82 世界球分離を阻止せよ!
週明けの多重世界研究協議会は紛糾した。いや、紛糾というか単なる大騒ぎである。何故なら、驚くべき事実が示されただけで解決策が見いだせないからだ。
「まず、幸いなことに直近の世界球発色の原因は分かっています」とレジンが一同に向かって宥めるように言った。
「直近の二例は、天の川銀河過密領域通過による分離現象でした。この場合は有色光球となってからの時間が非常に短いことが分かっています。赤色にしても青色にしても、世界球分離に至るまでの時間は殆ど同じでした」
ここまで言ってレジンは言葉を切った。この部分はちゃんと把握してもらわねば困る。
「ですが、我々の世界球は違います。この事より世界球分離までの時間は単一ではなく、原因に由来するのだと考えられます」と、レジンが過去のデータを元に分析結果を発表した。
「どう違うんだ?」と世界ゼロのホワンが聞いた。
「我々の場合は、小惑星衝突のような外的要因ではなく、内部の活動によって存在確率がゆっくり変動していると考えられます。少なくとも、先の二例のような天体は補足されていませんし、もしそうなら時間的に既に分離している筈です」とレジン。
「分かった」とホワン。
「恐らく、直近の二例の場合は突然外部から来た要因なので存在確率が再計算されるのだと思われます。それで直前になって突然発色するように見えるのです」
「なるほど。つまり、小惑星と衝突すると確定した時点で発色したのか!」と世界ゼロのホワン。
「はい。そう考えています」とレジン。
「うん。なるほど」ホワンは腕を組んで頷いた。
「しかし、我々は既に多重世界における位置と確率風の測定を行って監視を実施しています。このため、これ以上大きく変動しない限り直ぐに分離するようなことはないと考えています」とレジン。
「しかし、確率風は減っていないんだろう?」と世界Lのホワン。
「そうですね。ですが増加もしていません」とレジン。
「確率風を減らしたり、存在確率を上昇させる方法は無いのか?」とホワン。無茶ぶりだとは分かっている顔だ。
「対策としましては、情報が原因の場合は伝達の阻止が有効ではないかと考えています。セキュリティ向上策なども必要でしょう」
「うむ、今までも世界間連携は極力避けてきたが、更に徹底する必要があると言うことか」と世界ゼロのホワン。
「そうなります」とレジン。
そうは言っても、もうやれることはやっている。どうする気なんだろう。この話を聞いて俺は逆に焦りを感じた。
「とにかく、世界球分離を阻止する方法を模索してもらいたい。これは最優先事項だ!」と世界ゼロのホワンが宣言した。
現時点では内的要因による分離現象が、隕石落下のような外的要因による分離現象とどの程度異なるのか定かではない。今のところ違っているように見えるというだけだ。いつまで猶予があるのかは全く情報がない。
また、最低でも青色の絶滅レベルを考慮しなくてはならないだろう。そうなると、なんとしても阻止するという選択肢以外は無いのだが、その選択肢があるのかどうかは不明だ。当然、その選択肢を探せと厳命が下る。
ただ、言われたからと言って出来るとは限らない。発明や発見は命令して出来るわけじゃない。ただ環境を整えれば成功する確率は上昇するのも事実だ。つまり存在確率も上昇する。
* * *
急遽、俺たちは存在確率を上昇させる方法を模索した。なりふり構わずだ。もちろん目標は世界球色の白色化だ。
・過密領域を事前に監視する高性能観測機器の開発と設置
・宇宙空間における軌道変更装置の開発
・多重世界研究のセキュリティ強化
・空間転移研究所の非公開化
最初の二つは過密領域関連の対策で存在確率の上昇を期待している。そして後の二つは情報爆発を危惧した場合の対策だ。
もちろん、過密領域通過については今の世界球が発色した原因とは考えていない。ただ、危険を認識して対策を実施すれば存在確率の向上につながると期待しているだけだ。つまり、基本的な存在確率が上昇すれば全体として危険レベルを下げられるという考えだ。
