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多重世界の旅人  作者: りゅう
創造者の世界編
83/128

83 紫の三世界

 俺の愚痴はともかく、多重世界関連の研究は全て無限回廊に移行することが決定された。


 白球の機能について一部で不安視する人もいたため、移行にあたっては緊急時の空気貯蔵タンクや空気清浄機、その他生命維持装置などの設備が追加された。そうなると当然気密構造になるが世界ゼロの技術で楽に作れるそうだ。

 また、無限回廊ステーションに比べて大型になるので白球に入るのか懸念されたが、暫定コピーの地上の施設がそのまま入ったので問題無い事が分かった。無限回廊ステーションの時もそうだったが、白球は内部に置くものに合わせて空間を拡張するようだ。

 それでも、外から見ると白球の大きさに変化はない。つまり白球の内部は外観とは全く関係ないと言うことだ。同一空間かどうかも分からない。このことは、研究者の中で再度話題になった。


「確かに別空間でしょう。私たちの3Dの体は、あそこでは本来点ですからね。無限回廊にいるようで実際にはいないとも言えます」とリジン。


 つまり、点の筈の俺たちが3Dの体で振る舞っていること自体がおかしいということだ。


「仮想現実ではなく、二つの空間の情報が合成されていると考えるべきかも知れません」とリジン。

「合成?」

「はい。私たちは無限回廊内で多重世界に触れていると思っていますが、実際には触れていないのではと思います。亜空間にいて、そこに投影されている情報を見ているのだと思います」


「ああ、白球によって疑似的に情報操作されているわけか。実際は別空間の中にいて、情報だけ受け取っていると」

「それと仮想現実とどう違うんだ?」これは世界ゼロのホワンだ。

「この場合、情報自体は操作されていますが、どちらも同時に存在している現実だということです」とリジン。

「ああ、カメラやセンサーを積んだロボットを遠隔操作しているようなものか」


「そうです。この体をあの無限回廊に持っていくと単なる点の筈ですが、その点の状態であの空間にいるようです。実際に確率風に飛ばされますからね」とリジン。


「そうなると、亜空間のサイズには上限があるんじゃないか?」

「そうですね。人間が作る構造物程度は入るでしょうが、惑星規模は無理だと思われます」とリジン。


 しれっと凄い事をおっしゃってますね。やろうとしたのか?


  *  *  *


 多重世界研究所の職員の訓練を終えて少しすると、早くも白球に置く無限回廊調査隊本部が完成した。さすがに、この早さには訳がある。


 暫定的に無限回廊調査隊本部の地上ビルを白球にコピーして実際にスタッフが移動してみると、すぐに世界球の減色効果が確認されたのだ。つまり、俺たちの目論見は見事に成功したわけだ。これを受けて可能な限り迅速に正式な無限回廊調査隊本部を建設することが決定されたという訳である。

 設計を始めて約二か月で完成してしまった。いつもながら凄い奴らだ。

 施設の規模としてはサッカーのコートくらいだろうか。要するに、今ある無限回廊ステーションを大型化したようなものだ。将来は同じものを複数の白球に展開したいとのこと。コピーは白球の機能だから展開は簡単だ。


 まぁ、白球が凄いのだが。


  *  *  *


 正式に無限回廊の調査隊本部が活動を開始すると各世界球は急速に減色していった。これはつまり、多重世界研究が発色の原因だと証明されたことになるが対策もまた適正だったことになる。


「ついに白色化に成功した! 我々は成し遂げたのだ!」


 世界ゼロのホワンは、無限回廊の調査隊本部中央作戦室で高らかに勝利宣言をぶち上げた。

 ここは無限回廊ステーションで言えば中央転移室にあたる。周囲に転移室もあるのだが、透明ドームのある作戦指揮所で無限回廊に於ける活動は全てここから指示することになっている。


 ホワンのいう通り世界N、世界L、世界ゼロは共に世界球色が薄くなり殆ど白に近くなった。これなら安心である。各世界から多重世界通信で接続していた首脳陣たちも安堵の表情を浮かべていた。


 ただし、世界S、H、Mは別である。

 この三つの世界の世界球色は変化しなかった。それは当然である。この三世界には空間転移研究所が無かったからだ。また、連携協議にも参加していない。つまり、この三世界が紫色になっている理由は全く別の要因だということだ。


