81 火球
天上の火球は、見ていられないくらい眩く燃えていた。
それは、あまり移動していないが、みるみる大きくなっていた。つまり、こっちに向かっているのだ。そして、どう見ても地上まで到達する隕石だ。それも、特大の。
「逃げるぞ! 爆風が来る」
俺は全員に指示を出した。
直撃を免れたとしても、すぐ近くに落ちたらひとたまりもない。
「リリたちは?」とランが叫ぶ。
窓の外は赤く異様な光に満ちている。
「俺たちだけだ!」
彼女たちは訓練も装備もない。フラルたちも転移を待っていた。
「つかまって!」とマリ王女。
「しがみ付いて!」とメイ。
火球は近くに落ち、強く光がほとばしった。
「転移だ!」
俺は転移トリガーを起動した。ボタンを押した後、一瞬だが窓が爆風で吹っ飛ぶのが見えた。
* * *
「きゃ~~~~~っ」
俺は、また耳を突き抜けるような黄色い叫びを聞いていた。
もちろん、ちゃんと無限回廊に転移している。
「なんだ? どうした?」
見ると、俺の右隣から目を大きく見開いたパジャマ姿の少女がしがみ付いていた。てか、浮いていた。なんで着替えてないんだよ!
「着替えるの遅いよ、お前」
少女は、まじまじと俺を見た。
「あなたがいいますか! ここは何処です?」
「ここは無限回廊だ」
「い、意味不明です」とリリ。
「ホントですお嬢様」ユイも同意らしい。
もちろん彼女はメイド服姿で俺の左からしがみ付いて浮いている。
意外と余裕だな。てか、よく俺にしがみ付けたな。
二人の事はともかく、世界Bの状況を千里眼で覗いてみたが酷いありさまだった。
隕石の落下地点はハワイ王国の首都からは離れていたが島は完全に吹き飛んでいた。
「酷い」千里眼でみたランが言った。
「何が見えるのです?」リリ王女が言った。これは、見せるべきだろうか?
「こ、これは! ハワイ王国が!」止める前に覗き込んでしまった。
「お、お嬢様。お気を確かに!」同じように覗き込んだユイが言った。
千里眼のインターフェイスは易しい。しかし誰でも見れるのは優しくない場合もある。
二人は驚愕の表情で言葉も出ず何も考えられないようだった。
仕方ない、無限回廊ステーションに連れて行こう。二人に帰るところはない。
* * *
驚いたことに、帰るべき場所を見失ったのはリリ王女とユイだけでは無かった。
俺たちもまた所在が分からなくなっていた。既に世界球は分離していて俺達も一緒に飛ばされたようだ。
転移で逃げ出すタイミングが遅かったからだ。無限回廊の周りの景色が違っていた。
「リュウ教官、ここは何処でしょう?」とラン。俺にも分からん。
「確か、すぐ隣は世界Lで青い世界球の筈だよな?」
「はい、少なくとも来た時はそうでした」
無限回廊の欠点というか、多重世界の紛らわしいところがこれだ。色以外に全く区別が出来ない。ちょっと飛ばされただけで簡単に迷子になる自信がある。
「あの、二つのピンクの世界球は世界GとNではないでしょうか? その向こうに三連の紫の光球が見えます」とラン。
なるほど。二連のピンク世界球は珍しくないが三連の紫はそうはない。それほど飛ばされたわけでは無いようだ。世界Gの隣あたりだろう。
つまり、白球の列を一つ外に飛び超えたようだ。
「よし、なら、あの白球に入ろう!」
俺は世界Gに隣接する白球を指差した。
たぶん、コードはU2002だと思う。まだ使われていない。
* * *
白球は特に変わった様子はなく、さっそく無限回廊ステーションを物理生成した。
さすがにリリ王女とユイは驚いていたが、マリ王女とメイも一緒に驚いてくれたので逆に冷静でいられるようだ。
仲間がいるのはいいことだ。特に等価体だから気持ちも分かるだろう。
ただ、ステーションの中に入って驚きが去ってしまうと自分たちの国がどうなったかを思い出して塞ぎ込んでしまった。これは無理もない。泣きわめくかと思ったが俺たちの前では静かにしていた。
俺は、彼女たちに部屋を宛がって休ませることにした。
* * *
翌朝、目を赤く腫らしたリリ王女とユイが朝食のスープを飲んでいた。
まだ、あまり空腹を感じないらしい。それでも、ここのスープは世界最高だからな。ちょっと驚いていた。美味しいものは人を元気にするもんだ。俺も、しっかり食べよう。
「まったく、もっと前に教えてくれれば良かったのに」とマリ王女の視線が痛い。
白球の物理生成でステーションを作ったことを言ってるようだ。確かに、まだ教えていない。
「本当です。いつも突然です」まぁ、メイもそうだよな。
「しょうがないだろ、俺たちだってまだ勉強中なんだから。常に勉強だ」
「そ、そうですけど」とマリ王女。
「そうでした」とメイ。
「マリ王女は、リュウ殿に師事してらしたのですか?」
リリ王女が俺たちの会話を聞いて不思議そうに言った。
「そうなのです。私たちは、教育の一貫でハワイ王国を訪れたんです」とマリ王女。
訪れてない。間違っただけだ。
「まぁ、そうでしたか。でも、いきなりベッドの中というのは感心しませんね」とリリ王女。
そうなんだよ。って、責任者は俺か。まぁ、ちょっと悪ノリしたな。
「そうだな。悪かった」
俺は素直に謝った。俺は教官だからな。
「はい。でも、お陰で助かりました。ありがとうございました」とリリ王女。なかなか素直でいいね。俺は好きだな。
「また、報告することが……」とランが不穏なことを言う。
「何もないよな?」
「はい、何もありません。ふふふ」とラン。
お前は、お目付け役か! てか、心を読めるのか?
彼女たちの今後については、ゆっくり考えるように伝えた。
しばらくは俺たちと行動を共にしてもいいし、帰りたいならいつでも帰れる。なんにしても、しばらく時間は必要だろうな。
「ありがとうございます。そうさせて貰います」とリリ王女は言った。
「ユイも自由に決めていいぞ」
「私はお嬢様から離れません!」
見ると、マリ王女もメイも頷いている。気持ちが良く分かるらしい。そうだろうな。
ちょうどいいのでリリ王女とユイの世話はマリ王女とメイにみて貰うことにした。
* * *
その後、支援隊と連絡を取ってみたが、やはり俺たちは青色世界の分離現象に遭遇してしまったようだ。
確率風としては強いものでは無かったが、それでも恐竜絶滅レベルの異変が起こったことは確かだ。恐らく、あの世界は今後過酷な時代を迎えるだろう。
ー 恐らく、これも天の川銀河の過密領域に入った影響でしょう。多重世界銀河全体で危機的状況になっているわけですから驚くことではないと思います。青色光球は分離現象としては小さい変動という意味でしょうね。分離後の移動距離が短いですから。ただ、それでも恐竜絶滅レベルというのが、恐ろしい話です。
支援隊本部との通信でレジンはそんなことを言った。
青色が分離現象の最低レベルかどうかは分からない。が、確率風の数値的にも赤色分離と比較すると、かなり低いことは確かだった。それで、これかよ。
最大の問題は世界ゼロと世界Lもまた青色世界球であり、世界Nに至っては赤に近いという事実だ。




