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多重世界の旅人  作者: りゅう
創造者の世界編
78/128

78 危機の連鎖

 世界Fの分離現象に遭遇した翌週の多重世界研究協議会は大騒ぎとなった。


 まず、稀な現象だと思っていた赤色世界球分離が、思った以上に頻発していると判明したからだ。

 なにしろ、この三か月ほどで二度も発生したのだ。まるで無限回廊における台風である。しかも、最大クラスの。思った以上に予報部は忙しくなるかも知れない。


 次に、天の川銀河の過密領域の危険性を知ったためである。

 まず、この認識が全く無かった各世界の上層部が慌てた。そんなことは、危機管理項目として存在していなかったからだ。せいぜい、隕石飛来の危険性が雑誌の話題に上るくらいだったのだ。だが、定期的に遭遇する危機ならば遭遇する確率は急上昇する。当然、準備しなければならない。それも、惑星規模の危機なのだから、ただ事ではない。

 それでもこれが過去の大量絶滅や千年先の危機であれば驚きではあるが時と共に関心も薄れていっただろう。だがそうではないのだ。現在進行形の危機なのである。


「世界Fの人からの情報ですと、この過密領域にある小惑星は水を多く含むことが多いようです」リジンは、彼等が救助した世界Fの人間から聞いた情報を披露した。

「彼等は、岩石惑星だった地球に水をもたらしたのも、この過密領域であると考えているようです」


 なるほど。一般的に地球や火星のような岩石惑星には通常水がないと言われている。事実、火星に海はない。しかし地球には海がある。この水の存在が生命の起源であり、現在の地球を作ったと言える。その要因が、この過密領域だということか。過密領域通過は災害であり、同時に恵みでもあるという訳だ。


「対処する方法は別として、そういう認識を持ってもらう必要があるでしょう」リジンが言った。

「ただ、その情報を広めて大丈夫でしょうか?」レジンが言った。確かに、外部から来た情報だ。最悪分離現象を引き起こす元になる可能性がある。

「そうですね。一般人まで知らせる必要はないでしょう。恐らく対処する方法も簡単ではない筈です。対処法を模索する為だけなら既存の考え方を発展させればいいでしょう。それは単に評価を変えるだけで済みます」とリジン。


「情報が局所的なら安全というのは、本当か?」ホワンが疑問を呈した。


「これも世界F人からの情報ですが、小惑星を発見して実際に動き出したのは半年前だったとのことです。そして異常な確率風を吐き出し始めたのは直前でした。なんとかなる確率が少しでも残っている内は許容されるようです。つまり、この件に関しては情報伝達は分離現象にあまり関係ないと思われます」とリジンが応じた。


「なるほど。情報や対策は今回の世界球分離の原因ではないからな。むしろ活動していたから分離の時期が遅れたとも言える訳だ。わかった。ただ、だからと言って俺たちの世界で情報を広めていい事にはならないからな。慎重に行こう」とホワンは言った。


 話題が話題だけに簡単に結論は出そうになかったが、ひとまず世界の上層部には詳細を報告しなければならない。ホワンたちは、各世界の代表に報告に行った。


  *  *  *


 昼食後、俺たちは談話室で話していた。もう、殆どやることはない。後は上層部の判断と、対策が決まるのを待つだけだ。それは、それぞれの世界の政治的な話だから俺たちの出る幕ではない。


 ただ、空間転移研究所に関係する課題が無くなったわけではない。世界球分離に直接関係してはいないが新たな発見があったからだ。


 一つは、白球U0002を調査中に周囲の空気が薄かったことだ。つまり、他の白球より気圧が低かった。それは、あたかも準備が間に合っていないようだった。ということは、活動中の白球と休止中の白球があるのかも知れないということだ。


 それから、もう一つがツウ姫が見たという人影だ。もちろん気のせいではない。実際、戻ってから空気の成分を調べてみたが、微かに香水が検出された。それは誰かがいたことを示している。つまり俺たち以外の人間が無限回廊で活動しているということだ。


「休止中の白球については、全く使えなかったわけじゃないから問題という程ではないだろうな」


 俺はそう言って、無限回廊土産の俺の世界Rにしかないスナックを口に入れた。ふと懐かしくなって生成してみたのだ。


「へぇ、結構いけますね」ビシャムが暢気に食べた。


 これは最近の支援隊や調査隊のトレンドだ。無限回廊ステーションでは自分の世界の高級品などがいくらでも食べられるのだが、物理生成したものは持ち帰れないと思っていた。だが、大きなものは無理だったがスナック程度なら持ち帰れることが分かった。無制限に使用されないように制限しているだけなのかも知れない。


