69 無限回廊支援隊2
いよいよ第一次無限回廊支援隊の教育が始まった。
今回は教官が正副2名で4チーム、六名ずつで合計二十四名を教育することになった。
俺のチームは、ラン、ミル、スズの女性三名と、トシオ、ケリー、シンの男性三名の構成だ。
「以上が、転移と無限回廊の注意点だ。転移に入る前に、防護スーツの使い方が出来ているかチェックするぞ。全員がちゃんと使えるようになるまで繰り返すからな。何か質問はあるか?」俺は候補生を前に教鞭を取っていた。
「はい! リュウ教官!」ランと言う名の候補生が手をあげた。
「なんだ?」
「リュウ教官は、三世界で初めて転移した人間と聞いていますが本当ですか?」
そういう質問かよ。まぁいいか、どうせ聞かれる。
「俺の知る限りでは、初めてだな」
「すっご~いっ! その時の転移って、今の転移と違いますか? 最初は大変でしたか?」ランは、転移が気になるようだ。
「あ~、まぁ、一人で知らない世界に転移したから最初は混乱したのは確かだな」
「やっぱり!」とラン。
「一人だしね」とミル。
「見知らぬ土地」とスズ。
「そこよ。自分の世界でも、知らない国に突然放り出されたら大変よね」
「私、パニックになる自信ある」とミル。
「絶対なる」とスズ。
「まぁな。ただ、最初の転移先が空間転移研究所だったから、事情が分かったのが大きい。全員協力的だったしな。すぐに仲間になれた」
「なるほど、それは大きいですね」とラン。
「確かに」とミル。
「最後に頼れるのは仲間」とスズ。
「それでも、怖くなかったですか?」とラン。
「そうだな。現象そのものが、全く未知の出来事だったからな。最初は恐怖より状況を理解するのが難しかった。誰にも分からないんだからな。謎だらけだ」
「謎だらけですか」とラン。
「謎ですか」とミル。
「謎の男」とスズ。
ツウ姫が何か言いたそうだが、今日は教官なので我慢している模様。
「状況を把握してからは、防護スーツのお陰でだいぶ安心できたがな。それでも何処に放り込まれるか分からないという恐怖は確かにあった」
「そうですよね~。突然海の底とか、地下深くとか、焼却炉の中とか、考えただけで恐ろしい」
うん、まぁ、そうだな。人間が転移して困る場所は、かなり多い。というか、人間が生きていられる場所は極少ないとも言える。その意味で、人間の存在確率のあるところへの転移で助かったわけだ。
「これからやってもらう無限回廊経由の転移は、行先は分かっているので安心していい。ただし、無限回廊自体は確率風があるし安全地帯という訳じゃない。無限回廊の創造者が白球という安全地帯を作るくらいだからな。かなり危険だということだ」
一同、真剣な目で聞いている。
「しかも俺達は安全地帯の白球すら解明しきれていない。つまり、まだ安全地帯は無いと思ったほうがいい。謎だらけの世界なんだ。安易な行動は慎むように!」
「「「「「「はい!」」」」」」
* * *
まずは、防護スーツの機能確認ということで全員に飛んで貰った。
いつものように研究所付属の広場を飛翔テストに使ったが、候補生は危なげなく、すいすいと広場の上空を飛び回った。防護スーツは正しく使えているということだ。
まぁ、これはテスト飛行と言いつつ、こちらの指示にちゃんと従うか確認しているだけだ。言うことを聞かない奴をあんな危険な場所に連れて行く訳には行かないからな。
「集合なのじゃ!」副教官のツウ姫が号令をかける。するとスパっと集合した。あれ? 俺が号令をかける時より動きがいい気がする。気のせいか?
「全員集合したのじゃ」ツウ姫が報告して来た。
「よし、ではこれから無限回廊に向かう。防護スーツを転移モードに変更!」
「転移モードに変更するのじゃ!」
候補生は一斉に「了解!」と叫ぶ。なんだか、みんな嬉しそう。これ、もしかしてツウ姫の効果? 俺のチームが人気だったようだが、それってツウ姫のせい? てか、よく考えたら、ツウ姫のほうが候補生より年下じゃん。まぁ、いいけどな。
転移モードと言うのは防護スーツに新しく追加されたモードだ。
一応、無限回廊では呼吸が出来るのだが保証されているわけではない。常に成分を監視していつでもスペーススーツモードに移行出来るようにしている。もちろんそれは通常時でも実施していることだが、転移モードでは成分分析が厳しくなっている。
それと、確率風の監視機能が標準になっている。これは、無限回廊で作業するには必須の機能と言えるだろう。逃げ遅れたら、どこまで飛ばされるか分からないからな。っていうか、どこに放り込まれるか分からないと言うべきか。少しでも異常が検出されたら、すぐに白球に飛び込むことになっている。飛ばされてからでは遅いからだ。
最初の訓練自体は無限回廊に入ったら、そのまま帰るだけだ。これだけで、転移トリガーで無限回廊へ入れるようになる。つまり転移体になれるわけだ。そうなる理由は分からない。特異な特性を獲得するのだと考えているが、まるで無限回廊に認知されたかのようで、ちょっと気持ちが悪い。何故それまで転移しなかった人間が、突然確率風に煽られるようになるのか早急に解明してほしいものだ。
「転移モードへの変更、完了したのじゃ!」ツウ姫が報告する。
候補生、全員が真剣な目で待っている。
「全員、腕を繋げ」
最初の転移では、念のため隣の者の腕を掴むことにした。転移先で、バラバラにならないためだ。両手だと何も持てないので、片手で隣の者の片腕を使む。
「繋いだのじゃ」最後に俺の腕を掴んだツウ姫が報告した。
「よし! じゃ、転移トリガー」俺は、左手を右手で掴むようにして手首の転移トリガーボタンを起動した。
俺達の目の前はすぐに暗転し、程なくして全員が無限回廊に浮いていた。