「我々の、世界が安定したのは喜ばしいことだが、関係しているこの三世界の世界球色に変化が見られないことは懸念される」世界Lのホワンが言った。


「そうですね。この協議会には参加していませんが、我々が知らない世界球色があること自体が問題です。また、我らが調査隊のメンバーにもこの世界出身者が多く在籍して貢献してくれています。近傍世界でもあり我々の活動にも影響が懸念されます。早急に安定化を図るべきでしょう」とレジン。


 一緒に連鎖反応をする可能性もあるしな。


 こうして、無限回廊に移動した調査隊本部の最初のミッションが決定された。『紫三世界の減色作戦』である。


  *  *  *


「わらわの世界を思ってくれるのは嬉しいが、何が悪いのか皆目見当つかんのが問題じゃのぉ」ツウ姫が困り果てた顔で言った。


 ここは夕食後の無限回廊調査隊本部の談話室である。もちろん、俺たちは本部ステーションに住んでいるから、よくここに集まって話をする。


「この三世界で共通している問題と言えば……寒冷化か?」

「そうじゃのぉ。しかし、それは既に対策してくれたではないか?」とツウ姫。


 食料とか抗生物質の話かな? あれはどうなんだろう? 人間の存在確率は上げたとは思うが世界全体というほど貢献しているだろうか?


「かなり限定的だけどな。まだ足りないのかな」

「もう、十分貢献していると思うがのぉ」とツウ姫。

「そうよね。普通なら餓死者続出するところが、かなり持ち直してるみたいだし」とメリス。

「ほんとよ。まさか寒冷化そのものを食い止めるとか無理だし」とユリ。


 確かに、そんなことが出来るなら苦労しない。


「わたくしも、興味あります。わたくしの世界は世界Sに大変近いと思いますので他人事とは思えません」とリリ王女。

「そうです。マリ王女やメイさんの世界と、私たちの世界は瓜二つ。親戚のようなものです」とユイも関心が高いようだ。

「ありがとう、リリ王女」とマリ王女。

「ユイもありがとう」とメイ。


「そういえば」


 彼女たちの会話を聞いていて、ふと思いついた。俺がそう言うと談話室にいたメンバーが一斉に振り向いた。なに?


「なんだ?」

「どうぞ」とメリス。

「はい」とユリ。

「わくわく」とマリ王女。

「うきうき」とメイ。

「いやいや、別に何でもない」

「なによ。もったいぶってないで言っちゃいなさいよ」とメリス。

「そうです」とリジン。いたのか。

「いや、それだけ似てる世界Bは、なんで発色してないんだろうな?」


「「「「「「「あっ」」」」」」」


「そ、そうですね!」とリジン。いや、そんな大げさに驚かなくても。

「三世界の共通した特性も大事だけど、世界Bとの違いを比較したらいいのかも。それが発色の原因だろ?」

「そうじゃん!」とメリス。

「うん、そうだよ」とユリ。


 いや、さすがにこれは誰でも考えるだろ。いずれにしても早速比較検討が開始された。それぞれの世界の人間がいるので直ぐに出来ることだからな。


  *  *  *


 そして、俺の思い付きは直ぐに結果が出た。ただ、あまり芳しいとは言えない。

 多重世界研究協議会の定例会で、紫三世界の課題について報告したのだ。世界Bと紫色三世界の違いはこうだった。


 ・世界Bは温暖化しているが紫三世界は寒冷化している


 これだけだった。いや、確かに細かい違いは多岐にわたる。しかし、有色化するだけの大きな違いは、これしか見当たらなかったのだ。ツウ姫たちは自分たちの存在を気にしていたが、無限回廊にいる以上関係無い筈だ。


「やはり、寒冷化が原因なのか?」とホワン。

「そうかな? けど、寒冷化が原因ならずっと前に有色化してる筈だよな。シグナルを出しっぱなしってのも不可解だな」と俺が言った。


「それと、私が調べた限りでは寒冷化は後退しています。つまり温暖化が始まっているのです。これなら減色になりそうなのですが影響していません」とリジンは言った。


「影響していない? 三世界の位置はどうなんだ?」と俺は聞いてみた。

「それが、不思議なことに多重世界銀河中心の方向に移動しているようです。もちろん、温暖化しているのですから存在確率が上昇するのは当然なのですが」


「つまり安定化しているのか。なら、なぜ色が消えないんだろう?」

「もしかすると、青や赤とは違った意味があるのかも知れません」とリジン。


 なるほど。今までは世界球分離現象のシグナルだったが、全てがそうとは限らないということか。


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