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多重世界の旅人  作者: りゅう
無限回廊編
72/128

72 確率天気と確率の帆

 ユリとサラが発見した方法を使った存在確率測定機だが、実際の無限回廊における光球の位置関係とほぼ一致することが分かった。多重世界銀河の中心方向の距離に相当していたのだ。また、確率風測定機も精密に計測することができるようになった。もちろん、どちらも無限回廊の白球に標準装備することにした。


 その日、俺たちは期待以上の成果に気を良くして食堂に隣接する談話室で

歓談していた。窓の外には新緑の浅間山が見えていた。


「天気予報?」俺が言った。

「無限回廊のね。確率風って無限回廊の気象でしょ? だったら天気予報のようなものが必要なんじゃないかと思ったのよ」とメリスが言った。


「何をするんだ?」

「だから、無限回廊の確率風の予報よ。世界球分離現象を予測したり、確率風注意報とか出したりよ」


 あまり考えていなかったので、ちょっと面食らったが、確かにそうだ。気圧みたいなもんだ。


「なるほど。確率の変動を観測して、天気予報のように分かりやすく伝えるのか。高確率圧とか低確率圧とかあったりして」

「あるかもよ?」とメリス。

「そうか? そうすると確率台風とか確率ハリケーンとかもか?」

「リュウが言うと、実現しそうね」とメリス。

「ほんと、ほんと」とユリ。


「風だけじゃなくて、雨まで降ったりしてな」

「ちょっと、それ笑えないんだけど」とメリス。

「絶対ヤバイ」とユリ。

「いや、そんな気配ないだろ。大丈夫だって」


 自分で言ってアレだけど、ちょっとヤバい気がするので話題を変えよう。


「でも、確かに確率予報は役に立つだろうな」

「でしょ? 主に無限回廊にいる調査隊や支援隊向けだけど、無限回廊から帰った人も、確率風は気になるんじゃない? 無限回廊の確率天気図みたいなものも必要じゃないかなぁ?」とメリス。


 横ではユリやツウ姫も頷いている。どうやら、みんなで考えたようだ。


「確率天気予報か。お前ら賢いな。まだ情報が少な過ぎるけど、白球に測定器ばら撒けば出来そうだな」

「そう! そうよね!」

「うん、分かってくれると思ったよ!」

「これで、わらわにも分かるようになるのじゃな?」


 どうも、ツウ姫が存在確率や確率風の測定値について聞いたのが元のようだ。でも、数値を教えられても誰も何も言えないよな。不完全ながらも、公式見解のような情報があればだいぶ違う。


「それ、面白いですね!」隣のテーブルにいたリジンが食いついた。

「これからは、白球で測定するデータが山のように集まるでしょうが、これを評価分析して発表する部署は、まだありませんからね。なるべく早く発足させるべきでしょう! 次の協議会には提案したいと思います」


「それ、支援隊と連携も必要になりそうだな。」

「そうですね。無限回廊調査隊本部の一部署として、無限回廊天気予報部のようなものを作りましょう」


 この無限回廊天気予報部設立の提案は、直ぐに承認された。確率風は今の無限回廊に於ける最大の懸念事項だからだ。


  *  *  *


 存在確率の測定機は、各世界の苔がその世界の存在確率を共有しているから出来たものだ。別の世界の同じ種類の苔は、その世界の存在確率を共有している。つまり、世界の存在確率はその世界の全ての物質が本来共有しているものらしい。

 ところが、俺たち転移体は、その成分を保持しつつも無限回廊の確率風に敏感な成分も持っている。その帆のような成分と本来持っている世界の存在確率とは違う成分なんだろうか?


 もちろん違う筈だ。転移体でないものは、確率風で別世界に飛ばされたりしない。だが、俺たちと一緒に無限回廊へ行っただけで転移体になれることが分かってみると、元々人間には転移体の可能性があるのではないかと思う。小さいながらも成分として持っているのではないか?

 俺たちと一緒に転移したことで、その成分が大きくなったのか? その成分は後から変えられるのか? 更に大きくなるのか? もしかして、一時的に大きく出来たりするのか?

 そんな考えが頭の中をぐるぐると駆け巡った。もし任意に帆を上げたり下ろしたりできれば、もっと気楽に転移できるし確率風が吹いていても問題なくなるかもしれない。


「相変わらず、面白いことを考えますね、リュウさんは」今日も談話室でリジンが言った。

「ほんとよね~っ、頭の中覗いてみたいわよ? もう、自分の世界に帰りたいから必死とか言わなくていいわよ」とメリス。なんか、ちょっと変人扱いされてる? 仲間だよな俺たち?


「えっ? いや、暇だったし」

「リュウは暇だと仕事を作る習性があるんだ」とユリ。

「作るだけな! 周りに優秀な人がいるからな! 後は任せた!」これは本当の事だ。


「それは、確率の帆を見付けろってことでしょうか?」その優秀なビシャムが興味深げに言った。

「そんな感じ」

「それって、転移装置が本来知ってるべきもののような気がします」こちらも優秀なトウカが食いついた。最近は転移先確定法を担当しているだけあって気になるようだ。

「そうだよな。今ある転移装置は確率風発生器みたいなものだからな。帆があれば風は弱くていい筈だしな!」これ以上は分からん。

「おおおおっ! 確率風発生器!」とトウカ。何故か感激している。

「そういうことか!」

「何が?」そんなに食いつく話か?