後の二つは情報爆発を阻止するためのものだ。極力、情報漏洩を食い止めようというものだが今までの考えを強化するに留まっている。
それでも、この提案は即日承認され、これに基づいて行動を開始することになった。
他に手立ては無いし少しでも効果があると考えられるからだ。ただし、そうなると空間転移研究所の活動も制限されることになる。研究者としては、ちょっと引けないところだ。
* * *
「我々の活動を縮小しないと我々が全責任を問われかねないのだ」
世界ゼロのホワンは苦渋の選択をしようとしていた。多重世界研究の活動縮小を臨時の協議会で提案したところだ。
「やはり、そうなりますね。私たちも当面は活動を控えたいと考えています」とリジン。
なにしろ世界Nは赤に近い世界球色だ。自分たちの研究のために世界を犠牲には出来ない。
「やはり仕方ありませんな」世界Lのホワンも認めざるを得ないという立場だ。
「ちょっといいですか?」
まぁ、俺が口出すほどの事ではないが、ちょっと思い付いたことがあったので言っておこうと思った。
「おお、リュウ。何かいい案があるか?」世界ゼロのホワンは期待する目で言った。
「はい。空間転移研究所の活動を縮小とか一時停止するなどでは、ぬるいと思います。研究活動は完全に停止するのがいいと思います」
「お、お前! いや、俺たちの実験でお前には迷惑を掛けたが流石にそれは……」と焦るホワン。
「いえ、違います。地上で研究するのは止めると言っているだけです」
「どういうことだ?」と世界ゼロのホワン。
「はい。ヒントは俺が世界Rから弾き出されたことです。転移装置がトリガーにはなりましたが、俺は世界Rから弾き出されたと思います」そう言って、ちょっと反応をみた。
「うむ」と世界ゼロのホワン。
「俺を弾き出したので世界Rは白色のままでいるのだと思います」
「そうなのか?」ちょっと疑わしい眼差しでホワンが見た。
「だとしたら、変動の大元と考えられる空間転移研究所を弾き出せばいいことになります」
「何が言いたいんだ?」と理解できないという顔のホワン。
「だから、無限回廊に弾き出せばいいんです。世界に存在しないなら存在確率に関与することはなくなるのでは?」
「おおおおっ」と、世界ゼロのホワンが叫ぶ。
「それだ!」と世界Lのホワンも同調した。
「すると、もう戻ってこないのですか?」とリジン。
「いえ、一時的に地上に戻るなどは問題無いでしょう。後は情報の漏洩に気を付けるだけです。もし、必要なら関係無い世界に専用保養施設などを用意してもいいかも知れません」
「ああ、それいいですね!」リジンは専用保養施設が気に入った模様。
「すばらしい!」とレジン。
「やるね!」とルジン。
うん、レジン一族の承認貰いました!
俺の思い付きでしかなかったが急遽無限回廊移転計画が策定された。もちろん俺以外のちゃんとした人間が計画を立てているので問題はない。
これ以降、多重世界の研究は無限回廊で行うことにし使っていなかった白球コードU0001に無限回廊調査隊本部を置くことにした。ここに関係する三世界全ての多重世界研究を統合することになる。
地上でやることと言ったら、ちょっと変わった本部ビルを作るくらいなので問題無い筈だ。とりあえずは現在あるビルをそのまま白球に物理生成して全員が移動し効果を確認することにした。
地上の建物が白球にあると、ちょっと笑えるがすっぽりと入ってしまうし、そのまま使えるところが凄い。もともと宿舎も含まれているので何も考えずにそのまま移住可能である。
* * *
「で、結局、俺が教官をやるんだな」と俺は愚痴った。
研究所の職員を全員支援隊と同等レベルに教育しなくてはいけなくなっのだ。
「愚痴らない! 支援隊員も入れれば教官はたっぷりいるんだから、すぐに終わるわよ」とメリス。
「そうですよ! わたくしもお手伝いします!」とリリ王女。
「はい。私もお嬢様とお手伝いします」とユイ。
なるほど。だから心配なんだけど? まぁ、もう候補生じゃないもんな。正式な支援隊員だもんな。うん、任せた。俺は知らん!
「でも、言い出しっぺのリュウもやらなくちゃね!」と、メリス。そうですね。




