障害となれば、弾き出されるのかも知れない。


 こう考えたら、ますます世界Sの融合を阻止しなければならないと思った。というか、俺は恐怖さえ感じていた。


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