71 自由転移
無限回廊ステーションでの一週間の支援隊訓練を終え、俺たちは世界ゼロに帰っていた。
候補生は、決められた訓練を終えているので最終確認が済めば晴れて正式に支援隊員になれることになっている。最終確認とは単独の自由転移のことだ。今までは自由転移が出来るとはいえ俺やツウ姫が必ず一緒に転移していた。何があるか分からないから訓練後でないと転移トリガーボタンは自由に押せないようになっているのだ。一週間安定して転移出来たことを確認してから単独の自由転移が許され、同時に支援隊員としても認定される訳だ。
「これが終われば、私たちも晴れて支援隊員よね!」候補生のランはお気に入りのケーキの付いたフォークを振りかざして言った。
「そうだね! 多重世界銀河を渡り歩けるなんて夢みたい! 宇宙で宇宙人を探すのは大変だけど、この多重世界銀河なら確実に人がいるしね!」とミル。
「覗ける」ぽつりとスズ。
「そうだな! 誰もいない世界もあるのかも知れないけど、覗けばわかるからな!」とトシオが応じた。トシオはケーキを食べていないのでスプーンを振り回している。この世界の人間はマナーが悪いぞ?
「あ、トシオは覗き禁止ね」とランが言う。
「何でだよ」
「悪用しそうだから」
「むっ」
「そんなこと言っても、禁止できないでしょ?」ケリーがトシオを擁護するように言った。
「そうだけど、禁止。あ、ケリーは覗かないから別にいいわ」
「酷い!」
「文句あるの?」
「い、いや、いい」
「あはははは」シンは、ただ笑っていた。
「それにしても、転移ってやっぱりワープなんだな」トシオが候補生の講習を思い出しながら言った。
「直接のワープじゃないけどね。無限回廊経由だけど千里眼で行き先を探せば自由に飛べるね」とランも同意する。
「確かに。でも、いつでも使えるわけじゃないのが難点だね。確率風が強いときは無理だから」とケリーは言う。
「うん、そうなんだよな。あと、転移でどれだけの物を持っていけるのか、まだ分かってないらしいぞ」とトシオ。
「何か、問題あるの?」とランは不思議そうに言った。
「そりゃお前、バッグ程度ならいいけど、宇宙船を操縦しながら転移できるかどうかは大問題ってことさ」とトシオ。
「へぇ~っ、宇宙船ね~っ。そんなの買えないでしょ?」
「いや、夢の話だよ」
「どうかなぁ? 実験はすると思うよ。どこまで持っていけるのか」とラン。
「転移トリガーが出来るまでは大人数だと転移し難かったって言ってたから、きっとパワーが必要なんじゃないかな?」とケリー。
「あ、そうか。そりゃ、そうだよな」とトシオが残念そうに言った。
「トシオは、宇宙開発に使いたいんだ」とラン。
「そりゃ、多重銀河と普通の銀河の両方を飛び回れたら凄いだろ?」とトシオ。
「そうね。でも、訳分かんなくなりそうだしなぁ。どう思う?」とランはミルに振った。
「う~ん。普通の銀河のほうは岩だらけか灼熱の世界か極低温の世界ばっかりじゃない?」
「それは……確かにそうかも」とトシオ。
「宇宙船、イラナイ」スズがぽそっと言った。
「うん? そうか、スズの言う通りよ! この身一つでワープ出来るんだから必要ないじゃない」とラン。
「そういえば、そうだった。防護スーツが宇宙船と言うべきかもな」とトシオも納得したようだ。
「そうね」とラン。
「俺、宇宙船と合体してたのか!」
合体なんだ。そういや、宇宙服に高速移動やワープの能力があるような物は、あまり見ていないかも。もっとも、某宇宙人はその状態だったと言うべきかも知れないが。
* * *
無限回廊ステーションの談話室には、単独の自由転移に成功し意気の揚がる候補生が集まっていた。
「何処へでも行けるとなったら、最初に行くのはやっぱり!」ランが言った。
「ケーキ屋さんよね!」とミル。
「ここは外せない」とスズ。
「なのじゃ」何故かいるツウ姫。
そんなわけで、一行は仙台で評判のケーキ屋に転移した。スズお勧めの店だ。店の二階には小さいテラスとテーブルがあり、仙台の海を眺められるようになっている。初夏の涼しい風が気持ち良く抜けていった。
無事に支援隊員になれたので、そのお祝いである。ってことで、俺も誘われて一緒にスイーツを食べに来た。もちろん、トシオ、ケリー、シンも一緒だ。
「ワープとは言っても、2ステップなのがちょっと残念なところよね」『本日のスイーツ』を軽く平らげて、追加のケーキを注文したランが言った。
「でも、行先を細かく決める必要はあるわけだし、転移する前に決めなくていいのは逆にいいことかも?」とミルが言った。確かに、それは言える。
「そうだよな。とりあえず無限回廊に飛び込めるのは有り難い」とトシオが言った。
「まぁ、確率風が弱ければね!」とケリー。もちろんだ。
「いきなり白球に飛び込めたらいいのにね」とミル。
「そうだな。安全地帯だし、必要なものは全部あるし」
無限回廊ステーションが無かったとしても、安全地帯なのは同じだからな。
「あれ? 確率風が強かったとしても、一瞬で判断して白球に飛び込めば大丈夫なんじゃないか?」とケリー。
「どうかな。その一瞬がどのくらいの時間かだよ。飛ばされて白球が見えなくなる前にダイブできるかどうか」とトシオ。
「やっぱりいきなり白球にダイブ出来ないとダメだよね」とミルが言った。
「無限回廊に出るのは転移トリガーの機能だからなぁ。いきなり白球に入るのは無理だろう?」とトシオ。
「どうでしょう?」ミルはそう言って俺を見る。
俺は今、やっと来たケーキに忙しいんだけど?
「俺に聞くなよ。俺は研究者じゃない。支援隊は研究者だぞ。まぁ、でも出来そうな気はするな」
「ですよね!」とミル。
「ただ、ちょっと方法が思い付かないが。転移トリガーは、世界球から弾き出してるだけみたいだしな」
「ですよね」とトシオ。
「まぁ、マニュアルが翻訳出来たら何か分かりそうだが」絶賛翻訳中だからな。
「そうですね!」うん、頑張ってくれ。
ちなみに、ツウ姫はスイーツに夢中で聞いてない。
午後のお茶の時間はとうに過ぎていて、陽は既に赤みを帯びていた。