「つまり、台風ってことですね!」とトウカ。

「へ?」

「今言ってたじゃないですか。確率天気で台風がって」

「いや、言ったけど?」

「転移装置は、強力な確率台風発生器だったんですよ、きっと! しかも、方向も制御してなかったから、まさしく災害ですね!」トウカは興奮気味に言う。


「ああ、なるほどな。ただ、確率要素転移はそうかも知れないけど、空間転移はどうなるんだ?」

「そうですね。あっ。それ、台風の目なんじゃないですか?」とトウカ。

「ああ、台風の目から切り出してるのか。どうだろうな。ちょっと微妙」

「そうですね。ただ、その辺が定かでないから方向が制御できなかったんじゃないかな」とトウカも言う。


「転移体は自分の意思で転移先を決めてるけど、それって転移先にたどり着ける何かを構築するんだろうな?」ついでなので俺は思い付くまま言ってみた。

「えっ? なんのこと?」メリスが不思議そうに言った。

「あ、これ、リュウがヤバイ事考えてる気がする」とユリ。


「いや、行きたいと思ったところに行けるのは、何かひっかかりというかフックのようなものがある気がしたんだよ。キーかも知れないけど、何もなしで同じ場所に行けたりするのはおかしいだろ?」


「そうですね。確かに、転移先を決めた後は考えていないようですし、一緒に転移する転移体は考えてもいない。それなのに、一緒の場所に転移出来るのは謎ですね」と、これはビシャムだ。

「そうなんだよ。フックを作っているとか、あるいはそこで止まれるメカニズムがある筈だ」


 俺がそう言うと、ちょっと談話室は静かになった。それはそうだ、転移先の決定は、空間転移装置で最大のテーマでもあるからだ。


「存在確率の帆と、転移のフックですか!」しばらくして、トウカが何か決意したような顔で言った。

「転移先にリンクが貼られるのかも?」とメリス。

「ああ、ロープを張るように?」

「そう」

「そういや、光球にダイブする時、千里眼でやってるじゃん!」


「「「「「あっ」」」」」


「そうだった。あれ、転移してるんだった!」とトウカ。


 確かに、転移の見本がそこにあった。彼等は、無限回廊に行けないからピンと来ないのかも知れないが。


「流石に、白球にメカがあるとは思えないけど、転移したときの空間を調査することは出来るだろう?」

「そうですね!」とビシャム。


 今では、自由に転移出来るようになったのだから、いくらでも研究できる。


「空間転移装置の新しい解釈もありますが、まずは転移時の空間の調査を実施しましょう!」ビシャムは新しいテーマにちょっと興奮気味に言った。

「そう! 絶対何か見つかります!」トウカも興奮して言った。


「転移装置を使った時の確率天気図はどうなるんだろうな」

「そうですね! まさしく、この世界だけで測定していてもダメなのかも知れませんね」とビシャム。

「うううう! やることが、いきなり増えた」とトウカ。

「でも、やはり一番はどうやって目的地にたどり着くかですね」とビシャム。

「そうだよな。飛ばすことは出来てるんだから、たどり着ければとりあえずOKだもんな」

「まぁ、帆を張る方法も分かりませんし、目的地の判定も難しい」とトウカ。


「まぁ、確率が全ての世界だからな。確率のパターンとかで認識するのかもな?」

「確率のパターンですか?」とビシャム。

「うん、千里眼で特定できるような何かだ」

「それって、世界を選ぶのは世界の存在確率、場所を選ぶのはその場所の存在確率ってことですかね?」とトウカ。

「たぶんな。その場所の映像じゃないだろう。あるなら、確率要素の写真かも? 赤外線写真みたいに。あるいは確率天気図みたいな」と思い付きを言ってみた。

「ああ、モノクロ映像のような?」とトウカ。

「なるほど。目的地を特定するには使えそうですね」とビシャム。

「面白い!」とトウカ。そう言うと、トウカとビシャムは研究室へ行った。さっそく研究を始めるようだ。


「また、大きく進展しそうね!」とメリス。

「そうだな」と言って俺は冷めたコーヒーを飲もうとしたが、カップの中身は空だった。


「はい」それを見たサラがサーバーから注いでくれた。

「ありがとう」仲間はありがたい。

「そう言えば、グループで転移したときって連続して別の場所にも転移できるのかな? グルーピングされたままなのかな?」暖かいコーヒーを一口飲んで俺は言った。

「そのあたりも、詳しく調べる必要がありますね」とリジン。まぁ、これはやってみれば分かること。俺たちにとって、まだまだやることは山積みなのだ。


 無限回廊を使えるようになって、多重世界を分かったような気になっていたが、実際はまだまだ分からないことだらけだった。ちょっと反省。


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