80 世界B
追加の支援隊候補生だが数日で飛翔モードをこなせる程になった。ちょっと遅いが出来たからいいことにしよう。
「ここまで出来ればこっちのものよ! 無限回廊に行っても問題無いハズ」ランが自信満々で言った。
「ホントですか~? やった~っ!」とフラル。もう合格したつもりだ。
「さすがに、飛翔モードと無限回廊は違うでしょうが安心しました」とミリス。二人は、一度行ってるしな。
「わ、わたくし、とても安心できません」とマリ王女。
「お、お嬢様、私もです」とメイ。
この二人も、転移で無限回廊には入っている。慎重派なのか?
つまり、四人とも既に無限回廊で必要な帆のようなものは出来ていると思われる。その意味ではランの言う通りである。
「そうだな。無限回廊未経験者とはわけが違う。ただし、まだまだ未知の世界だ。気を抜くと命取りになるぞ」と、釘を指す俺。
実際にそうだ。無限回廊に命綱は無いのだ。
「明日から、無限回廊ステーションで訓練だ。今日はゆっくり休んでおけ」
「「「「「はい!」」」」」
って、なんでランまで一緒になって応えてるんだ? 副教官だぞっ!
* * *
支援隊の教育の最終段階ということで、俺のチームは無限回廊ステーションU1002に転移して来た。ここは、世界Fの世界球分離でフラルが飛ばされて来た白球だ。あの事件でステーション化されたが、まだ運用している訳ではない。
「大丈夫か?」中央転移室に現れたとき、気になってフラルに声を掛けた。
「えっ? はい。大丈夫です。それに、ステーションは全部同じに見えます」とフラル。
なるほど。世界Hへ遊びに行った時は、運用中の無限回廊ステーションを経由したからな。あれで問題ないなら大丈夫か。
「それより、中央転移室って世界球が良く見えて好きです。ここは特に綺麗で」とフラルが言った。
無限回廊ステーションを置く白球は観測の必要性から原則透明化している。
「そうね。紫や青の光球が綺麗」とミリス。うん、紫はツウ姫たちの世界球、青は世界Lだったな。
うん? その隣にも綺麗な青い世界球が見えた。これは?
「世界Lの隣も青い光球だったか?」俺の記憶にないぞ?
「ええと、世界Lの隣なので、たしか白色光球だったはずです」とラン。
支援隊で監視任務についてたから覚えているようだ。
「そうか、報告しておこう」
「了解」
ランは慣れた様子で支援隊本部へ連絡した。これで他のステーションへ展開してくれる。他のステーションでも先ほど気付いたところらしい。
「よし。まずは、このステーションで訓練だ!」
「「「「はい!」」」」
こうして無限回廊での実習が始まった。
* * *
追加の支援隊訓練は、無限回廊ステーションに慣れたところで次は白球を出て実際に世界球を監視する業務に移った。単に映像を記録するだけなら人間が常駐する意味はない。自分たちで世界球を回って監視するのが支援隊の主な任務なのだ。
場所は、先ほど変化を見つけたばかりの青色世界球だ。確率風も強くないので千里眼を使った監視の訓練を実施することにした。
「覗くだけだからな。ダイブするなよ」
「「「「「は~いっ」」」」」
だから、なんでランまで一緒に覗き込んでるんだよ!