「これもいいけど、リュウの世界のコーヒーを飲みたいな」とユリが言った。


 物理生成では、一度成功すれば誰でも出せるのかと思ったらそう単純な話ではなかった。対象物を特定できる情報は必要らしい。特に植物の品種などの特定は難しいようだ。


「ああ、あれは俺の世界でも貴重品だからな。また持って来よう」


「それにしても、問題は、あの人影よね」メリスがカップを見つめながら言った。


「そうだな」

「そうですね。ただ、特に困っていませんし用心するということでいいのでは?」とビシャム。

「それもそうか。問題を増やしても仕方ないしな。上には報告したんだし、ほっとくか」


「それより、フラルたちの扱いじゃない?」とユリが言った。

「扱いって? 不干渉主義だから、希望の世界に送るだけだろ?」

「そうじゃなくて、いつまでも隔離は可哀相ってこと」とユリ。


 ずっと一緒にいて愛着が湧いたようだ。


「そういうことか」

「あの、私は特に……」と、聞いていたフラルが困惑気味に言った。


 彼女は俺たちと一緒に世界ゼロに来ている。

 リジンたちが見つけたミリスという名の女性もいる。隔離と言っても俺たちと一緒なら問題なく移動出来るのだ。


「折角来たんだし、この世界を見ておくか?」


 普通出来ない観光が出来るからな。別世界観光だ。


「いいですね!」ビシャムも行きたいらしい。お前の希望かよ。

「それいいわね! リュウにしては上出来よ!」とメリス。

「私も一緒にいく!」とユリ。

「なら、わらわも行くぞ。この世界を見てみたいのじゃ!」とツウ姫。


「じゃ、たまには観光するか! あ~この世界を知ってる奴のガイドが必要だな。メリスか?」

「いいわよ! 何処に行くか考えましょう!」

「私も考える!」とユリ。


  *  *  *


 季節が八月ということもあって、俺たちは海へ行くことになった。

 おなじみの西之島でもいいのだが、無人島なのでサービス施設が全く無いからダメだ。それで結局ハワイに行くことにした。


「ハワイなら、ハワイ王国に行こうよ!」とメリスが言い出した。世界ゼロじゃないのかよ。

「そう。久しぶりにマリ王女に会いたいし」とユリ。うん、そうだよな。相手はそう思ってくれないかも知れないけどな。

「いいのじゃ!」


 三人の意見で世界Hのハワイ王国へ行くことに決定した。なぜか、この三人を敵に回す奴はいない。


「ハワイ王国ですって?」


 フラルとミリスの二人は、驚いていた。どうも、この二人の世界にハワイ王国はないらしい。まぁ、俺の世界も同じだが。


「俺も、観光したかったところだ!」


 みんなの意見が一致したので俺たちは翌朝ハワイ王国へと転移した。もちろん無限回廊経由である。


  *  *  *


「きゃ~~~~~っ」


 俺は、耳を突き抜けるような黄色い叫びに飛び上がった。


「なんだ? どうした?」


 見ると、俺の右隣には目を大きく見開いたパジャマ姿の少女が居た。


「なんだ、お前か」


 少女は、まじまじと俺を見た。


「あなたこそ、またですか?」


「うん? やっぱここは!」

「私のベッドです」

「俺のベッドだろ」

「わらわのベッドじゃ」とツウ姫。

「私のベッドよ」とメリス。

「私のだってばっ」とユリ。

「わ、わたしのかも」とサラが妙に嬉しそうに言う。

「私ですよね?」とフラル。何故か話を合わせている。

「私のです」とミリス。


「ちょっと、メンバーが違いますね」と王女。


 さすがに、二度目だ。落ち着いてるな。


「色々あってね」

「後で、お話を聞かせて貰いましょう。とりあえず、ようこそ~!」とマリ王女は飛びついて歓迎してくれた。


 そんなふうに俺たちが再会を喜んでいると、あの侍女も登場した。


「お嬢さま、おはようございま……(なにこれ?)」


「メイ! メイよね? 私よ。メリスよ。分かるでしょ?」

「えっ? あ、はい。メイです。ま、皆さん! また夜這いですか?」


「だから、夜這いじゃないし。朝だし」とメリス。

「朝這いですか?」今日は食いつくな。


 もちろん、リジン、ビシャム、ヨセムはベッドの下である。


 こうして、ひさびさにハワイ王国で休暇を楽しんだのだった。


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