77 遭難者救助
翌朝、確率風がなんとか収まったことを確認し、俺たちは支援隊と連携して遭難者の捜索活動を開始した。
「確率風で飛ばされた人が白球にたどり着いている可能性は高いわね」とメリス。この世界Fの場合は、空間射出装置を使っているからな。
「そうだな。うまく、白球の機能を引き出せたらいいが。パニックを起こしている場合も考えられる。急ごう」
例え白球にたどり着いたとしても真っ白な世界に閉じ込められたと勘違いしてしまう可能性はあるし、白球の機能に気付かないこともあるだろう。
「みなさん、ありがとうございます」
フラルはそう言ったが、実際のところ生存者がいる可能性は全く分からない。無限回廊に入れば白球が取り込みそうだが無限回廊に入れる可能性そのものが低いように思う。ただ、誰もそのことは言わない。
フラルを一人にする事も出来ないのでユリに一緒にいてもらい、俺とメリス、ツウ姫の三人は近くの白球を探すことにした。高速で移動することが出来ないのが辛いところだ。
* * *
俺たちが向かったのは白球U0002だ。フラルが到たちした白球U1002と世界Fとの中間に位置している。もっとも遭難者がいる可能性のある白球だ。
さすがに世界Fは分離したばかりの光球なので、白色ではあるがまだ確率風を噴き出していた。俺たちは上流に向かう船のようにゆっくりと飛んで行った。
「そうそう、都合よく居たりしないよね?」飛びながらメリスが正直なところを言った。
「どうかな。沢山の人が転移しようとしてたみたいだし、近場なんだから数人くらいいてもおかしくない」
「白球ってどのくらい間口を開いてるんだろ?」とメリス。
確かに、それは分からない。俺たちが勝手に取り込まれた経験は無いので、意識しない限り勝手に取り込んだりしないかも知れない。そうなると、自動的に救助するのは白球と重なった場合くらいか?
「どうでもよいが、もっと早く飛べないものかのぉ」俺の前を飛びながらツウ姫が言った。
「お前、何気に俺より早いよな」
「そうか? 小さいからかのぉ?」
そんな事をいいつつ、すっと先へ行ってしまうツウ姫。それを見ていたら、ちょっと追い抜きたい衝動にかられた。しかし、いくら力を入れても速くならない。
「リュウ、顔赤いわよ。私と二人でいて恥ずかしいの?」メリスが目ざとく見つけて言った。
「なんでだよ!」
「ふふふっ」
「リュウ!」先行して白球に取り付いたツウ姫が叫んだ。
「誰かいるのじゃ!」
「なんだと~っ!」
「ホントにいるんだ」
俺たちも遅れて白球にたどり着いた。
「三人いるのじゃ!」と言って白球を覗き込む。釣られて俺たちも覗き込んだ。だが、誰もいなかった。
「えっと、何処に?」
「見えないね」
白球の中に人影は見えなかった。人影と言うか何も。
「お、おかしいのじゃ。確かにいたのじゃ」とツウ姫。
「そうか」と言って俺は周りを見た。外に転移しているかもしれない。
「誰もいないな」
「そ、そんな筈はないのじゃ!」
「分かった、落ち着け。とりあえず入ってみよう」言って、俺は中に転移した。遅れて二人も入って来た。入ってすぐに分かった。今まで人がいたという気配がした。軽く香水のような匂いが残っていたのだ。
「誰もいないね」とメリス。
「ああ、だが今までいたのは分かる。俺が来た時、香りが残っていた」自分で香水を使わないので、よく分かるのだ。
「ほんと?」とメリス。
「そうであろう?」とツウ姫。
しかし、白球の外に転移したのでなければ、何処へ行ったのだろう?
「どんな人だった?」と俺はツウ姫に向かって言った。
「そうじゃのぉ。確か、一人が床に倒れていて、二人が様子を伺うようにかがんでいたようじゃ」
「かがんで? 治療でもしていたのかな?」
「そうかも知れんのぉ」
「しかし、そんな状態からなんで急に転移できるんだ?」
「おかしいわね」
「ここの空気の成分分析から何かわかるかも」俺は、自動で働いている分析データにマーキングした。これで後ですぐ読み出せる。
「誰もいないんじゃ、仕方ないな。そんな転移技術があるのかフラルに聞いてみよう」
そんなことを言ってみたが、今消えたのはフラルとは違う世界人のような気がした。俺たちがいるのだ、他にいてもおかしくはない。俺たち以外の別世界人が救助していったのなら有り難いことだ。出来ればコンタクトしたかったが。
俺たちは白球U0003まで行ったが誰もいなかった。帰りしな別世界人の存在について考慮するように地上のレジンたちへ連絡した。そして、白球U0001でも遭難者を一人発見したと報告を受けたのだった。
* * *
ステーションに戻ってフラルに世界Fの様子などを話してやった。世界Fはもう普通の光球になっていた。
「そうですか。わざわざ見て来てくれてありがとうございます」と、だいぶ明るい表情で言った。
「そう言えば、フラルの世界って移動のための転移技術は進んでたの?」気になってたことを聞いた。
「転移技術ですか? 世界を渡る転移技術以外にあるのですか?」
「そうだよな。いや、ちょっと気になっただけだ」通常の世界での転移技術があったとしても無限回廊で使えるハズないしな。
「で、フラルは世界F2に行くだろ? いつでも連れて行けるよ」
折角救助されたんだ、本来の転移先である世界F2に行きたいだろうと思って聞いてみた。
世界F2とは世界Fから転移して行った世界だ。もともと転移実験で交流があるとの事で転移先に決まったのだそうだから一番安心できる転移先だ。ただ、今の世界F自体には相似体がいるので行くことは出来ない。
「そうですね。それがいいでしょうね。でも、私だけ、こうして普通ではない体験をしてしまったんですね」とフラルが言った。まぁ、もう一人いるみたいだけど。
「そう言えば、そうね。あっ、私たちの世界へ来るのもアリだと思う」とメリスが言った。そうなのか?
「あ、そうそう。もしかすると世界F2とはコンタクトしないかもだって」とユリが言った。
「えっ? どゆこと?」
「レジンが言ってたんだけど、別世界とこれ以上コンタクトするのは危険じゃないかって意見が出てるんだって。救助はするけど送り届けるまでで交流はしないって」
「ああ、世界分離が起こらないようにか。それはそうだな」
「あの、私はどうしたら?」聞いていたフラルが、心配になったようだ。
「ああ、フラルは気にしなくていいよ。世界間の話だから」
「そうですか」
「フラルは希望通りの世界へ転移出来るよ」
「わかりました。ありがとうございます」
世界間の連携は現在でも最小限に抑えている。まだまだ駆け出しの俺たちの世界が、勝手に動き回るのは止めたほうがいいのは確かだな。
「もう、食事の時間なのじゃ!」
そうだな。ここは今から会議室ではなく、食堂である。数少ない楽しい時間だ!




