79 新たなる方針
天の川銀河の過密領域通過という危機的状況を受けて、多重世界研究協議会は新たなる方針作成を迫られていた。
「確かに危機的状況ではあるが、そうは言っても我々の世界は先日の赤色世界球のようなことにはならないんだろう?」とホワン。
「現在、天体観測関連機関に警鐘を鳴らし観測強化を依頼しています。ですが、通常の観測でも巨大小惑星の補足は十分可能だと思われます」各地に連絡を入れたレジンが言った。無限回廊調査隊予報部の報告である。
「うん、そうだよな」ホワンは安堵する。
「ただし、それは巨大な物体の場合だけです」とレジン。
「それでは、だめなのか?」
「はい。小さくても地球との相対速度が大きい場合は非常に危険です。しかもサイズが小さい場合、補足は難しいと思います。観測機器が十分ではないのです。太陽系の進行方向を向いている望遠鏡は少ないのです」残念そうに、レジンは言った。
「進行方向?」
「そうです。端的に言えば北極星を向いている望遠鏡が少ないと言うことです。実際は地軸が傾いていますので少し違いますが」
「なるほどな。あの方向か。使えるのは北半球の高緯度の国の望遠鏡くらいか」
「向いていたとしても通常は別の目的で使っているわけです。もちろん、異常があれば報告してくれるでしょうが、それに期待してるだけではダメです。新たに専用の機関を設立すべきです」とレジンは訴えた。
「しかも内密にか。分かった。その点は上に強く要請しておこう」とホワンは応じた。
* * *
「で、上への警告はいいとして。今後の我々の対応をどうするかだな」とホワンは今日のテーマである多重世界研究協議会の方針の話を始めた。こちらは天体観測はしないからな。
「はい。我々としては、無限回廊の様子が分かってきましたので、有色世界球の観測に集中すべきかと思います」とレジン。
「有色世界球か!」とホワン。
「はい。白色以外の光球です。赤色世界球が最も危険と思われますが、他にも色の付いた世界球があります。この世界球の動向を探る必要があると思います」
赤色以外の色の意味が、まだ解明されていないからな。単純な危険性の違いだけとは限らないからだ。
「それは、過密領域に突入する世界の監視にもなるのか?」
「多重世界のどの地球も、今は過密領域に入っている筈です。異常があれば分かると思います」
「そうか! そうだな。参考になる似たケースもあるだろうな。期待しているぞ!」
「ですが、観測機器と要員が全く不足しています」
「うう、そうか」
「早急に対応すべきです」とレジンが締めくくった。
「なるほど分かった。体制強化と予算の増額を申請しておく」とホワン。
「お願いします」
というわけで、また忙しくなりそうだ。
* * *
とりあえず、今いる支援隊を倍増することになった。支援隊員も地上にいる時は教官になってもらう。ということで、調査隊員と支援隊員のペアで新規支援隊員の育成に当たることになった。
「教官! よろしくお願いします!」と地上勤務の支援隊員が俺の副官としてやって来て言った。
「ラン、お前か」
「はい、頑張ります!」と元気はいい。まぁ、いいだろう。
「それで、新しく募集した候補生だが」
俺は、俺のチームに割り当てられた候補生を見た。
「世界F出身フラルです。よろしくお願いします」
「同じく世界F出身ミリスです。よろしくお願いします」
うん、知ってたよ。だって、世界F2に行きたくないとか、ごねるんだもん。「ぜひ、調査隊のみなさんと仕事をさせてください」とか言って。
「わかった。よろしくな! それはいいとして」
「世界H出身マリです。よろしくお願いします」
「同じく世界H出身メイです。よろしくお願い致します」
うん。そうだよな。世界Hへ遊びに行った帰りについて来てしまった。
転移トリガーを使うタイミングで本人が希望すると転移出来てしまうのだ。確かに、今までもそうだったかも知れない。てか、帰らないし。帰ろうとしないので強制出来ないんだよな。
転移って、民主的なんだな。
「本当に、やるのか? 危険がいっぱいなんだぞ?」
「はい。王女たるもの世界Hの代表として必ずお役に立ちます!」とマリ王女。
確かに、そう言えばそうなんだが。てか、立派な事言ってるけど楽しそうなのが隠せてない。
「はい。お嬢様だけに、その責務を追わせるわけにはいきません。私も、頑張って夜這い……じゃなくて仕事に励みたいと思います」とメイ。
ホントかよ。俺たちの仕事、分かってるよな?
ちなみにこの四人。世界Hへの休暇のときに妙に仲良くなったようだ。どうも、そのとき一緒について来る相談をしたらしい。まぁ、仲良くていいんだけど問題児かも。
というわけで今回はチームに候補生四名と少なめだ。教官が増えたので全体としては前回と変わらない。まぁ、内密に募集をしているので何処もこんな風に関係者ばかりらしい。これ以上の増員は無理かもな。
* * *
その日、俺は支援隊候補生を集めてレクチャールームで教えていた。
「こ、これが防護スーツ……」とフラル。
「ちょっと、あれね?」とミリス。あれってなんだ?
「わ、わたくし、ちょっと予想と違いました」とマリ王女。
「お、お嬢様、私もです」とメイ。
「そこ、変にもじもじしない」
こっちが、恥ずかしい。ま、気持ちは分かる。慣れるまでは違和感あるものだ。
「みんな、だめねぇ。こんなのは、レオタードと同じよ。レオタード」とランは胸を張る。
「れおたーどって、なんですか?」とフラル。
「わたくしも、知りません」とマリ王女。
どうも、どっちの世界にも無いようだ。世界Fって、どんな世界だったんだ? そういえば、見てないな。恐竜が普通にいるとか言ってたし。後で見ておくべきか?
「いや、それはシンプルモードの衣装だろう? ちゃんと、好みの恰好に出来るんだぞ?」
「えっ? そうなんですか?」とラン。そういや、こいつら知らないか。無限回廊にしか行かないからな。
「服装モードには、こんなのがある」
俺は教室のスクリーンに防護スーツの服装モード一覧を表示した。大画面なのでサンプル表示付きだ。
<防護スーツの服装モード>
シンプル、フォーマル、カジュアル、スペース、忍者、アイビー、和服
「これは一応カテゴリーだ、それぞれで何種類か選べる」
「きゃ~、なにこれ! 可愛い~っ!」まっ先にフラルが食いついた。
「普通にカジュアルもいいじゃない!」とミリス。彼女はちょっと大人だからな。
「わたくし、プレッピーのカジュアルにします」とマリ王女。
「では、私もお嬢様とお揃いで」とメイ。
「忍者ってなに?」と、ラン。
「ああ、それは、なりたい服装があったらコピーできる機能だよ。目の前で着ている人がいないとだめだけど」
「へぇ! すご~いっ」と候補生と一緒に喜ぶ副教官。い、いいけどな。
* * *
服装も決まって、いよいよ訓練だ。
「はい、集合~っ」
俺は潜水プールに候補生を集めた。急増なので防護スーツの訓練からだ。
「ラン、なんでそっちに並んでるんだ? お前こっちだろ?」
「あっ、いっけな~いっ。てへぺろ」
「おい」
ちょっと、この後の訓練が心配になって来た。