「あっ、ハワイ王国がよく見える!」とフラル。
「ほんとだね~。でも、なんか雰囲気が違う! 南国っぽい!」とミリス。
いや、二人が行った世界じゃないし。別の世界球だし。こっちにも、ハワイ王国があるのは偶然だ。
「ほんとね。ずいぶん私の国とは違いますね」とマリ王女。
「はい、お嬢様。これは私たちのハワイ王国ではございません」とメイ。
「そりゃ、別の世界球だからな。別のハワイ王国だ」
「別のハワイ王国。では世界Bでお願いします」とマリ王女。
なんじゃそりゃ。って、他人のこと言えないか。ちょっと安易過ぎるかな。まぁでも、世界球は恒久的にある訳じゃないからいいだろう。
マリ王女のハワイ王国と同じように列島になっているので地形的に言うと世界Hに近い。
「ほら、私じゃない王女がいるみたい!」そう言った途端にマリ王女が転移した。
「あ、あいつしょうがないな!」
「お、お嬢様~っ」と言って、メイも転移する。
「ど、どうしよう」とラン。
「しょうがない、連れ戻しに行くか!」
「そうしましょう」とフラル。
「お約束ですね」とミリス。何故か嬉しそう。
* * *
「きゃ~~~~~っ」
俺は予想通り耳を突き抜けるような黄色い叫びで目がくらくらした。今までで一番デカい叫び声だった。練習でもしてたのか?
「なぁに? どういうこと?」
見ると、俺の右隣には目を大きく見開いたパジャマ姿の少女がいた。
「やっぱり、こうなるよな?」
少女は、まじまじと俺を見た。
「あなたはいったい何者ですか?」
忍者ですって言いたい気持ちを何とか抑える。
「ええと、ここは」
「私のベッドです」だよね。
「い、いや、俺のベッドだろ」
ここで俺のベッドじゃないことになると俺の立場がないからな! これは死守せねばならない。よって俺のベッドである。
「う、五月蠅いです」こんどは俺の左側から声がした。
「ラン。なんでお前、寝てるんだ!」
「だって、気持ちいいし」
「私のベッドで寝ないでください」右側から謎の少女が注意する。
「こ、これは、私のベッドです!」とマリ王女。なんだか、とっても嬉しそう。言ってみたかったのか?
「そうです。お嬢様のベッドです」とメイ。こっちも、満面の笑み。やっぱりか~っ。
「気持ちいいわね~」とフラル。こっちは誰のベッドでもいいらしい。
「いい朝ね!」とミリス。こっちは、そもそもベッドなんて眼中にないらしい。
そういえば、無限回廊では時間の感覚がおかしくなってるからな。陽の光で起きるのは気持ちいい。
「えええ~~~~っ?」
謎の少女は、何が起こってるのか分からず、混乱するばかりだった。
すると、そこに一人の侍女が入って来た。うん、知ってた。
「お嬢さま、おはようございま……(昨夜はパジャマパーティーだったかしら?)」
「ユ、ユイ。ユイよね? 私よ。リリよ。分かるでしょ?」
「えっ? あ、はい。ユイです、お嬢様」
「そう。ユイ、これは私のベッドよね?」
もういいだろう。さすがに、ちょっと悪戯が過ぎるよな? ってことで、素性を明かして謝罪した。
* * *
「わ、分かって頂けたなら結構です。これは、わたくしのベッドです」
「そうね。私のベッドに似てるけど、あなたのベッドでいいわ」マリ王女は、まだちょっと納得していない模様。
それにしても、さすがに等価体の二人だ。マリ王女とリリ王女、それと侍女のメイとユイもそうだが、よく似ている。てか、気を抜くと間違える。
「間違えるんですね!」とマリ王女。
「間違えないで下さいませ」とリリ王女。
「間違えるなんてひどいです!」とメイ。
「すみません、私も間違えました」とユイ。うん、素直でいい。俺ユイが好きだなぁ。
「リュウ教官がユイさんに色目を使って……これは、ツウ姫教官に報告せねば」とラン。報告するな!
「お前、何言ってんの?」
「何かあれば、報告せよと」
「何もないだろ」
「何もなかったと報告します」
「よしよし」
「と、リュウ教官が言ったと」
「あほか!」
「教官! 空が燃えてる!」アホな会話をしていたら、フラルが空を指差して叫んだ。
フラルが指差した先には、こちらに向かって飛んでくる巨大な火球が禍禍しく浮いていた。




