70 初めての支援隊
俺とツウ姫は第一次無限回廊支援隊の候補生を連れて無限回廊へ転移した。
「きゃ~、きれい!」ランが言った。俺たちのチームの第一声がそれかよ。
「きゃ~、かわいい~っ!」第二声も、負けて無いな。こっちはミルという名の候補生だ。
「わゃ~、おいしそう~っ」スズという名の候補生が言った。そうきたか。確かに、祭りの屋台で売ってる飴とか綿菓子を連想するもんな。
「食べたらおなか壊すのじゃ! うかつに飛び込むでないぞ!」ツウ姫の表現が面白い。
「「「御意!」」」約三名の男性候補生が言った。こいつら、歴史オタクか? てか、お前らに言ってないし。
無限回廊の感想はともかく、とりあえずこれで転移体になれたはずだ。全員世界ゼロの近傍に浮かんでいるので世界球まで引き連れて戻った。
この日は転移体の確認作業をして訓練終了である。
* * *
翌日から、いよいよ本格的な訓練が始まった。
「それじゃ、まず避難場所の白球に移動するぞ! あの白球に集合!」
俺は、防護スーツのサーチライトで近くに浮いている白球を指した。最初なので、まっさらの白球だ。つまり、まだ無限回廊ステーションを入れていないものだ。
候補生はフワフワと白球に向かった。初めの頃は回廊内で高速に移動することは難しい。移動速度が遅いのではなく、目標が上手く定まらずにジグザグに飛んでしまうからだ。
全員が白球に移動したのを見てから俺とツウ姫も追って移動した。
「白球でも世界球でも中に入る方法は同じだ。ただし、世界球の場合は千里眼で目標を決めるが、何もない白球は飛び込むだけでもいい。少し離れた場所からでも目視出来れば入れる。じゃ、最初にツウ姫が見本に飛び込む。追って全員飛び込んでくれ。順番は気にしなくていい。じゃ、ツウ姫」
「分かったのじゃ! 行くぞ」
「「「御意」」」お前らな~っ。
「「「はい!」」」よしよし。
ふっ
ふっふっふっふっふっふっ
とりあえず、全員入れたようだ。避難さえできれば、後は何とでもなるから、これで一安心だ。まぁ、避難場所が避難する人間を選ぶ筈はないのだが保証はないからな。
白球の中では真っ白な世界に慣れていない候補生がびくびくしていた。まずは落ち着くことが大事だ。
「お前ら、まぁ、落ち着け。今、ソファとテーブルを出してやる」そう言って俺は、人数分のソファを出した。
「おお。これが物理生成ですね!」トシオが初めて見た物理生成に感激している。まぁ、普通そうだよな。手品じゃないし。
「凄~いっ! まるで魔法みたい!」ランも同様だ。実際、技術が分からないから魔法と一緒だよな。
「しかも、とっても座り心地がいい!」これはケリーだ。それは、俺がそういうソファを知ってたからだけど。
「ほんとだぁ!」ミルは、はしゃいでいる。
「では、わらわがお茶を用意して進ぜよう」ツウ姫はそう言って、お茶のセットを出して皆に振る舞った。
「美味しい!」とラン。
「ほんと」とスズ。
「いい香りですね!」とミルが言った。
「玉露なのじゃ」とツウ姫は自慢げだ。
「かたじけない」とトシオ。
「有り難き幸せ」これはケリー。
「この上ない僥倖」
お前ら、時代劇の見すぎ。
俺たちは、無限回廊でお茶しつつ、白球の使い方などを教えた。まずは無限回廊と白球に慣れることが大切だからな。無限回廊ステーションを使うのはそれからでいい。あれは、俺たちが作ったものだし、オリジナルを地上で見ているので特に教えることもない。
* * *
白球に慣れたので、俺たちは無限回廊ステーションのある白球に移動した。ステーションについては、地上で練習していたこともあり特に問題はなかった。伊達に難関を突破していないと言うわけだ。
「それより、リュウ教官! 記念撮影しましょうよ!」いきなり、ランがそんなことを言い出した。とりあえず今日の予定はクリアしているし、問題無いのだが。
「記念撮影?」
「そうです。無限回廊始まって以来の記念撮影です!」ランはそんなことを言った。
ま、確かに。それどころじゃなかったからな。
「なんだ。古風な習慣が好きなんだな」最近は、あまり記念撮影というものをしていない気がする。
「記念撮影とな?」ツウ姫が面白がっている。
そう言えば、あの時代からのギャップが凄いことになってるツウは良く平気だなと思う。こんな古い習慣もツウ姫にとっては新しい習慣だろうに。
「よし、撮るか」
俺はそう言って、無限回廊ステーション中央の転移室や観測球などで撮影した。
確かに、記念撮影と言うものも意味があると思った。動画などもあるが、全員にピントが合ってる映像は意外と少ないものだ。全員の顔を見たいときには便利だからな。
「外に出て、無限回廊の世界球の海も撮ろう!」とラン。
「いいのぉ」自分の端末に転送してもらった映像を見て、ツウ姫は記念撮影が気に入ったようだ。個人的な写真が珍しいのか? 映像そのものが、まだ珍しいのか。
後は夕食までは自由時間だし、それぞれ好きにして貰った。こういう環境に来たのだから、なるべく気晴らしになることは推奨しよう。
結局、俺も連れ出されて、全員で白球前で記念撮影したのだった。写った画像を見る限り、俺も結構喜んでるらしい。思えば、自分の表情を見る機会は意外と少ないもんだ。記念撮影は、そういう表情を含めて撮るものだな。
* * *
無限回廊ステーションの食事は、宇宙食のような味気ない物とは全く違う。
普通にレストランで出て来る料理だ。何故かと言うと、空間転移研究所の食堂の料理そのものだからだ。つまり、物理生成でコピーしているのだ。既に、お茶を始め多くの料理や食料を生成しているが全く問題無かった。もちろん、成分スキャンは必ず実施している。
それで、通常は食堂の料理そのものが出てくるわけだが、さらに無限回廊特典として某有名店の料理なども出している。しかも一度出したものは何度でも出せる。
「この、今週のおすすめって、全部三ツ星レストランの料理じゃない!」
ランが、目を爛爛とさせてテーブルに並べた料理に飛びついた。
「なんでも、研究所の方にどうぞって、オーナーが提供してくれたんだって!」ミルは、情報通らしい。
「しかも、今日が最初」とスズ。って、知ってるんだ。
「そうなの? じゃ、私が世界で初めて食べたのね!」
「ざんね~んっ、俺が先に口に入れた!」とトオル。
「でも、買ったのは私だもん」
「口に入れた者の勝ちだろ!」
「でも、飲み込んだのは私かもよ?」
「食べ終わったのは私!」とミル。なんだこれ?
「一番、味わったのは私」とスズ。うん、それだ! どうでもいいけど。
無限回廊ステーションでの生活は可能な限りいいものにしようとしている。なにしろ、世界を逸脱した場所にいるのだ。少しでも緊張を解く必要がある。白球に万能な物理生成機能があるのも当然なのかもしれないと、俺は思った。




